広範囲筋腱板断裂に伴う肩甲上神経障害と関節鏡視下修復術の有効性
概要
広範囲腱板断裂は、患者によっては軽度の症状で良好な機能が保たれる場合もありますが、強い痛みと機能障害を伴うケースもあります。肩甲上神経障害(suprascapular nerve dysfunction, SSND)がこれらの断裂と関連し、関節鏡視下修復術が機能改善に寄与する可能性が指摘されています。本記事では、肩甲上神経障害の病態、診断法、そして手術による治療効果について詳述します。
肩甲上神経障害と広範囲腱板断裂の関係
肩甲上神経は、肩甲骨の横走靭帯の下を通過する比較的固定された解剖学的位置にあります。このため、腱板断裂による腱の収縮が肩甲上神経を牽引し、神経障害を引き起こすことがあります。この障害は、痛みと筋力低下を特徴とし、患者は肩関節の外転や外旋が困難になります。
主な症状
• 激しい肩の痛み
• 外転および外旋時の筋力低下
• 動作時の遅れ(ラグサイン)
診断
診断は、臨床所見に加えて**電気生理学的検査(EMGおよび神経伝導速度測定)**によって行います。神経障害が確認される場合、関節鏡視下修復術が有効な治療法となる可能性があります。
研究概要
本研究では、広範囲腱板断裂を有する216人の患者のうち26人が肩甲上神経障害を伴うことが確認されました。これらの患者に対し、部分的または完全な関節鏡視下修復術を行い、その後の経過を評価しました。
• 患者データ
平均年齢: 57.3歳(41〜73歳)
受傷から手術までの期間: 平均8ヶ月
全患者が痛みと筋力低下を訴え、外旋ラグサインが確認されました。
• 手術方法
関節鏡視下修復術はビーチチェアポジションで行われ、術中には腱板の後部を中心に修復が行われました。腱板の一部が修復不可能な場合は、部分的な修復が選択されました。
• リハビリテーションプロトコル
術後6週間は外旋位保持装具を使用し、その後徐々に活動を再開しました。筋力強化は術後4ヶ月以降に開始されました。
手術結果と考察
術後の追跡調査では、肩甲上神経障害の回復が確認され、全患者で痛みが軽減し、機能が大幅に改善しました。
術後の主な改善点
• 痛みの完全消失
• 外転および外旋の筋力向上
• 神経伝導速度検査での回復確認
また、術後の機能改善は肩甲上神経の牽引が軽減されたことと関連がありました。修復された腱板が肩甲骨の神経への圧迫を取り除いたため、神経障害が改善したと考えられます。
臨床的意義と推奨事項
本研究は、広範囲腱板断裂に対する関節鏡視下修復術が肩甲上神経障害の治療に有効であることを示唆しています。
そのため、以下の点を推奨します。
1. 診断時に電気生理学的検査の実施
肩甲上神経障害が疑われる場合は、術前に神経伝導速度測定を行い、障害の有無を確認することが重要です。
2. 関節鏡視下修復術の適応
肩甲上神経障害が確認された場合、部分的な修復術であっても神経の圧迫を軽減し、機能改善が期待できます。
3. 術後のリハビリテーション計画の重要性
術後早期は腱板修復部位を保護しつつ、段階的に機能回復を図るリハビリテーションが必須です。
結論
肩甲上神経障害は広範囲腱板断裂と高い関連性があり、関節鏡視下修復術によって痛みと機能が改善される可能性があります。術前診断と適切な術後管理が成功の鍵となります。
論文名
Suprascapular Neuropathy Associated with Massive Rotator Cuff Tears: A Rationale for Arthroscopic Rotator Cuff Repair