オフコース全曲分析みたいなもの(?) のがすなチャンスを
楽曲について
個人的インプレッションみたいなもの
2ndアルバムの『この道をゆけば/オフ・コース・ラウンド2』に収録された鈴木康博の代表曲、そしておそらく、2〜5人期のオフコースとして最も多く演奏されたであろう曲です。
最初のソウル臭溢れるバタ臭いアレンジが、やがてバンド向けの軽快でシンプルなアレンジになり、その後ハードなロックサウンドへと変遷していきます。
その様はまさにオフコースの進化をサウンドで物語る、最もわかりやすいクロニクルと言えるかと。
個人的には『SELECTION 1973-78』収録の、シンプルなライブバージョンが一番好みです。初めて聴いたバージョンという刷り込み要素もありますが、バンドらしい一体感と、無駄のない軽快さが一番感じられるからです。
なお、今回『SELECTION 1973-78』の記事として書き始めていますが、アルバム初出優先ということで、『この道をゆけば/オフ・コース・ラウンド2』のバージョンをメインとして、『SELECTION 1973-78』バージョンはバリエーションとして紹介します。
基本スペックみたいなもの
アルバム1974年5月5日リリース
『この道をゆけば/オフ・コース・ラウンド2』B面4曲目に収録
『秋ゆく街で/オフ・コース・ライブ・イン・コンサート』B面3曲目に収録(ライブバージョン)
『SELECTION 1973-78』A面5曲目に収録(ライブバージョン)
『LØIVE』D面4曲目に収録(ライブバージョン)
『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート40th Anniversary』DISC:2の3曲目に収録(ライブバージョン)
作者クレジットみたいなもの
鈴木康博/作詞・作曲・編曲・ストリングス編曲
※初出となる『この道をゆけば/オフ・コース・ラウンド2』は、2人でアレンジを詰める時間が取れなかったこともあって、編曲は作曲者自身が行なったということです。
参加ミュージシャンみたいなもの
鈴木康博 Lead Vocal, Chorus
小田和正 Vocal, Chorus
大村憲治 Electlic Guitar, Conga
篠原信彦 Organ
高水健司 Electric Bass
村上秀一 Drums
※クレジットは『この道をゆけば/オフ・コース・ラウンド2』の裏ジャケットにあるトラックシートより抜粋して記載。なんとオフコースは二人ともボーカル、コーラスのみで、バックトラックの演奏には参加していません。
曲の全体構成みたいなもの
イントロ → Aメロ1(今あなたにとって〜) → A'メロ1(人にはそれぞれ〜) → サビ1(のがすなチャンスを〜) → 間奏(イントロと同様) → A'メロ2(そして思い出の〜) → サビ2(のがすなチャンスを〜) → アウトロ(こちらもイントロと同様)
構成としてはかなりシンプルです。
リズムみたいなもの
テンポはBPM=130弱ぐらい。なかなか変化に富んだリズムで、テンポ以上にスリリングな感じがします。
調みたいなもの
キーは全曲通してAマイナー。擬似転調的なものもないので、非常に素直な調性になっています。
歌詞みたいなもの
鈴木の歌詞は小田とは対照的に、良くも悪くも「生々しい」単語が多く出てくるのが特徴的です。それは例えばこの曲だと「お金が大切ですか」とか。
また抽象的な表現は控えめで、文章としても小田より整然としている感じです。
個人的見解ですが、2人とも理系と言いつつも、小田はかなり文系寄り、対して鈴木は骨の髄まで理系なのではという感じです。
文章が整然としている方が理系というのは、一見矛盾しているように思えますが、小田の歌詞は「俺はここまでしか言わないけど、行間を読めば言いたいことは理解できるだろ?」と、ある種の禅問答をしている感じ、文系の思わせぶり表現というところかと。
