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愛言葉を贈らせて〜謎めいている彼女の甘い嘘〜



総文字数、56,311

↑アルフォポリスさんで掲載させて貰っている初期版です。


第一章・告白ゲーム(藤堂朔視点)

「私、貴方が好きです」
 その無邪気な言葉は、本当か偽りか。 

  杉原 衣(18)
  朔にちょっかいをかける、四葉女学園の謎の多い少女。

  ✕

  藤堂 朔(17)
 杉原衣に振り回される、双葉高校の青年。 好きな子が居る。

*1*プロローグ*

今日で11月も終わりか。なんてぼんやり思いながら、人気のない路地裏の道を歩き、帰路に付いていると。

「初めまして、藤堂朔トウドウ サク君。私、杉原衣スギハラ コロモと言います。四葉女学園の3年です」

眼鏡を掛け、癖のあるロング髪を靡かす女性に声を掛けられた。
すみれ色のリボンに、白を基調した清潔感ある制服を身に着けている。

「四葉女のお嬢様が俺に何かご用でしょうか?」
「単刀直入に申します。私、貴方が好きです、お付き合いして頂けませんか?」

愛嬌のある笑顔で、要件だけを述べてくる彼女。

「悪いけど、俺はアンタを知らないし、付き合う理由なんてないんで」

心が酷く澱んで居たのもあると思う。
断るにしても、彼女にイラチを含む、随分冷たい物言いをしてしまった。

「私、諦め悪い方なんです、写真部が売っていた貴方の写真を見た瞬間、一目惚れで。今日はただ先制布告にきただけですので、またチャレンジしに来ますね」

彼女はそう言い残すと踵を返し、軽い足取りで路地裏を抜けて行き、もう姿は見えない。


*プロローグ 終*


*2*ゲームスタート*


高校からの帰宅途中、今日で4日連続だ。
いい加減にして欲しい。

「藤堂君、何処かでお茶しませんか?私、美味しいチーズケーキの店知ってるので、一緒に如何です?」
「断る。もう良い加減に諦めてくれないか、迷惑なんだけど」
「私の事をよく知れば、藤堂君も私を好きになる筈です。だからまず、私と親交を深めましょ」
「どっから来るんだその自信は。とにかくお茶はしないし、暗くなる前にお前も気を付けて帰れ」
「藤堂くん、好きですよ」
「はいはい」
「人がせっかく真面目に告白してるのに、適当過ぎます」
「そんな俺に幻滅して諦めて下さい、杉原先輩」

俺は、四葉女学園と同じ地域にある共学校、双葉高校の二年。彼女より一学年下だ。
四葉女学園は、雑誌に掲載される程、この地域では有名な、選ばれたお金持ちの娘さん達が通うお嬢様校として知られている。
うちの写真部と四葉女の写真部は裏で繋がりがある、なんて噂が囁かれていたが、それは真実だった様だ。
俺に害がないのならどうでも良かったが、彼女に目を付けられる原因となった写真部には今、怒りしか湧いてこない。
杉原衣は、常に背筋の伸びた佇まいをしており、笑顔にも品があり愛嬌がある。
そんな笑顔で「好き」と言われれば悪い気はしない。
けれど、俺には想っている女の子が居る。

「俺には好き子がいる、とても大事な女の子だ。だから、杉原さんの気持ちに応える事は絶対にない」
「藤堂君に想い人が居る事は存知てます、写真部から裏情報で教えて貰ってましたから」
「写真部、ある意味怖いな、あいつら何処で情報集めて来るんだよ」
「藤堂君も片思いだと聞いてます。藤堂君がその子を口説き落とすのが先か、藤堂君が私に口説き落とされるのが先か、ゲームをしましょ、藤堂君」
「そんなゲームに付き合う義務は俺にはないよ」
「勝手に楽しむので、藤堂君は私に弄ばれてて下さいな」
「おい」

自由にも程があるだろ。
俺の意見は無視かよ。
彼女は告げてきたゲームの勝敗が見えてるかの様な、人良さそうな不敵な笑みを浮かべいる。

*****

『ごめんね朔くん。結羽のお見舞い、今日で最後にして欲しいの。朔君が来ると、あの子頑張っちゃうから。起き上がって笑顔でいなきゃって頑張っちゃう。結羽に、優しくしてくれて、ありがとね』

あの日、杉原衣と初めて出会う数分前の事。
鈴野結羽スズノ ユウの姉の結空ユアさんから、寂しげに、でも優しく俺に告げられた。

結羽は、俺の中学時代の同級生だ。
面倒見の良い明るい女の子。
でも、生まれ付き体が弱いらしく、学校は休む事が多かった。
自分の顔が嫌いで、前髪を伸ばし、俯いて周りを威嚇ばかりしていた俺にしつこく付き纏い、俺に他人の輪に入るきっかけをくれたり、顔を隠す必要はない、と教えてくれたのが彼女だ。
俺は当然ながら、彼女に恋をした。
中学卒業の日、告白したが玉砕を喰らった。
正直、勝手に両思いだと思い込んでただけにショックは大きかった。

鈴野姉妹の両親は、数年前に事故で亡くなっているらしい。
だからなのか、結空さんは唯一の家族である年の離れた妹の結羽をとても可愛がっている。
結羽も中学時代よく「お姉ちゃん大好き」って話していた。
結羽から貰った沢山の恩を、どうしたら返せるのだろうか。

*****

「藤堂君偉いね、お使い?」
「なんで居んの、ここ一般的なスーパーだぞ。お嬢様が来る所じゃないだろ」
「言っときますけど、今日のは本当に偶然ですからね。それと私は四葉女に通ってはいますが、一般家庭の一般育ちです」

結空さんに頼まれた買い出し中、まさか杉原衣に出会うとは思いもしなかった。
安易な発想で自己満足なのはわかってる。
でも、結羽の為に俺が出来る事と言ったら、結空さんのサポートぐらいしか思いつかなかった。
結羽が、大好きな姉さんと少しでも多くの時間を過ごせる様に。
それと、出来ればまだ、結羽との繋がりを持っていたいと言う、俺のささやかな抵抗心でもある。

「藤堂君」
「ん?」

買い物カゴを持った彼女が俺に近づき、耳元で告げてくるーーーー好きですよ、と。
他のお客さんが居るから配慮したのは分かるが、不意打ちは、卑怯だ。
杉原さんは、とても耳残りの良い可愛い声をしている。

「お使い頑張って下さい、藤堂君」

最後はいつも通りの笑顔を残し、彼女は鮮魚コーナーへと消えた。


*ゲームスタート 終*

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