オフコース全曲分析みたいなもの(?) 愛の唄
楽曲について
個人的インプレッションみたいなもの
『ワインの匂い』収録曲で非常に人気の高い曲です。この曲を一番に挙げる方も多く、オフコース歴代でも上位に入る名曲と言えるでしょう。
ですが個人的には、初めて聴いた時は正直、あまり好きな曲ではありませんでした。今回改めて聴き直して、良さもだいぶわかるようになりました。
最初に聴いた時に感じたのは、オフコースにしてはずいぶんウェットな感じの曲だなと。『SELECTION 1973-78』でここまでに聴いた曲は、フォークテイストの残る曲であっても、かなりサラッとした印象のものが多く、中には人でなし寸前の歌詞だったり、もっと盛り上げても良いのにと思うような部分も、あっさり目のサウンドで流したりと、ドライでクールなイメージが強かったからです。
そんなドライな感じに惹かれたところもあったので、情感あふれる歌詞も、じっくり歌い上げるボーカルも、きちんと盛り上げるべきところで盛り上げるアレンジも、他の曲(と言ってもあくまで『SELECTION 1973-78』の範囲内ですが)に比べて、どうも重たく感じてしまったのです。
とはいえ、それがあったからこそインパクトも強く、多くの人に愛好される曲になったのだとも思いますし、改めて細かく聴いてみると、その作り込みの綿密さはかなりのものだと思います。
基本スペックみたいなもの
アルバム1975年12月20日リリース
『ワインの匂い』B面4曲目に収録
『SELECTION 1973-78』B面3曲目に収録
作者クレジットみたいなもの
小田和正/作詞・作曲・ストリングス編曲
オフ・コース/編曲
参加ミュージシャンみたいなもの
小田和正 Lead Vocal, Chorus, Acoustic Piano, Cembalo
鈴木康博 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar, Percussions, Harmonica
森理 Electric Bass
矢沢透 Drums
曲の全体構成みたいなもの
ピアノとハーモニカのみでイントロ → Aメロ(過ぎゆくは若き日々〜) → Bメロ(いつまでも変わらない〜) → B'メロ(ありふれた言葉を〜) → サビ1(泣きぬれてただひとり〜) → 間奏 → B''メロ(永遠の命も〜) → サビ2(めぐり来る季節にも〜) → サビリフレイン(泣きぬれてただひとり〜) → アウトロ
けっこう変則的な構成で、出だし部分のAメロ「過ぎゆくは〜」のメロディは導入だけで、そのあとは出てきません。
「いつまでも変わらない〜」の部分をBメロとしましたが、2番では前半部分の「永遠の命も〜」の後、「あなたに会えたこと〜」と、1番には無かったメロディの繰り返しが入る変則的な構成で、楽譜作る時にはけっこうめんどくさいと思われます。
2番のサビ(めぐり来る季節にも〜)は当初リフレイン(泣きぬれてただひとり〜)無しでレコーディングされたそうですが、その後小田の要求で編集してリフレインを付けたそうです。つい最近まで知らなかったのですが、こちらの渡邉大輔さんの記事で知りました。
確かに聴いてみると、2番サビとリフレインはドラムのフィルインが全く一緒ですが、繋ぎ目は全くわかりません。歌詞も違うのでバックトラックのみコピーして、ボーカルやコーラスは差し替えたんでしょうか?いずれにしても貴重な情報です。
渡邉大輔さん、ありがとうございました!
リズムみたいなもの
BPM=82ちょっとぐらい。オフコースのバラードは80前後が多いです。
調みたいなもの
キーは全曲通してAメジャーです。間奏部分に一瞬転調っぽいコード(Am7)が挟まりますが、すぐ元に戻ります。
歌詞みたいなもの
ファーストインプレッションでも触れたように、この時期の小田の歌詞としては、かなり情感の強いイメージです。
全体を見ると、なんらかの事情で別れざるを得なかった恋人への、忘れられない思い出を抱えて泣き濡れる男、という感じでしょうか。
「〜恋人よ振り向けば優しい想い出をあげよう」というあたりを見ると、振った振られたではなく、別の事情での別れというのが推測されます。
ここまで未練を抱いて、泣き濡れるまで恋焦がれるというのは、小田作品ではあまり例を見ない感じです。それだけに思い切り刺さっちゃった人も多いのでしょうね。
個人的には「〜歩きなれた道を今ひとりで行けば」というのが、けっこう刺さります。日常にあって当たり前だったものが失われた時の喪失感というのは、じわじわと淋しさが来て、気がつくと大きなダメージになるものです。
各パート
リードボーカル(小田和正)
この時期の小田にしてはかなり情感強めと言うか、じっくり歌い上げている印象です。まあ『SELECTION 1973-78』では『眠れぬ夜』『ワインの匂い』『こころは気紛れ』などに挟まれているので、なおさらそう感じるのかも知れません。
出だしソロの部分は、特にエフェクトなどもかかっていない、ナチュラルな歌声になっています。
