『正欲』感想

『正欲』朝井リョウ
「読む前の自分には戻れない」
書店の小説コーナーに並んでいる、帯の文言に惹かれて手に取った作品です。
本当にその通りでした。この作品を読む前と後では世界に対する見方が大きく変わってしまいました。
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『正欲』は『何者』や『桐島部活辞めるってよ。』で知られる朝井リョウの作品です。
2022年に本屋大賞にもノミネートされています。
ある人物の死をきっかけにバラバラの場所で生活をしていた人の人生が重なり始めます。
多様に生きることが受け入れ始められたこの時代に訴えかける作品です。
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読み終わった後に感じるのは、まずは疲労感でした。そして、この世界に対して「正しい」とされているものへの不信感と「多様」な時代だからこその生きづらさについて考えさせられました。
日々叫ばれる「多様性」という言葉。
ジェンダーが重視され、多様な考え方、性別にとらわれない生き方を受け入れようとする風潮。
確かに昔に比べれば色々な人にとって生きやすい世の中になったのではないでしょうか。
ですが、それでも正常な流れから「取りこぼされてしまう人」はいます。気づかれずに生きづらさを感じている人はいる。それにこの小説は気づかせ、正常な流れの中にいる私たちの傲慢さを突いてきます。
昨今盛り上がっている「多様性」とはなんだろうか。
本当にそれは「多様性」を認めている自分、ただ理解力がある自分が可愛いだけではないのだろうか。
「多様性」が尊重される現代に訴えかける問題作であり神作だと思います。
自分が多様だと思っていることが独りよがりになっていないか、深く考えさせられました。

今年の秋に映画化もされるようなので、ぜひ公開されたら観たいと思いました。


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