症状のない肩腱板断裂の進行と症状発現に関する研究
研究背景
肩腱板断裂(rotator cuff tear)は高齢者において無症候性で発見されることが多いものの、時間の経過とともに症状が出現することがあります。本研究では、無症候性腱板断裂が痛みを伴う状態に進行する過程と、それに関連する因子を解明することを目的としています。
方法
この研究は、195名の無症候性肩腱板断裂患者を対象とした前向きコホート研究です。以下の方法でデータを収集しました。
1. 評価基準:
• 年1回の超音波検査とレントゲン検査
• 肩機能の評価(American Shoulder and Elbow Surgeons [ASES]スコア、可動域測定など)
2. 参加者選定:
• 片側の肩が痛みを伴う腱板断裂で診断され、反対側が無症候性である患者
• 過去に肩の外傷や持続的な痛みがない
3. フォローアップ:
• 痛みの発現を確認し、年1回の定期検査で状態を追跡
• 痛みが発現した場合、その前後で比較分析
結果
1. 痛みの発現率:
• 195名中44名が平均1.93年で新たな痛みを発症。
• 痛みを発症したグループ(症候群)は、発症しなかったグループ(無症候群)と比較して腱板断裂のサイズが大きい傾向にありました。
2. 腱板断裂の進行:
• 症候群の23%が断裂サイズの増加または部分断裂から全断裂への進行を示しました。
• 無症候群では進行率が4%にとどまり、症候群と有意な差がありました(p < 0.01)。
3. 肩機能の変化:
• 症候群では、痛みの発現後にASESスコアが大幅に低下(93.3 → 65.8, p < 0.0001)。
• 肩の可動域も多くの項目で低下が確認されましたが、外旋筋力には顕著な変化は見られませんでした。
4. 脂肪浸潤の進行:
• 筋肉の脂肪浸潤(fatty degeneration)は短期的な評価期間では進行しませんでした。
考察
本研究から、次の重要な知見が得られました。
• 断裂サイズと痛みの関係: 痛みが発現するリスクは、断裂サイズの大きさに関連がある可能性があります。
• 肩機能の悪化: 痛みの発現により肩の可動域や機能が低下する一方で、筋力には影響が限定的でした。
• 脂肪浸潤: 短期的な評価では脂肪浸潤の進行は見られませんでしたが、長期的な研究が必要です。
臨床的意義
無症候性腱板断裂は、進行する可能性があるため、早期診断と定期的なモニタリングが重要です。将来的な治療戦略として、予防的介入が有効であるかを検討する必要があります。
結論
肩腱板断裂の無症候性患者において、症状発現は腱板断裂の進行や肩機能の低下に関連する可能性があることが示されました。本研究の知見は、理学療法士や整形外科医が患者の管理計画を立てる際に役立つものです。
参考
“Symptomatic Progression of Asymptomatic Rotator Cuff Tears: A Prospective Study of Clinical and Sonographic Variables”