サビ(泣きぬれてただひとり〜)からはダブリングがかかっているのか、ちょっと音質が変わっているように聞こえます。もしかすると鈴木のハーモニーほどではないですが、若干イコライジングされてるかもです。
サイドボーカル(鈴木康博)
サビ(泣きぬれてただひとり〜)の部分でコーラスとは別に、ハーモニーパートが入っていて、ラジオボイスっぽいイコライジングがされているようです。
少々低域のボイシングで、主旋律の高低と違う動きをしているので、インターバルが3〜7度と目まぐるしく変わります。そのたび響きが変わるので、非常に変化に富んでいて面白いです。
「泣き濡れて〜」あたりのフレーズは5度や7度など、ハーモニーとしてしっくりとは聞こえにくいインターバルで少々不安定な感じですが、「〜さみしい黄昏には」のところでは3度の綺麗なハーモニーになるので、ここに来ると安心しますw このアレンジはなかなかの職人芸だと個人的に思います。
2番のB''メロ部分(永遠の命も〜)ではリードボーカルとは別の、カウンターメロディーをつけていますが、これは左チャンネルのコーラスパートに含まれているようで、ハモりパートの、サイドボーカルとしては「今ひとりで行けば〜」がそれにあたります。
コーラス(小田和正/鈴木康博)
この曲のコーラスはかなり分厚く、特に2番以降は左右チャンネルから怒涛のように押し寄せて来て、圧巻としか言えないレベルです。
最初のコーラスは1番B’メロ(ありふれた言葉を〜)のサビ直前、カウンターメロディ「あふれる〜」からですが、この「あふれ」まで左右チャンネル全パートユニゾンで、「る」から一気に4パートぐらいに分かれるという、なかなかに凝った構成になっています。
1番のサビ(泣きぬれてただひとり〜)には意外にもコーラスは入っていませんが、間奏ではハーモニカのバックでかなり厚めに入ります。ここは右チャンネルです。
さらに2番は左チャンネルでB’’メロ(永遠の命も〜)のカウンターメロディ後、サビ(めぐり来る季節にも〜)になると左はいったん止んで高域の右チャンネルのみに、リフレイン(泣きぬれてただひとり〜)からは低域の左も加わり、尋常じゃない厚みのサウンドになります。一体何回重ねたのか、想像するのもイヤになるレベルです。
キーボード(小田和正)
メインはアコースティックピアノで、イントロからAメロ(過ぎゆくは若き日々〜)までは中音域ソロのアルペジオでハーモニカ、あるいはボーカルの伴奏を務めています。
Bメロ(いつまでも変わらない〜)からは高音域の、4分打ち主体のアルペジオになり、雰囲気が変わります。ここは9thのテンションが入っていて、独特のふんわりした雰囲気の響きです。
サビ(泣きぬれてただひとり〜)では中音域4分打ちのコードプレイですが、2番では周りの音が分厚すぎて聴き取り困難です。
間奏ではスタッカート気味の8分打ちで、ここでチェンバロが重なって高域の音を加えています。ボーカル導入部では、独特のチャリチャリした高音がアルペジオで重なりますが、歌が入ると鳴り止みます。
チェンバロは一度だけ弾かせてもらった、というか触らせてもらったことがあるのですが、鍵盤が重く、引っ掛かるような独特の感触で、これを速く弾くのは大変だなと感じました。
アコースティックギター(鈴木康博)
Bメロ部分(いつまでも変わらない〜)から左右のチャンネルに入ります。終始コードストロークで、特にBメロ部分は若干ミュート気味にプレイしている感じです。どちらかと言うとパーカッションに近い役割りでしょうか。
ミックスレベルも小さいので、かなり存在感が薄いです。カポタストの有無はちょっと判別つきませんが、聴き取れる範囲ではそれほど高域ではないので、使用していないか、もしくは2フレット装着でGメジャーに移調してるかという感じです。
エレクトリックベース(森理)
全体的にルート弾きの堅実なプレイですが、節の終わりには分散和音で、一気に高域に駆け上がるオカズを入れています。個人的には1番Bメロ終わり「悲しいもの〜」のあとの、トリルっぽい高域フレーズがめちゃ好きです。
ドラムス(矢沢透)
1番B’メロ(ありふれた言葉を〜)から静かに入ってきますが、ここではバスドラでのリズムキープに、ハイハットメインのリフが入ります。
ここでの「カッ」という音、何気に聴いているとリムショットみたいですが、よく聴くとスティック同士を打ち合わせる、通常だとカウントに使うような音になります。
サビも1番(泣きぬれてただひとり〜)では控えめですが、2番(めぐり来る季節にも〜)からは派手にフィルインが入っていて、リフレイン(泣きぬれてただひとり〜)では同じプレイが聴けるお買い得品になっていますw
このドラムの音質はちょっと独特で、強いて言うならビートルズの『Hey Jude』の、毛布を被せてミュートしたドラムに似た感じがします。
特にスネアのペチッとした、余韻の短いタイトで固い音は、かなり高めのチューニングで、何かしらのミュートをかけているのではと推測します。
ハーモニカ(鈴木康博)
情感たっぷりながらフェイクなどを入れない正確なプレイで、後年の松尾のプレイとはまた違った味があります。
