手持ち型マッサージガン使用後に発生した椎骨動脈解離の症例報告
はじめに
椎骨動脈解離(Vertebral Artery Dissection, VAD)は、若年層における脳卒中の一因として知られており、主に軽度の外傷や頸部の操作に関連して発生します。近年、頸部痛の緩和を目的とした家庭用デバイスとして、手持ち型マッサージガンが急速に普及しています。しかし、このデバイスの頸部使用時の安全性に関する研究はほとんど行われていません。本記事では、27歳女性がマッサージガン使用後に発症した椎骨動脈解離の症例を報告し、その医学的および臨床的な意味を検討します。
症例報告
患者は27歳の女性で、2週間にわたるめまいの進行と、4日前からの頭痛および頸部痛を主訴に救急外来を受診しました。既往歴はなく、唯一の要因として頸部に対するマッサージガンの使用が挙げられました。初期検査では神経学的な異常は確認されず、頭部と頸部のCT血管造影により、C2からC5の椎骨動脈に不整な狭窄を伴う解離が認められました。患者は抗血小板薬であるアスピリンの投与を受け、血管外科の非手術的管理のもと、神経学的異常を残さずに退院しました。
ディスカッション
本症例は、手持ち型マッサージガン使用後の椎骨動脈解離に関する初の報告として特筆されます。デバイスの使用による振動や圧力が、特に頸部での誤用により血管損傷を引き起こす可能性が指摘されます。この患者は適切な管理により完全に回復しましたが、他の症例では神経学的後遺症やさらなる脳卒中リスクが残る可能性があります。
椎骨動脈解離の臨床的特徴
VADは頸部動脈の3つのセグメントで解離が生じる可能性があり、症状として頭痛、頸部痛、めまいなどが挙げられます。ただし、これらの症状は非特異的であり、診断が遅れる場合があります。早期診断が予後改善に重要であり、適切な画像診断と病歴聴取が不可欠です。
マッサージガンの安全性と適切な使用
現在、多くの製品が市販されており、使用方法に関する明確なガイドラインは存在しません。一部の製品マニュアルでは頸部での使用を避けるよう警告していますが、広告では頸部や肩甲骨周辺での使用が示唆されることがあります。このような誤った情報がユーザーによる誤用を助長し、潜在的なリスクを高める可能性があります。
治療と予後
治療は患者の状態により異なり、抗血小板薬や抗凝固薬が第一選択となります。特に低リスクの患者にはアスピリン単剤療法が推奨され、高リスクの場合はデュアル抗血小板療法が選択されることがあります。解離の多くは数カ月以内に自然治癒するとされており、フォローアップが重要です。
結論
手持ち型マッサージガンの使用が椎骨動脈解離のリスク因子となり得る可能性を示す本症例報告は、さらなる研究の必要性を提起しています。若年患者が非特異的な頭痛や頸部痛を訴える場合、VADを早期に疑うことが重要です。また、デバイスの安全な使用を啓発することで、潜在的な健康リスクを軽減できる可能性があります。
参考文献
• Sulkowski, K., Grant, G., & Brodie, T. (2022). Case Report: Vertebral Artery Dissection After Use of Handheld Massage Gun. Clinical Practice and Cases in Emergency Medicine, 6(2), 159–161. DOI: 10.5811/cpcem.2022.2.56046