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勝利の女神:NIKKE 稗史:果てなき旅路 外伝 Love negotiator(3)


動植物の長く継続的な観察から至る所で続く生存のための努力を理解できた。そしてその状況下では好ましい変異は保存され、好ましからぬものは破壊される傾向があることがすぐに私の心に浮かんだ。この結果、新しい種が形成されるだろう。ここで、そして私は機能する理論をついに得た...

チャールズ・ダーウィン『自伝』


 地上に上がったニャンニャンは、適当に散歩しながらニケやラプチャーを探すことにした。
 ニャンニャンの力はエネルギーを雷撃に変換すること。ニケのコアでは限りがあった能力が、ヘレティックでは無尽蔵かと思わせる。
 バチバチと甲高い放電音を鳴らすと、忽ちラプチャーが寄ってくる。しかし、ニャンニャンを見ても攻撃はしなかった。当然である。彼女もまた、ラプチャーの手先であるヘレティックなのだから。つまり、ゾンビの中にゾンビメイクをした人間が紛れ込んでいるのと同じなのである。
 などと安心していると、いきなり銃撃された。
「ラプチャーだ! ラプチャーだ! ラプチャーだ!」
 件のニケはニャンニャンにだけ攻撃を加え、他のラプチャーには攻撃しなかったし、ラプチャー達も反撃しなかった。
 侵食個体だ。
 ニャンニャンは舌舐めずりすると、素手で相手の四肢を粉砕した。
(おそらくこやつはまだ自我があるのう、ならば)
「お主、もう自我がないな?」
 あえてこう問いかける。
「ラプチャーの言うことなんか聞くものか!」
「そうだ、言うことを聞け」

 ニケの心の中には闇が広がっており、冷たい牢獄に囚われていた。
「私の言う事をよく聞いてクイーンに忠誠を誓うのです」
 暗闇からは謎の声が始終このような感じで語り続けている。頭がおかしくなりそうだ。
 目の前では、真っ赤な目の私自身が中華風のニケを敵だと断じて攻撃を仕掛けたが、あっという間に手脚を捥がれていた。
 そしてそのニケはこう言うのだ。
「お主、もう自我がないな?」
 ニセモノの私が反論する。
「ラプチャーの言うことなんか聞くものか!」
「そうだ、言うことを聞け」
 私は悲しくなったが、違和感も抱いた。なんで、否定しないのだろうと。
「私の言う事をよく聞いてクイーンに忠誠を誓うのです」
 後ろの声も同じ事を言っている。おかしくなってもいいと言うのか?
 目の前のニケは続けてこう言った。
「お前はもう諦めろ」
「そうです、諦めなさい」
 心の中の私はかぶりを振って拒否する。
「うるさいうるさいうるさい! 絶対に諦めないぞ! ここから出てやるんだ!」
 そうだ。違和感の原因はこれだ。目の前のニケは私を励ますことなく迎合するように言っている。だが、それは逆の意味なのではないか?
 無論そうではない可能性もあるが、一縷の望みに賭けてみよう。彼女は徹底抗戦の意思を固めた。


「捕まえてきたぞよ」
「お帰りなさい、この子は特化型ニケだね」
「早速接木する、どれでも良いからボディの準備をせい」
「ええっ!? 経過を観察するって話じゃ……」
「今回はイキがいい。成功すればその時聞き出せばよかろう」
「うーん……じゃあこの子で行こうか」

 接木法。通常、頭部を全く異なるニケのボディにつけることなど御法度だ。しかし、すでにヘレティックと化したニケボディはニケとラプチャーの融合体そのものなので、適合しさえすれば簡単に再起動できることをエンデ達は発見した。植物の接木のようなのでそう命名された。
 適合とはすなわち、エゴの強さである。件の脱走したニケやニャンニャンのような個体は、元々のボディ由来の人格を根こそぎ破壊して上書きしてしまうのである。勿論逆の場合も大いにあり、ナノマシンを喰われて復活することもままあった。

「よし、お前は今から別のやつと同じ牢屋に入れられる。なんとかして討ち取ってこい」
 中華風のニケがそういうと、私の首を切断して別のボディに無理矢理接続した!
「ああっ!?」
 檻が壊れると同時に、別人が目の前に立っている。
「そいつはの、そのボディの前の持ち主じゃ。まぁ脳みその中ならヘレティックと言っても赤子同然なので、せいぜい足掻いて、そして勝ってこい」

「んあ……」
「ようやくか。遅すぎるの」
「おかえりなさい、よく頑張ったね」
 目の前には、中華風のニケと看護婦風のニケがいた。手脚を見ると違和感がある。これは私の手ではない。
「お前はヘレティックのボディを乗っ取った。故に、念じろ。そうすればそれはお前の意のままに姿形を変えるぞよ」
 言われるがまま、自分の理想像だったものを思い出す。首から下の形がみるみると再構築されていく。
 良かった、これで私になれる。
「して、お主の名前は? ああ、コードネームではないぞ。お主はMIA扱いじゃろうて」
「いきなりそう言われても……」
 私を構成するものをいきなり考えろと言われてもなかなか上手く思いつかない。部屋を見渡すと、ニケがもうひとりいた。私はその子を指差す。
「あのニケは?」
 ニケはニコニコ笑ったまま何も答えない。代わりに、優しい風が流れる。
「その子はウインドトーカー。耳が聞こえないのだけど、そのおかげで侵食されても自我を保っていられたんだよ」
「なるほど、もしかしてその子も私みたいに?」
「左様、お主で三番目じゃ」
 三番目……私の額に三つ目の眼が光る。
「今決めた。私はサードアイ」
「おめでとう」
「よくやったの」
 そして、つむじ風が巻き起こった。

 適者生存、自然淘汰。進化の最前線を行く者たち。彼女たちは自分たちを「ダーウィニズム」と定めた。

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