【ショートショート】 ビール傘

「実はこの傘、酔っぱらえるの」
「このビニール傘が？」

友人がビール傘なる物を差し出してきた。
これを差せばビールを飲んだみたいに酔っ払っている雰囲気になるらしい。

「じゃあ実際に差してみるね」

そう言って傘を開いた友人は頬がぽぉっと赤くなり表情が緩んでいる。

「これを差したらぁ、楽しい気分になるの♪」

友人の足元は千鳥足のようになり、支えていないと不安になる。

「危ないから傘閉じなよ。ほら、電柱にぶつかる」

痛、さっきまで明るかった友人は頭を擦りながら涙目になっている。

「もう！ さっきまで良い気分だったのに」

「あなたはさあ、どうして私が言ったことを信じてくれないの？何回も伝えてるのに！」

少々、悲観的になっているらしい。

「だって本気なのかわかんないんだよ。いつもその変な傘差してるし」

だったら、と少し表情が変わる。

「好き」

そう言った彼女は傘を閉じていた。

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