行動経済学に大阪的スパイスをかけたらこうなる

 中二病ならぬ大一病というのがあると、私は思っている。

 受験戦争を勝ち抜き、知能レベルと自己肯定感が人生で最大化しているこの時期、勉学への半端ないモチベーションとみなぎる自信が「いつか成功者になってやる!」というファンタジックな夢を抱かせる。

 そう。誰もが通る道(たぶん)だ。

 私も見事大一病にかかり、やがてごくごく平凡な若者に成り下がり社会に解き放たれた。

 今では立派に凡庸な社会に溶け込んでしまった私だが、やっぱりどこかで「何かしら成し遂げたい」「お金欲しいと思わなくなるくらいお金欲しい」と、”成功者になる”という夢を諦められていない。結果としてYoutuberを僻んだりパパ活女子を羨んだりする、みっともないタイプの大人のいっちょ上がり、だ。

 凡庸な私の仕事は、とある企業の販促チームでとある商品がもっと売れるように施策を打つというもの。今のところ、凡庸な効果しか出せていない。

「どうやったら売れるんだよ」

 正直、自社商品に需要があると思っていない。伸び代はゼロくらいに思っている。それでも、マーケティング的なあれこれで売り上げを伸ばさないといけない。

 商品を売るというのは難しい。なんせ人の心が複雑だから。世の中の人はみんなあまのじゃくだ。こういった商売をしていると心から思う。なんせ、頑張って商品の魅力を伝えたところで客は引いていく。逆にこちらが遠慮しているとあちらからぐいぐい来られる。

 そんな不貞腐れた気持ちでいるときに、以下の記事が目に入った。

 「仕掛学」とは、大阪大学の松村教授が取り組んでいる行動変容のための手法のことだ。「相手にしてもらいたい行動を、相手が積極的に選ぶようにお膳立てをする戦略」のことだ。


行動変容に必要なのはユーモア


「ふーん、おもろいやんけ」

 この記事を読んで、私は唸った(手前は関東出身です、ええ)。詳しい取り組み事例は記事を読んでいただくとわかるが、ポイントとして、

・相手側が起こしたい行動と自分側が解決したい課題が、一見すると無関係に見えるほど”仕掛け”はうまくいく
・行動の選択肢を面白くすることで、積極的にこちらが望む選択肢を選んでもらう
・”仕掛け”のネタばらしをしても相手が後悔せず面白がってくれる

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01109/

 理論的に考えて試してみても、人が思うように行動してくれないことは多い。そんな時に、自分が選んでほしい選択肢を”面白くして”選んでもらうというやり方は、なるほど、相手があまのじゃくを発動させずに望む結果を得るためのいい手段かもしれない。


仕掛学を実践してみた


 課題解決のため、誰も傷つけず誰にもストレスを感じさせない方法での取り組みは優しさとユーモアが感じられて好きだ。まるで(血も涙もないイメージの)排除アートの対義語だ。ちょっとズレているかもしれないが。

「このスキルが手に入ったら、マーケティングがうまくいくようになるのでは?」

 浅はかな私は安易にそう思ったので、早速実践してみることにした。それにあたり、以下二つについて考えようと思う。いずれも、街中で見かけて注意したくなったことがあるのだ。

  • 歩きタバコをやめさせたい(副流煙を吸いたくない場合、早歩きでそいつを抜かさないといけないから)

  • 傘の危険な持ち方をやめさせたい(傘の先端が真横になるように持つこと。後ろに小さな子どもがいた場合刺さるので危険)

 実際の取り組みを考えようとしたところで、ひとつ大事なことに気づく。

 ”仕掛け”を考えるには、「こういうことをやめさせたい」だけではなく、「どういう状態に持っていきたいか」を想定しておく必要があるということだ。

 なぜなら、”仕掛け”のミソは、どういう選択肢を面白くして積極的に選ばせるか、を考えることだからだ。
(ますます排除アートとの違いが見えてくる。排除アートは、例えばホームレスを立ち退かせたい場合、ただ追い払うための都市デザインを考えるだけで彼らの受け皿を考えていないからだ。原因が解決していない。見えなくなればいいのであって、その後彼らが凍ようが雨風に晒されようがどうでもいいのである)

 どういう選択肢を用意するかまで考えるとなると、以下となる。

  • 歩きタバコをやめさせたい ⇨ 喫煙所へいくか、せめて立ち止まれ

  • 傘の危険な持ち方をやめさせたい ⇨ 傘の先端が下を向くように持て

 歩きタバコをしている人を立ち止まらせるにはどうすればいいか。歩いて颯爽とタバコを吸うよりも、立ち止まって吸うという選択肢を自分から選びたいと思わせる必要がある。

 それはなんだろう。例えば、道に「煙で遊べるゲームを設置する」とか。肺に溜めた煙を勢いよく吹きかけると肺活力が測定できるよ、みたいな。しょうもなさすぎるか…。

 けっこう難しい。

 傘の持ち方はどうだろう。これはたぶん、傘の先端が下に向くように持つとすると腕を曲げないといけないからどうしても横に持ってしまうのだろう。

 であれば、腕を下げた状態でも傘の先端が下を向くような傘を製造する、とか。もしくは手首にぶら下げられるタイプの傘を作るとか…。

 うーん、「仕掛学」の記事を一読しただけの私はあまりパッとしたアイデアが浮かばないが、こういった思考を繰り返していけば、いつか面白い”仕掛け”を考えることができるようになるかもしれない。そうなったらいい。

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