猫が書きました（事実）

絶好調！

 新しいスーツを着て新しい車に乗って出かけた。秋晴れのドライブ。木々も道も、ゴミ箱さえもピカピカ光って見える。
 仕事も上向き。一昨日は初めてのコースで、バーディを3つも取れた。それも、思いを寄せるあの人の前で。

 絶好調。今の僕は絶好調なのだ。

 そんな絶好調男が帰宅し、手を洗い、うがいをし、顔を洗ったあとのこと。
「あれ？ あれれ？ 僕、こんな顔だったっけ？」
なんだかひどく疲れているように見える。絶好調男のはずなのに。

「おい、どうした。なんでそんなにやつれてる？」
鏡に向かってそっとつぶやく。
《すまない。少し体調が悪い》
鏡の僕が答えた。
「どうした。何かあったのか？」
《いや、特段何かあったわけじゃない。こういうことはたまにある。いつものことだ》
「そうか。気をつけろよ。ん？」
顔にシミができたように見えて近づいて見た。けどそれは僕のシミではなくて、鏡の汚れだった。

「ちょっと待ってて」
僕は棚からスプレーの洗剤を出し、鏡面全体に吹きかけた。2、3分待ってから水で流し、タオルで拭き始めた。
「ごめんな」
《どうした、突然？》
「僕、自分が調子がいいと、自分のことばかりになって周りが見えなくなる時があるんだ。それじゃだめだよな。掃除、忘れてたよ」

鏡の僕はフッと笑った。
《気にするな。人間ってなぁ、そういうもんだ。でもな、ノッてる時こそ周りに気を使えるのが、本当の意味での絶好調男だ。自分で気づいただけでも大したもんだ。成長したな》
「そ、そうかな。へへっ」
隅から隅まで丁寧に、一点の曇りもなく綺麗に磨き上げた。

 恐る恐る、鏡の自分をのぞいてみる。そこには……。
「おお、絶好調男。調子良さそうだな」
《お前もな》
向かい合って笑い合う、ふたりの僕。

「今日はもう寝るよ。じゃあ。おやすみ」
《おやすみ。風邪引くなよ》
「お前もな」