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オフコース全曲分析みたいなもの(?) 僕の贈りもの
楽曲について
個人的インプレッションみたいなもの
初めてこの曲を聴いたのは『SELECTION 1973-78』で、まだオフコースについて何も知らない時でしたから、これがデビュー曲だと思ってました。
で、その時の感想は、まるで唱歌か、下手すると童謡みたいだなというのが正直なところでした。
1番と2番で対になった歌詞といい、その歌詞もある意味とっても可愛らしい内容だったり。ただ途中の転調とかは一筋縄では行かない感じもあったりで、かなり心に引っかかる曲だなという感想も持ちました。
その後、音楽の教科書に採用されたそうで、まるで唱歌という感想はあながち間違ってなかったなと、1人ほくそ笑んだのは内緒です。
基本スペックみたいなもの
シングル1973年2月20日リリース
『僕の贈りもの/めぐり逢う今』A面に収録
『オフ・コース1/僕の贈りもの』A面1曲目に収録
『秋ゆく街で/オフ・コース・ライブ・イン・コンサート』B面2曲目、8曲目に収録(ともにライブバージョン)
『SELECTION 1973-78』A面3曲目に収録
『LØIVE』D面4曲目に収録(ライブ・インストバージョン)
作者クレジットみたいなもの
小田和正/作詞・作曲
オフ・コース/編曲
深町純/ストリングス編曲
参加ミュージシャンみたいなもの
小田和正 Lead Vocal, Chorus, Electric Piano
鈴木康博 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar, Congas
重実博 Electric Bass
高橋幸宏 Drums
※参加ミュージシャンのクレジットは『SELECTION 1973-78』のものになります。『オフ・コース1/僕の贈りもの』のクレジットは、かなりいいかげんなところが散見される(高橋幸宏がクレジットされてないどころか、ストリングス編曲の深町純の名前も無い)ので、基本的に疑って見る方が良いかと。
『オフ・コース1/僕の贈りもの』のクレジットでは、この曲にハープやグロッケン、ベルが入っていることになっていますが、いくら聞いても聞き取れません。これはおそらく『でももう花はいらない』の間違いだろうと思われますが、この間違いはその後のCDなどでもそのまま残っているようです…。
曲の全体構成みたいなもの
コーラスのイントロ(C) → Aメロ1(冬と夏の間に〜) → A'メロ1(この頃はなんとなく〜) → Bメロ1(知らないうちに誰かを〜/Aに転調) → Cメロ1(このうたは〜) → 間奏 → Aメロ2(夏と冬の間に〜/Cに転調) → A'メロ2(この頃はなんとなく〜) → Bメロ2(知らないうちに誰かと〜/Aに転調) → Cメロ2(このうたは〜) → 短いアウトロ → ストリングスのみでフェイドアウト(Cに転調)
この曲はサビが定義しづらくて、節の切れ目も人によって感じ方が違うと思われますので、あくまで独断ですが「知らないうちに誰かを〜」からをBメロ、「このうたは僕からあなたへの〜」をCメロにしました。
リズムみたいなもの
テンポはBPM=80ぐらいの8ビート。ギターが多少細かい動きをしている以外は、全楽器が淡々と8分音符を刻んでいます。
調みたいなもの
キーはCメジャーで始まりますが、A'メロからBメロに移行するところでAメジャーに転調します。このキー同士はCメジャーにとっての平行調(Aマイナー)の、さらに同主調に当たります。その繋ぎ部分でE7のコードを入れているので、Aメジャーコードには確かに繋がるのですが、ここまでの流れだとAマイナーコードに繋がるのが自然なところですので、結構な唐突感はあります。
間奏後にCメジャーに戻るところもE7を入れていますが、こちらはCメジャーコードとは直接繋がらないコードなので、こちらの方が唐突感は強いかもです。
このままAメジャーで終わりかと思ったら、曲が一旦終わった後のストリングスのみの演奏で、Cメジャーに再転調します。そのまま美しい弦楽四重奏でフェイドアウト。今度こそ終了です。
歌詞みたいなもの
歌詞は前述の通りかなり可愛らしい内容で、1番2番が対になっているのも面白いと言えば面白いかもです。ただ小田作品の歌詞としてはかなり異質だなというのも同時に感じます。
