慢性緊張型頭痛(CTTH)における前方頭部姿勢(FHP)と頸部可動性の影響

Fernández-de-las-Peñasらの研究「Forward head posture and neck mobility in chronic tension-type headache: a blinded, controlled study」(2006年)を基に解説した記事です。



慢性緊張型頭痛(CTTH)は、成人における最も一般的な頭痛タイプの1つです。その原因は完全には解明されていませんが、頸部の筋骨格系異常が関連していることが指摘されています。特に、前方頭部姿勢(FHP)と頸部可動性がCTTH患者の症状とどのように関連するかについて注目が集まっています。本記事では、これらの要因について詳しく掘り下げ、リハビリの実践に役立つ知見を共有します。

研究の背景と目的

慢性緊張型頭痛(CTTH)とは?

CTTHは、国際頭痛分類(IHS)によると、月に15日以上、持続的な圧迫感や締め付け感のある頭痛を特徴とします。この疾患は、社会的影響が大きいにもかかわらず、その病因は明確ではありません。

前方頭部姿勢(FHP)とは?

FHPは、頭部が通常よりも前方に位置する姿勢を指します。具体的には、後頸部筋の短縮と前頸部筋の緊張が関連しており、これが痛みや可動性の制限を引き起こします。FHPは、頸性頭痛(CeH)や顎関節障害(TMD)などの他の疾患とも関連が報告されています。

頸部可動性と頭痛の関係

従来の研究では、CTTH患者は頸部の動きが制限されている可能性が示唆されていましたが、明確なデータは不足していました。

この研究の目的は、CTTH患者におけるFHPおよび頸部可動性の特徴を明らかにし、それが頭痛の頻度や強度とどのように関連するかを探ることです。

方法

研究には、25名のCTTH患者(11名男性、14名女性、平均年齢42歳)と、同じ年齢と性別の健康な対照者25名が参加しました。

前方頭部姿勢(FHP)の評価

• 側面写真を使用してFHPを評価。
• 頭頸角(耳の外耳道から第7頸椎までの角度)を測定。
• 小さい角度ほどFHPが強いことを示します。

頸部可動性の評価

• 頸椎ゴニオメーターを用いて以下の動作範囲を測定:
• 屈曲
• 伸展
• 左右の側屈
• 左右の回旋
• 各動作について2回測定し、その平均値を使用。

頭痛パラメータ

• 頭痛日記を4週間記録し、以下を算出:
1. 頭痛強度:視覚的アナログスケール(VAS)で評価。
2. 頭痛頻度:1週間あたりの頭痛日数。
3. 頭痛持続時間:1日あたりの頭痛時間。

結果

前方頭部姿勢(FHP)の特徴

• CTTH患者の頭頸角(45.3°±7.6°)は、対照群(54.1°±6.3°)よりも有意に小さい(p < 0.001)。
• CTTH患者では、頭頸角が小さいほど頭痛頻度が高いことが確認されました(rs = -0.5, p < 0.04)。

頸部可動性の制限

CTTH患者は、すべての頸部運動において以下の通り、可動範囲が対照群よりも小さいことが示されました(右側屈を除く)。

屈曲と伸展

• 屈曲:CTTH群49.1°±10.3°、対照群59.9°±7.8°(p = 0.001)。
• 伸展:CTTH群54.9°±20.1°、対照群68.3°±17.2°(p = 0.005)。

側屈

• 左側屈:CTTH群34.6°±8.3°、対照群41.4°±6.1°(p = 0.006)。
• 右側屈:差異なし(p > 0.05)。

回旋

• 左回旋:CTTH群58.3°±8.4°、対照群72.2°±5.7°(p < 0.001)。
• 右回旋:CTTH群57.6°±10.1°、対照群73.6°±7.9°(p < 0.001)。

総可動域

• CTTH患者の総可動域は、屈曲/伸展、側屈、回旋すべてで有意に低下。

FHPと頸部可動性の関連

• 頭頸角が小さいほど、頸部可動性が制限される傾向が確認されました。
• 例:屈曲(r = 0.4, p < 0.01)、左回旋(r = 0.5, p < 0.001)。

頸部可動性と頭痛パラメータ

• 頸部可動性は頭痛の強度や持続時間とは関連が見られませんでした。

臨床的インプリケーション

1. FHPの矯正

FHPの矯正は、CTTH患者の症状緩和において重要です。姿勢改善には以下の方法が有効と考えられます。
• 胸椎伸展エクササイズ:肩甲骨の動きを伴うストレッチ。
• 頭部のポジショニング練習:頭部を正しい位置に戻すためのフィードバックトレーニング。

2. 頸部可動性の改善

頸部可動性を改善することで、姿勢や日常生活動作の快適さが向上する可能性があります。
• モビライゼーション:特に屈曲と回旋に焦点を当てた手技療法。
• 筋膜リリース:後頸部筋や肩甲挙筋のリラクゼーション。

3. 患者教育

患者自身が姿勢を意識し、日常生活で良い姿勢を維持することが長期的な改善に寄与します。

今後の研究課題

• 他の頭痛タイプへの応用:エピソード型緊張型頭痛や片頭痛患者への適用可能性。
• 介入の効果:FHP改善や頸部可動性向上がCTTHに与える直接的な影響を検証するための介入研究。

結論

Fernández-de-las-Peñasらの研究は、CTTH患者が健康な対照群と比較して前方頭部姿勢が悪化し、頸部可動性が制限されていることを示しました。また、FHPが頭痛頻度と関連している可能性が示唆されています。この知見を基に、リハビリ専門家はFHPと頸部可動性に焦点を当てた治療計画を立案することで、CTTH患者の症状緩和を目指せるでしょう。

参考文献
Fernández-de-las-Peñas, C., Alonso-Blanco, C., Cuadrado, M. L., & Pareja, J. A. (2006). Forward head posture and neck mobility in chronic tension-type headache: a blinded, controlled study. Cephalalgia, 26(3), 314–319.

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