高齢者における2型糖尿病の感覚障害がバランス能力および下肢筋力に与える影響



要旨
この研究は、2型糖尿病(DM)を持つ高齢者において、感覚障害がバランス能力および下肢筋力に及ぼす影響を検討したものです。特に、感覚障害の数や筋力がバランス能力に与える影響について分析しています。

研究背景

2型糖尿病は世界的な健康問題であり、高齢者におけるバランス障害や筋力低下などの身体的衰退の主因の一つとされています。感覚障害(視覚、前庭機能、足部の固有受容感覚障害など)は糖尿病患者でよくみられ、これらがバランス制御や転倒リスクに影響を及ぼすことが知られています。

研究目的

この研究の目的は以下の通りです:
1. 感覚障害の有無に基づくバランス能力と下肢筋力の比較
2. 感覚障害の数や筋力がバランス能力に与える影響の検討

方法

被験者:
60歳以上の高齢者92名(非糖尿病群20名、糖尿病群72名)を対象。糖尿病群は感覚障害の有無に応じて以下の4グループに分類しました:
1. 感覚障害なし
2. 1つの感覚障害あり
3. 2つの感覚障害あり
4. 3つの感覚障害あり

評価項目:
• 感覚機能:
• 視覚: Snellen chart、Melbourne Edge test
• 前庭機能: 修正版Romberg test
• 足部固有受容感覚: Michigan Neuropathy Screening Instrument (MNSI)
• バランス評価:
• Romberg test (RT)
• Functional Reach Test (FRT)
• Timed Up and Go Test (TUG)
• 筋力測定:
膝伸展筋、膝屈曲筋、足関節背屈筋、足関節底屈筋の筋力をハンドヘルドダイナモメーターで測定。

結果

• バランス能力:
• FRT: 感覚障害を2つ以上持つ糖尿病群で距離が有意に短縮(p<0.05)。
• TUG: 糖尿病群は非糖尿病群よりも時間が長く、特に感覚障害を3つ持つグループで最も悪化(p<0.01)。
• 筋力:
• 膝伸展筋および足関節底屈筋の筋力は、糖尿病群で一貫して低下(p<0.05)。
• 感覚障害の数が多いほど筋力低下が顕著であった。
• 回帰分析:
TUGの主要な予測因子は「感覚障害の数」「足関節背屈筋の筋力」「年齢」であり、これらはバランス能力に24%の影響を与えるとされた。

考察

• 感覚障害の多さと筋力低下は、糖尿病高齢者におけるバランス悪化に直接的に寄与しています。
• 感覚システムの相互補償能力が一定の役割を果たす可能性が示唆されましたが、その限界が明らかになりました。
• 特に足関節背屈筋の筋力低下は、バランス能力や歩行の安定性に重要な影響を及ぼします。

臨床的示唆

• 感覚障害がなくても糖尿病高齢者はバランス障害のリスクを抱えているため、早期の介入が必要です。
• 転倒予防のためには、視覚、前庭機能、足部感覚の評価とリハビリを行うことが重要です。
• 筋力トレーニング、特に足関節背屈筋の強化運動を推奨します。

結論

感覚障害のパターンと下肢筋力の低下は、高齢者のバランス能力に重要な影響を与えることが示されました。この知見は、糖尿病高齢者の転倒予防やリハビリプログラムの設計に役立つでしょう。

この研究は、糖尿病患者のリハビリにおける感覚および運動機能の重要性を示す有用な知見を提供しています。

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