まず1番2番を対にするといった、ある意味言葉遊び的なアプローチはその後の作品にもほぼ例を見ません。また小田の歌詞は良くも悪くも感性的、抽象的で、一貫したストーリーになっているものはあまり無い気がします。ところがこの曲は大変綺麗に1番は1番、2番は2番でひとつの文章、あるいはお話としてキチンとまとまっています。
邪推でしかないですが、この曲についてはシングル曲ということで、あえて「感性」をセーブして「創作」ということに意識を持って作ったのではないかと思います。
まああくまで個人的な推論なので、こんな考えもあるよと受け流していただければと。
とはいえ結果的に代表曲になり、現在でもセルフカバーして歌い続ける作品になったのだから、やっぱり小田和正という人は凄いアーティストなのだなと改めて思います。
各パート
リードボーカル(小田和正/鈴木康博)
『SELECTION 1973-78』のクレジットではリードボーカル小田となっていますが、全編に渡って小田と鈴木のユニゾンで歌われているので、ここでは2人リードボーカルとして扱います。
それにしても見事なまでに調和しているユニゾンです。それぞれソロで歌う時は、声質は似ているにしても、声域も歌い方も全然別なのに、いざ合わせると見事なまでに調和してしまうのは驚きです。
これはどちらか一方が合わせるというのでは到底無理で、互いに歩み寄っての成果かと。それでもどちらか主導というのはあるようで、この曲ではやはり小田主導かと思われます。そういう意味ではクレジットはあながち間違ってないかもです。
とはいえ声域の違う2人なのに、この曲では地声からファルセットに切り替えるポイントがほぼ一緒です。これは当然高い方が合わせないと無理なので、この部分は小田が合わせてるのかと。今更ながらすごいコンビネーションですな…
ちなみに2番Bメロの「知らないうちに誰かと〜」の「ら」の部分でどちらか一瞬声が裏返ってますねw どちらでしょうか?
コーラス(小田和正/鈴木康博)
この曲のコーラスはかなり複雑に重なっていて、何回重ねたのか検証するのは困難です。というかめんどくさいですw イントロ部分はもちろんですが、Bメロ(知らないうちに〜)の後もかなりの声数が重なっているのが聴き取れます。
ちなみにアルバムミックスでは右方向のチャンネルに集約されていますが、シングルミックスでは左右に振り分けられている上に、ボリュームも少し大きめなので、各声部が聴き取りやすいです。こちらで聴くと、左チャンネルにけっこう低い声部が入っているのが明確にわかります。
終盤の「僕からあなたへの〜」の後に入る「心から〜」というコーラスも、アルバムミックスではギリ聴き取れるかどうか程度ですが、シングルミックスでははっきり聴き取れます。
キーボード(小田和正)
ローズピアノでひたすら8分音符のアルペジオを奏でていますが、間奏の部分では高域の、実に綺麗な分散和音を鳴らしています。ここは爽やかで、やや哀愁ある響きのメジャーセブンスコードが連続するので、非常に清涼感のある音に聴こえます。アウトロのメロディも、こう言ってはなんですが可愛らしくて、この曲らしい、いい余韻になっていると思います。
アコースティックギター(鈴木康博)
他の楽器が淡々と8分音符を刻む中、最も忙しく動いているのがアコギです。一応8分音符のアルペジオを基本にしているのですが、実に細かくオカズを入れていて、単調になりがちなリズムに彩りを添えています。
エレクトリックベース(重実博)
全体に堅実なプレイ、というかかなり地味なルート弾きに終始している感じですが、イントロでは高域を使った味のあるリフがちょっとだけ入っています。
ドラムス(高橋幸宏)
こちらもあまり出しゃばらず、淡々とゆっくりした8ビートを刻んでいる感じですが、堅実にリズムキープをしているあたり、後年のYMOでの機械に負けない正確なドラミングの片鱗が見えるような見えないような…
コンガ(鈴木康博)
間奏部分のみに入っています。間奏ではドラムもリズムを刻まないので、その合間を埋めるように静かな感じで入っています。ストリングス以外でオーバーダブされているのはこれだけ。いかに歌とコーラスに力を入れているかがわかります。
その他
ストリングスはかなりの小編成。四重奏ですかね? 2番のA'メロからまずは左チャンネルの第1バイオリンのソロが入ってきて、転調後に右チャンネルの残りのパートが入ってきます。小編成ですが各パートよく考えられていて、編成以上の厚みを感じる演奏になっています。
短いアウトロの後はさらに転調、ストリングスのみの演奏になって、アルバムバージョンは即、シングルバージョンはかなりゆっくりフェイドアウトしていきます。
