肘の屈曲・伸展運動が肩関節機能に与える影響:詳細なエビデンスと解説



肘関節の運動が肩関節に及ぼす影響について、筋の働き、関節の可動性、動的連動性(ダイナミックカップリング)などの観点から詳しく解説します。

1. 肘の屈曲・伸展と肩関節の可動域の関係

1.1 受動的筋力不足(Passive Insufficiency)の影響
• 肘の完全屈曲は肩の屈曲を制限する
• 肘を完全に屈曲すると、上腕二頭筋が短縮し、肩の屈曲を妨げる (Gajdosik et al., 1994)。
• 上腕二頭筋は肩関節と肘関節をまたぐ二関節筋であり、短縮すると肩の動きが制限される。
• 肘の完全伸展は肩の伸展を制限する
• 肘が伸展すると、上腕三頭筋が伸長し、肩の伸展が制限される (Gajdosik et al., 1994)。
• これも上腕三頭筋が二関節筋であり、肘の伸展により過度に伸ばされることで肩関節の伸展動作を妨げるため。

1.2 肘の角度による肩関節の筋活動の変化
• 肩関節外転時、肘の角度によって主要な筋活動が変化 (Yu et al., 2011):
• 肘が伸展した状態:三角筋前部・中部および棘上筋が主に外転を担う。
• 肘が90°屈曲した状態:三角筋前部と肩甲下筋が外転の主動筋となる。
• → これは肩関節と肘関節が連動しているため(ダイナミックカップリングの影響)。

2. 肘の屈曲・伸展が肩甲骨運動に与える影響

2.1 肘屈曲が肩甲骨の上方回旋を促進
• 肘を屈曲した状態で肩を屈曲すると、肩甲骨の上方回旋が増加する (Rabin et al., 2021)。
• この際、前鋸筋の活動が増加し、肩甲骨がより安定する。

2.2 肘関節の位置が肩甲上腕リズムに及ぼす影響
• 肩のインピンジメント症候群患者に有効:
• 肘を屈曲した状態で肩を動かすと、肩甲骨の上方回旋が強調され、肩甲上腕リズムが改善する。
• その結果、肩峰下スペースが確保され、インピンジメントのリスクが低減する (Rabin et al., 2021)。

3. 肘関節の筋力が肩関節機能に及ぼす影響

3.1 肩の角度が肘の筋力発揮に影響
• 肩が屈曲している状態では肘の屈曲・伸展トルクが低下する (Günzkofer et al., 2011)。
• これは筋の長さ-張力関係により、筋が短縮した状態では最大トルクを発揮しにくいため。

3.2 上腕三頭筋の肩伸展作用
• 肩を伸展させると、上腕三頭筋の肩伸展モーメントが増大 (Landin & Thompson, 2011)。
• 肩の伸展角度が大きいほど、上腕三頭筋が強く関与する。

4. 臨床的な応用

4.1 肘の屈曲を活用した肩関節リハビリ
• 肩の可動域拡大:
• 肩の屈曲運動を促進する場合 → 肘を軽く屈曲した状態で行うと、肩甲骨の動きを補助しやすい。
• 肩の伸展運動を促進する場合 → 肘を軽く伸展させることで、上腕三頭筋の補助を得られる。
• 肩のインピンジメント症候群への応用:
• 肘を屈曲した状態での肩屈曲運動を導入することで、肩甲骨の上方回旋を強調し、肩関節内でのインピンジメントを軽減。

4.2 肘関節の角度を考慮したトレーニング
• 筋活動の最適化:
• 肘を伸ばした状態での肩の外転運動では三角筋中部・棘上筋が主に働く。
• 肘を90°屈曲した状態では三角筋前部と肩甲下筋の活動が増加する。
• 肘関節トルクの影響:
• 肩の屈曲角度が大きくなると、肘の屈曲・伸展筋力が低下するため、トレーニング時には適切な負荷設定が重要。

まとめ
• 肘の屈曲・伸展は肩関節の可動域に影響を与える(上腕二頭筋・三頭筋の受動的張力の影響)。
• 肘の角度により肩関節の筋活動が変化する(ダイナミックカップリングの影響)。
• 肘の屈曲は肩甲骨の上方回旋を促進し、肩の機能改善に有効。
• 肩の角度が肘の筋力発揮能力に影響を及ぼすため、トレーニング時の考慮が必要。

リハビリやトレーニングでは、肘の角度を意識して運動を実施することで、肩関節の機能をより効率的に改善できることが示唆されます。

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