部分腱板断裂(Partial Rotator Cuff Tears, PT-RCTs)のリハビリテーション
1. はじめに
部分腱板断裂(PT-RCTs)は、成人の肩の痛みの最も一般的な原因の一つとされており、特に60歳以上の高齢者に多くみられます。本記事では、PT-RCTsの分類、病因、治療戦略、手術後のリハビリテーションについて、最新の文献レビューをもとに詳しく解説します。
2. 部分腱板断裂の分類
Ellmanの分類に基づき、PT-RCTsは以下の3つに分類されます。
• 関節側断裂(Articular-sided tears):最も頻度が高く、腱板の関節面側に発生。
• 滑液包側断裂(Bursal-sided tears):最も痛みが強く、肩峰下インピンジメントと関連。
• 内在性断裂(Interstitial tears):腱板内部に発生し、MRI診断が必要。
深さによっても分類され、
• 3mm未満の浅層
• 3~6mmの中間層
• 6mm以上の深層
と定義されています。
3. 病因と危険因子
PT-RCTsの発生には、以下のような多因子が関与します。
加齢と生活習慣
• 加齢:年齢とともに腱の変性が進行し、断裂のリスクが増加。
• 喫煙:血流低下を引き起こし、腱の修復能力を低下させる。
• 肥満(BMIの増加):腱の脂肪浸潤を増加させる要因。
基礎疾患
• 糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、脂質異常症:腱の脆弱性を高める。
外傷と過負荷
• スポーツや職業による反復動作(特にオーバーヘッド動作)
• 外傷:急性発症の断裂の原因。
特に、肩の前方脱臼を経験した若年アスリートでは、PT-RCTsのリスクが高いと報告されています。
4. 治療戦略
PT-RCTsの治療は、保存療法と手術療法に大別されます。
保存療法(非手術的治療)
• 3ヶ月以上の理学療法と疼痛管理(NSAIDs、PRP療法、ステロイド注射など)。
• 筋力強化と可動域訓練:特に腱板筋群と肩甲骨周囲筋の強化が重要。
• 日常生活の動作改善と姿勢指導。
適応
• 症状が軽度で、腱の損傷が50%未満の場合。
• 若年者の急性発症例(スポーツ傷害など)。
手術療法
保存療法が奏功しない場合や、損傷が50%以上の場合は手術が検討されます。主に以下の手術方法があります。
1. トランステンドン修復術(Transtendon Repair)
• 特徴:腱を切離せずに修復し、腱の解剖学的構造を温存。
• 適応:良好な腱質を有する症例、6mm未満の部分断裂。
• 短所:術後の前方挙上・外旋筋力の低下、肩の拘縮リスク。
2. 完全修復術(Tear Completion Repair)
• 特徴:部分断裂を完全断裂に変換し、腱の変性部を除去して修復。
• 適応:6mm以上の深い断裂や慢性的な損傷。
• 短所:一部の健常腱を切離するため、回復に時間がかかる可能性。
3. 二重列縫合(Double-row Repair)
• 特徴:腱の骨への接触面積を増やし、治癒率を向上させる。
• 適応:1cm以上の断裂。
• 短所:手術時間の増加、コストの増大。
選択のポイント
• 高齢者や慢性例 → 完全修復術が適応
• 若年者やスポーツ選手 → トランステンドン修復術が適応
術式の選択は、術者の経験や患者のライフスタイルによっても左右されます。
5. 術後リハビリテーション
手術後のリハビリは、腱の治癒と肩の機能回復に重要です。
術後 0~4週(急性期)
• 三角巾で固定(2~4週間)
• 痛みを伴わない範囲での受動運動(ペインフリーROM)
術後 4~6週(回復初期)
• アクティブアシストエクササイズ開始
• 肩甲骨周囲筋の軽度トレーニング
術後 6~12週(機能回復期)
• 腱板筋群の筋力強化(等尺性収縮 → 動的収縮)
• 低負荷での外旋・内旋運動
術後 12週以降(競技復帰期)
• 漸進的な負荷増加
• ウエイトトレーニングやオーバーヘッド動作の再開(3~6ヶ月後)
リハビリのポイント
• 術式によってリハビリプログラムは異なるため、個別調整が必要。
• 二重列修復術では、リハビリを慎重に進める。
• 肩の可動域回復と疼痛管理が重要。
6. まとめ
部分腱板断裂(PT-RCTs)は加齢や生活習慣、スポーツ活動によって発生しやすく、その治療選択は個々の患者の状態に依存します。
• 保存療法が第一選択だが、症状が持続する場合は手術適応を考慮。
• 術式は症例ごとに異なるが、解剖学的修復を重視する流れが主流。
• 術後リハビリが回復の鍵となるため、理学療法士の役割が非常に重要。
患者の年齢や活動レベルを考慮しながら、適切な治療戦略を選択することが求められます。
論文名
Partial Rotator Cuff Tears: a review of the literature