イントロでは単体ですが、間奏ではオクターブ下を重ねているようです。
初めはブルースハープのような10ホールで演奏しているのかと思ったのですが、間奏にはAメジャー調性の10ホールでは出せない音程が含まれているので、クロマチックを使っているようです。
パーカッション(鈴木康博)
パーカッションは聴き取れる範囲では、シェイカーとタンバリンが入っています。
シェイカーはBメロ部分(いつまでも変わらない〜)ではアクセントのみ、サビでは8分打ちでリズムを支えています。
タンバリンはサビに入っていますが、1番ではアクセントのみ、2番サビ以降は8分打ちで、分厚いサウンドに彩りを添えている感じです。
ストリングス
ストリングスはかなり広範囲に入っていますが、ミックスレベルはさほど大きくないので、くどい印象はありません。
1番のB’メロ(ありふれた言葉を〜)から入りますが、けっこう細かいフレーズで、サビも1番ではコーラスが入っていないので、なかなかに凝ったラインがよく聴き取れます。
逆に2番サビ(めぐり来る季節にも〜)以降はコーラスに紛れて、細かいところまで聴き取るのは困難です。ただサビ終了後のベース音が下降していくフレーズでは、フレーズが際立って、非常に効果的に締めを盛り上げています。
別バージョン
この曲も公式にはこのスタジオバージョンのみで、ライブバージョンなどのバリエーションはありません。
非公式ライブバージョン(1980年6月28日・日本武道館)
(2024.10.14差し替え・追記)
小田和正 Lead Vocal, Electric Piano, Synthesizer
鈴木康博 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar
松尾一彦 Chorus, Synthesizer
清水仁 Chorus, Electric Bass
大間ジロー Drums, Percussion
(推測)
もともと貼ってあった動画が削除されてしまったようなので、改めて探して貼り直しました。
ニッポン放送の「ミュージック・イン・ハイフォニック」という番組で放送された、1980年の武道館ライブだそうです。
イントロがピアノソロの独自のものになっていますが、それ以外はほぼオリジナルをリシェイプしたアレンジで演奏されています。
間奏のハーモニカはシンセサイザーに置き換えられていて、伴奏もシンセのコードプレイになっています。おそらくバッキングが松尾、リードフレーズが小田かと思われます。この他にも松尾は全編に渡ってシンセの、主に白玉バッキングに終始しています。
アコギはオリジナルと違い、アルペジオで演奏されています。
古い曲の5人演奏ではよくある、鈴木のハモりパートのみでコーラス省略のパターンかと思ったら、リフレイン部分では清水と松尾のコーラスが入っているようです。
大間はイントロやドラムスの合間に、ウィンドチャイムを鳴らしていて、これがなかなかに効果的です。
非公式ライブバージョン(1977年・会場不明)
小田和正 Lead Vocal, Electric Piano
鈴木康博 Vocal, Acoustic Guitar
松尾一彦 Harmonica, Synthesizer
清水仁 Electric Bass
大間ジロー Drums
(推測)
音質も微妙、間奏も省略されているなど、上の動画で事足りるのでは? と思いきや、このバージョンはサビのリフレイン部分が、なんと英語詞になっているというレアものです。
カーペンターズにこの曲のデモテープを送ったというエピソードがありますが、その時の歌詞でしょうか? いずれにせよ貴重なバージョンです。
それにしても英詞が想像以上にしっくり来てて、本当にやりたかったのはこれだったのでは? という気もします。
非公式ライブ・原曲バージョン(日時・会場不明)
小田和正 Lead Vocal, Acoustic Guitar
鈴木康博 Vocal, Acoustic Guitar
(推測)
『ワインの匂い』同様原曲バージョンがあります。こちらも序盤を除いてはまるっきり別物になっていますが、これはこれでよくまとまっていて、このままブラッシュアップしても、それなりにいい曲になったという気がします。
ただそうせずに、全面的に作り替えた結果、名曲になったわけですから、その判断は正しかったのですね。
この時にボツになったサビのメロディですが、おそらく『風に吹かれて』の原型になったのではと思われます。
締めみたいなもの
最初はあまり好きでなかったはずの作品なのに、気がつけば最大級のボリュームになっていましたw
もちろん好き嫌いはどうしても出てくるのですが、食わず嫌いせずに聴き込んでみたら、今まで気付かなかった魅力を発見して、結果的に思い入れが生まれてくるものというのを実感しました。
ということで、今後も最初の好き嫌いに関わらず、きっちり魅力を掘り下げて、感じたことをしっかり記録していこうと思います。
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