対して鈴木の歌詞は、ある意味「考察の材料をきちんと揃えたロジックを提示するから、読み間違うんじゃないぞ」という、むしろ設計図でも与えてるかのような感じです。
そういう意味では鈴木の歌詞は(少なくとも小田よりは)理解しやすいのですが、場合によっては野暮ったい表現と捉えられてしまうことも…
ただこの曲のような、いわゆる「激励ソング」では、そういうストレートな表現の方が、良い方に作用することが多いかと。
確かに落ち込んでる時に、上っ面の綺麗なだけの言葉並べられても心には響かないもので、それなら不器用でも、わかりやすい誠実な言葉の方が響きやすいかと。
まあそれがあったからこの曲が、本人が「歌いすぎたから当分やらない」と言うほどの定番チューンになったのかと思います。
各パート
トラックシート
01. El.Guit(ケン坊)
02. Drums L(ポンタ)
03. Drums R(ポンタ)
04. B.D.
05. Bass(高水)
06. Hand Claps
07. El.Guit solo(ケン坊)
08. (空き)
09. Conga(ケン坊)
10. Vocal(康・和正)
11. Vocal(康・和正)
12. Organ(シノヤン)
13. Vocal Harmony
14. Vocal Harmony
15. Strings
16. Strings
※康=鈴木康博/和正=小田和正/ケン坊=大村憲治/高水=高水健司/ポンタ=村上秀一/シノヤン=篠原信彦
トラックをたくさん使う前提で考えていたのか、ドラムスはバスドラのみ独立トラックで、他はステレオ2トラックにまとめられています。結果的に1トラック余ってしまってますが…
リードボーカル(鈴木康博)
若干ラジオボイス風の加工がされている感じで、エコーも控えめ、クールっぽく聴こえるようにする狙いでしょうか。
ハモりのあとの「〜お金が大切ですか」のところや、サビのハモりでない部分は、ダブリングなのか、小田とのユニゾンなのかいまいち判断つきません。どちらかというとダブリングの可能性が高いかなという気が…
サイドボーカル(小田和正)
Aメロの「友だち〜」の部分からハモりで入ります。
初期2枚のアルバムでは、一部例外を除いてどちらが主旋律かに関わらず、高いパートが小田、低いパートが鈴木という不文律的なものがあったようで、この曲でもハモり部分は小田が主旋律になります。
コーラス(鈴木康博/小田和正)
A’メロ(人にはそれぞれ〜)あたりで左チャンネルに入り、サビでは左右両方から。低域を利かせたボイシングで、重厚さに重点を置いている感じです。ですが2番サビの締め「その日その時〜」では、ボーカルが上昇するのに合わせて一気に高域になり、フィナーレ感を演出しています。
エレクトリックギター(大村憲治)
ソロプレイは無く、クリーントーンでバッキングに終始しています。
左右のチャンネルに入っていますが、右チャンネルはコードストローク中心の徹底したバッキング、左チャンネルはもう少し自由に、高域でのフレーズなどを入れています。
オルガン(篠原信彦)
ハモンドオルガンの機能を活かして、なかなかにイカしたプレイをしています。
イントロ部分はまるでピアノのような「ピョン」という感じの音を出していますが、これは「パーカッション」という機能だそうで、オンにするとアタック音が加わって、ピアノのような立ち上がりの強い音になるそうです。
この音は2番サビの締め「その日その時〜」のところでも、ボーカルの上昇に合わせて高音で入りますが、ここではボリュームも上がって、盛り上げに大変貢献しています。
私はハモンドオルガンはちょっと触らせてもらった程度で、まともに演奏したことはありませんが、シンセサイザーの音作りでそれっぽく再現してみたことはあります。
その他はパーカッション無しのコードプレイではありますが、随所に下降グリッサンドなどのオカズがさりげなく入っていて、とても痺れるプレイです。
エレクトリックベース(高水健司)
あまり派手ではありませんが、Aメロ(今あなたにとって〜)などでは裏拍中心の、スピード感溢れるプレイがなかなかにクールです。全体に高音部をあまり使わずに、曲の重厚感を下支えしている感じです。
1番Aメロ「お金が大切ですが〜」とA’メロ「人にはそれぞれ〜」の繋ぎ、ギターとの連動で入る高速パッセージはめちゃカッコいいです。
ドラムス(村上秀一)
きっちりしたリズムキープをしながらも、バスドラはベースと連動した裏拍打ちで、スピード感を出しています。随所随所のフィルインは、いかにもポンタ節という感じの音数の多さです。
そして何よりサビ(のがすなチャンスを〜)でのハイハット16分連打は、この上ないスピード&スリル感!他のシンバル類より、ハイハットが大きくミックスされているのは、このプレイを強調する目的もあるかと思われます。
その他
ストリングスはソウルっぽい曲調を意識してか、イントロ、間奏、アウトロのフレーズの他は、決めの強調したい部分にだけ集中して入れている感じです。サビでも途中は一切入らず、「〜その日その時」のところだけ和音の補強という感じで入ります。
コンガは大村のプレイですが、なんとイントロの1か所しか入っていません!ここだけ間を埋めたかったのでしょうか?