ここのコード進行は、出だしの部分がAメロの進行と似ていたので、もしかしてAメロにつける予定だったストリングスの、ボツバージョンではないかと一瞬思ったのですが、途中から微妙に合わなくなります。とはいえAメロの進行を下敷きに編曲されたのは容易に想像つきます。
別バージョン
初期の代表曲にも関わらず、公式でのバージョン違いは意外と少ないです。
シングルバージョン
小田和正 Lead Vocal, Chorus, Electric Piano
鈴木康博 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar, Congas
重実博 Electric Bass
高橋幸宏 Drums
『SELECTION 1973-78』に入っているのはおそらくシングルバージョンで、元音源は同じものですが『オフ・コース1/僕の贈りもの』に収録されているものとはミックスがかなり異なります。
最大の差はアウトロ後、ストリングス演奏のフェイドアウトで、アルバムバージョンがすぐに終わってしまうのに対して、シングルはかなり長く演奏を聴くことができます。
また、ミックスバランスや定位もだいぶ違っていて、シングルバージョンの方がドラムスやベースが大きめで、かなり明瞭に聴こえます。よくわかるのが冒頭のコーラス部分で、アルバムではコーラスに紛れて聴き取りにくいハイハットが、シングルでははっきり聴き取れます。ベースも左寄せ(歌に入るとセンターに移動)で音像のぼやけたアルバムに比べ、ちゃんと芯のある音がセンターで聴こえます。
代わりにシングルではギターとピアノがやや小さめになっています。
コーラスもアルバムでは右寄りに集約されているものが、シングルでは左右に振り分けられていて、それぞれの声が聞き取りやすくなっています。
『秋ゆく街で』ライブバージョン(1974年10月26日・中野サンプラザ)
前後半のつなぎ(2番のみ)
小田和正 Vocal, Acoustic Piano
鈴木康博 Vocal, Acoustic Guitar
アンコール
小田和正 Vocal, Acoustic Guitar
鈴木康博 Vocal, Acoustic Guitar
いずれも小田と鈴木の2人だけの演奏に、転調部分からストリングスが重なるアレンジになっていますが、小田の担当楽器が前後半繋ぎではピアノ、アンコールではギターになっているのが違いです。レコード冒頭のコーラスワークは入らず、短いイントロがついています。
アンコールでは鈴木が歌詞を間違えたり、小田のギターが途切れたり、2番の歌い出しが遅れたりと、良くも悪くも力が抜けた感じで、ある意味微笑ましいです。
アンコールでは「それで好きな人と〜」の部分から鈴木がソロで歌い、「心から〜」のコーラスパートを小田が入れています。逆かと思っていたので、ちょっと意外です。
『LØIVE』ライブ・インストバージョン(1977年4月25日・九段会館)
小田和正 Soprano Recorder
松尾一彦 Soprano Recorder
鈴木康博 Alto Recorder
これはまあ、ある意味「余興」みたいなものですかねw 節ごとに主旋律の担当が代わっているようですが、カセットテープ録音ということで、流石に音のバランスも何もないので、主旋律が埋もれてしまっている部分が多々見られます。
とはいえ、「小さな部屋」では何でもやるよという、当時のオフコースのサービス精神が見えて、これはこれで味のあるテイクかなと思います。
非公式ライブバージョン(1981年・詳細不明)
小田和正 Vocal, Acoustic Guitar
鈴木康博 Vocal, Acoustic Guitar
かなり後期でも折に触れて歌われたようですが、一貫して小田、鈴木のみの演奏で、ほぼ『秋ゆく街で』に準じたアレンジ、もしくは鈴木のギターのみなどのシンプルなプレイだったようです。
締めみたいなもの
シングル曲にしてはものすごくシンプルな編成で、シンプル過ぎるほどシンプルな演奏ですが、それは何より歌とコーラスを聞かせるためのものだったんだなと、改めて感じました。
むしろB面の『めぐり逢う今』の方が派手な構成、サウンドだったので、当初こちらがA面候補だった可能性も想像できます。まあ詳細は当該曲の分析の時に。順番から言って相当先になりますが…
結果的にこの選択は正解だったのだなと、50年以上前の彼らに思いを馳せて、この分析を終わりたいと思います。