凍結肩の病態生理:包括的レビュー
はじめに
凍結肩(Frozen Shoulder; FS)は肩関節の痛みと可動域制限を特徴とする一般的な疾患です。本記事では、以下のポイントを中心に、凍結肩の複雑な病態生理を学術的に解説します:
• 凍結肩の発症メカニズムと進行段階
• 関連する組織学的および細胞学的変化
• 炎症と線維化の役割
• 臨床的および治療的な示唆
1. 凍結肩の概要
凍結肩は一般に自己限定的と考えられ、自然回復には2~3年を要することが多いです。しかし、患者の27~50%が長期間にわたる痛みや機能障害を報告しています 。現在の治療法では、疾患進行後の線維化が既に進行した状態に焦点を当てており、初期段階での介入方法が必要とされています。
2. 病態生理のメカニズム
炎症と線維化の進行
凍結肩は以下のメカニズムで進行します:
• 初期段階: アラーミン(HMGB1など)が放出され、免疫系を活性化します。この段階で炎症性サイトカイン(TGF-β1、IL-1、IL-6など)が関与し、線維芽細胞の増殖と活性化を誘発します。
• 進行段階: 線維芽細胞が筋線維芽細胞に分化し、過剰なIII型コラーゲンを生成します。この結果、肩関節包が肥厚し、可動域が制限されます 。
慢性的な低度炎症の関与
糖尿病や甲状腺疾患、心血管疾患は凍結肩のリスク因子であり、これらの疾患に伴う慢性的な低度炎症が疾患発症に関与していると考えられます 。
3. 組織学的および細胞学的変化
初期段階
• 炎症反応: 滑膜過形成、血管新生、神経新生が見られます。
• サイトカインの過剰発現: TGF-β1やVEGFが肩関節包組織で高発現しています。
後期段階
• 線維化: 組織は高密度で無秩序なIII型コラーゲンを特徴とする線維化を示します。
• 筋線維芽細胞: α-SMA染色で線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化が確認されています 。
4. 臨床的示唆と治療の方向性
早期介入の重要性
• ステロイド注射: 炎症反応を抑制する効果があり、初期段階での投与が推奨されます。
• 理学療法: 組織の刺激性に応じたストレッチが線維化の進行を抑制する可能性があります。
将来の治療法
• TGF-β阻害剤: 局所注射により全身副作用を最小限に抑えつつ効果を期待できます。
• リラキシン-2: ECM分解を促進し、線維化を抑制する可能性があります 。
5. 結論
凍結肩の病態生理は炎症と線維化の複雑な相互作用を伴います。将来的には、炎症段階での介入が重視され、疾患進行を阻止する治療法の開発が期待されます。また、個々の患者の自然経過を予測するためのバイオマーカーの研究が重要です。
参考
“The puzzling pathophysiology of frozen shoulders – a scoping review”