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『紙猫』紹介 その5
『紙猫』誌紹介の続きです。
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初夢の急展開についてゆく 仲田陽子
夢というのは、たいてい急展開なものですが、そもそも自分の見ている夢なのに「ついてゆく」というところに、おおらかさと可笑しみとがあって、初夢らしい、めでたい句ではないでしょうか。
仔猫句会のとりまとめをしてくれているのが仲田陽子さんです。仔猫句会も、十年の間には様々な問題があったり、新型コロナ時代も到来したりで、試行錯誤しながら継続してきました。陽子さんはホスピタリティと瞬発力、交友関係を広げる能力がすごいと思います。人徳に感謝です。
今は、連句にはまっているようですよ。
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うれしょんの猫を引き寄すうつ田姫 中山奈々
今回の奈々さんの15句は猫のテーマでまとめられています。
私は猫を飼ったことがないのでわからないのですが、うれしょんは犬のすること、というイメージです。犬の中でも、興奮しやすい、ちょっとお馬鹿な犬がする印象です。犬に比べ、クールに見える猫なのに、うれしょんしてしまうのは、結構な駄目猫ではないでしょうか。そんな駄目猫が可愛くて、うつた姫も思わず引き寄せてしまったのでしょう。
中山奈々さんは今回の『紙猫』参加者では唯一の俳句甲子園世代で、仔猫句会のなかでは若手ですが、若いと言っても、だいぶ大人になってきました。「百鳥」に所属のほか、いろいろな俳誌や川柳誌にも参加していて、活動多彩です。
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銀漢へ配電盤を沈めけり 羽田野令
羽田野令さんの句は、実景に即した句よりはイマジネーションを働かせたものが多いと思いますが、この句の世界も想像力豊かです。銀漢と配電盤の取り合わせは、光るもの同士でなんとなく通じるものがあります。宇宙船を連想したりもするでしょうか。配電盤を銀漢に沈めると、どういう反応が起こるのでしょうか。ショートしてしまうのか、藻屑となり漂うのか。なんだか危うい美しさがあります。
令さんとも、仔猫句会がはじまるずっと前から色々な句会等でご一緒してきました。俳句も短歌も連句もされます。
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花時や尻尾の有無を尋ねられ 原知子
満開の桜はうっすら狂気を感じさせるものです。世間話の続きに、あたりまえのように、「ところで、あなたは尻尾をお持ちですか?」と尋ねられたら、どう答えるのが正解なのでしょうか。そんな花時の不思議を感じさせる一句です。
原知子さんは、京都でご家族と「小さ子社」さんという出版社をされていて、私は「ユプシロン」誌でもお世話になっています。今回の『紙猫』がちゃんと形になって出来上がったのも、原知子さんのおかげなのです。
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次回につづきます(たぶん次回が最終回)
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