サビ(のがすなチャンスを〜)ではハンドクラップが、ハイハット連打と連携して、スピード感を強調する良い効果になっています。
別バージョン
流石にずっと歌い続けられてきたこともあって、バリエーションは2〜5人時代の作品では圧倒的に多いです。
冒頭でも書きましたが時期ごとのアレンジの変化が、そのままオフコースサウンドの変化とリンクしていて、大変興味深いです。
『秋ゆく街で』ライブバージョン(1974年10月26日・中野サンプラザ)
鈴木康博 Lead Vocal
小田和正 Vocal
大村憲治 Electlic Guitar
羽田健太郎 Acoustic Piano
森理 Electric Bass
村上秀一 Drums
川原直美 Congas
(演奏者クレジットをもとに推定)
スタジオ版に準じてはいるものの、皆さんノリノリのはっちゃけプレイが随所に見られます。特に羽田のピアノは序盤からアドリブ盛り盛りw 大村のギターも2番サビではフィルインが入っています。
スタジオ版では1カ所しか入ってなかったコンガも、全曲通しで入っていますし、ドラムもスタジオ版より音数は少ないものの、流れるようなプレイで、大変ノリのいい仕上がりになっています。
『SELECTION 1973-78』ライブバージョン(1978年2月25日・仙台市民公会堂)
鈴木康博 Lead Vocal, Electric Guitar
小田和正 Vocal, Electric Piano
清水仁 Electric Bass
大間ジロー Drums
松尾一彦 Percussion
個人的に最も好きなバージョンです。編成がシンプルになって、スタジオ版にあった細かい経過音の繋ぎなども省略されてます。シンプルですが流麗な、ノリの良いサウンドになっています。
サビではバスドラが4分打ちする以外無伴奏で、2人がユニゾンで歌うところはめちゃくちゃカッコいいです。
松尾のカウベルも、細かくノリよく刻んでいて、大変効果的です。
『LØIVE』ライブバージョン(1980年2月5日・新宿厚生年金会館)
鈴木康博 Lead Vocal, Electric Guitar
小田和正 Vocal, Electric Piano
松尾一彦 Electric Guitar
清水仁 Electric Bass
大間ジロー Drums
(メンバーパートをもとに推定)
『SELECTION 1973-78』の約2年後ですが、一気にロックテイストが強くなっています。ギターの音も歪みが強く、ハードで派手になっています。
目玉は大間のドラムソロです。このソロは2番終わりからそのまま入ります。かなり長尺で、最後に銅鑼を鳴らして締めになります。
センターのギターは82年バージョンの映像から推測するに松尾のようで、ソロも任されています。78年バージョンではカウベルだけだったのが、めちゃ格上げ!この間の新加入3名の存在感のアップが見て取れるようです。
ボーカルパートは変わらずですが、鈴木のソロ部分のギターを松尾に任せたせいか、伸び伸び歌えている感があり、幾分ワイルドさが増しています。
キーボードはエレピのコード8分打ちが部分的にピックアップされていますが、それ以外はあまり目立ちません。
『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート40th Anniversary』ライブバージョン(1982年6月30日・日本武道館)
鈴木康博 Lead Vocal, Electric Guitar
小田和正 Vocal, Electric Piano, Synthesizer
松尾一彦 Electric Guitar
清水仁 Electric Bass
大間ジロー Drums
(演奏者クレジットと映像をもとに推定)
基本は80年バージョンに準じていますが、80年では省略されていた間奏が復活しています。キーボードもかなり目立つようになっていて、エレピの他にシンセの音も聞き取れます。
ドラムソロについては、やはり音源だけより、映像と合わせて見る方が何倍も迫力があります。特にソロ部分の締め近くは目まぐるしくカメラが切り替わるので、非常に臨場感があります。機会があれば是非見ていただければと。
その他非公式ライブバージョン
流石に非公式音源も豊富。中でもこの方は新旧音源をかき集めて、一大クロニクルを作られていて、感服としか言いようがないです。
初期はギター2本だけでオリジナルアレンジを再現しようとしていて、これはこれですごい演奏だなと思います。鈴木が上手いのはまあ当然としても、小田がかなり上手いのが驚きです。
1975年にはすでに『SELECTION 1973-78』バージョンのアレンジスタイルが出来上がってたようですね。清水、大間、松尾の3名が参加するようになってからのアレンジかと思っていたので意外でした。
締めみたいなもの
予想はしていましたが、今までで最大の文章量になりました…曲自体はシンプルなものですが、アレンジの変遷などを追っていくとどうしてもね…
今回久しぶりに82年武道館ライブの映像を見たのですが、改めてかっこいいなと思いました。スピード感溢れる演奏シーン、楽しそうに演奏する大間の姿も印象的でした。
ただこの曲では清水がほとんど映ってませんw そういえばライブバージョン解析でもベースに触れてないや…まあ別の曲ではベースが主役みたいな曲もあるので、そちらでたっぷりと。