痛みの症状と回旋腱板損傷の重症度は関連しない:理学療法士向け解説



背景

肩の回旋腱板損傷は高齢者を中心に頻繁に見られる病態であり、疼痛が主な症状の一つです。しかし、痛みの強さと損傷の重症度の間に関連性があるかについては不明な点が多く、特に非外傷性の症例では議論が分かれています。本記事では、非外傷性全層回旋腱板損傷における疼痛と病変重症度の関連性を検討した研究を基に、理学療法士が知っておくべき知識を整理します。

研究概要

この研究は、非外傷性全層回旋腱板損傷患者393人を対象に行われた横断研究です。以下の点を検討しました:
• 疼痛の強さ(VASスコア)
• 病変の重症度(MRIやX線所見に基づく評価)
• 疼痛に影響を与える可能性のある非解剖学的因子

方法

参加者はMOON Shoulder Groupの基準に基づき登録され、以下の要因が評価されました:
1. 病変重症度の指標
• 腱板の損傷範囲
• 腱の収縮度
• 上腕骨頭の偏位
• 腱板筋の萎縮
2. 疼痛評価
• 視覚的アナログスケール(VAS)
• ASESスコア
3. 非解剖学的因子
• 合併症(SCQスコア)
• 教育水準
• 人種

主な結果

研究の結果、以下のことが明らかになりました:
1. 解剖学的因子との関連性
• 回旋腱板損傷の重症度(腱の収縮、偏位、萎縮)はVASスコアと統計的に有意な関連が認められませんでした。
2. 非解剖学的因子との関連性
• 疼痛の強さは以下の因子と有意に関連しました:
• 合併症の多さ(SCQスコアが高いほど痛みが強い)
• 教育水準の低さ
• 人種(黒人であることが有意に疼痛スコアに影響)
3. 臨床的意義
• これらの関連はVASスコアで約1~2ポイントの違いを生む程度であり、臨床的な影響は小さい可能性があります。

理学療法士が学ぶべきポイント
1. 疼痛と解剖学的重症度は一致しない
• 回旋腱板損傷のサイズや筋萎縮の程度が疼痛の強さと一致しない点を考慮し、症状ではなく機能改善に焦点を当てたアプローチが重要です。
2. 非解剖学的因子への配慮
• 疼痛管理では患者の心理社会的背景(例:教育水準、合併症)を考慮し、全人的ケアを行う必要があります。
3. 運動療法の有効性
• 非外科的治療(理学療法)は多くの症例で有効とされており、適切なエクササイズプログラムの提供が求められます。

臨床への応用

この研究は、疼痛と損傷重症度が必ずしも一致しないことを示唆しており、理学療法士に以下の重要な示唆を与えます:
• 患者教育を通じて、不必要な手術への依存を減らす。
• 疼痛に関連する非解剖学的因子へのアプローチを取り入れる。
• 長期的な機能改善を目指した治療計画を立案する。

結論

回旋腱板損傷患者における疼痛の強さは、その解剖学的重症度よりも心理社会的因子に影響を受けやすいことが示されました。理学療法士は、これらの知見を基に個別化した治療を提供し、患者のQOL向上を目指すことが求められます。


参考
“Symptoms of Pain Do Not Correlate with Rotator Cuff Tear Severity”

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