自己運動療法は肩関節拘縮(凍結肩)に有効か?—Adapted Self-Exerciseの臨床的効果の検証


はじめに

肩関節拘縮(凍結肩、adhesive capsulitis)は、関節包の線維化や肥厚、炎症により肩関節の可動域が制限され、痛みを伴う疾患です。この疾患は自然経過で改善することがあるものの、数か月から数年を要する場合が多く、生活の質(Quality of Life, QoL)を大きく損ないます。初期治療としては、薬物療法、理学療法、自己運動療法が推奨されますが、どの運動療法が最も効果的かについては議論が続いています 。

本研究では、特にCOVID-19パンデミック下で自己運動療法の重要性が再認識されたことから、修正された少数の運動セット(Adapted Self-Exercise)が通常の運動セットと比較してどの程度の効果を発揮するかを検証しました。

研究目的

肩関節拘縮において、自己運動療法は頻度が高いほどその効果が増すことが過去の研究で示されています。しかし、運動の種類が多すぎると患者が混乱し、運動頻度が低下するという問題があります 。
そこで、本研究の目的は、簡素化されたAdapted Self-Exerciseが疼痛、肩機能(ASESスコア)、可動域(Range of Motion, ROM)の改善において通常セットと比較してどのような効果をもたらすかを評価することです。

研究デザインと方法

対象者
• 40歳以上の肩関節拘縮患者70名を対象に実施。
• 無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial)として2群に分け、各群35名がそれぞれ異なる自己運動セットを行いました。
• 評価期間は3か月間で、1か月ごとに疼痛スコア、ASESスコア、可動域を測定しました。

自己運動セットの内容

Group I(通常セット)
1. 壁登り運動(前方)
患側の手を壁に当て、手をできるだけ上方に滑らせます。
2. 壁登り運動(側方)
側方に壁を置き、同様に手を上方へ滑らせます。
3. タオルを用いた肩のストレッチ
背中でタオルを握り、健側の手でタオルを引き上げて患側の肩を伸ばします。

Group II(修正セット)
1. 立位での前方屈曲ストレッチ
壁に背を向けて立ち、患側の腕を上方へ持ち上げ、健側の手で軽く補助しながら伸ばします。
2. 立位でのスリーパーストレッチ
壁に向かって横向きに立ち、腕を肩の高さに持ち上げて肘を曲げます。健側の手で患側の前腕を内側に押し、後方関節包を伸ばします。
3. ドア枠またはコーナーストレッチ
両肘を曲げてドア枠に手を当て、前方に体重をかけて肩前面を伸ばします。

結果

ベースラインでの患者背景
• 性別、年齢、BMI、基礎疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の分布に有意差はありませんでした(p>0.05)。
• **疼痛スコア(p=0.046)とASESスコア(p=0.043)**では、修正セット群(Group II)の方がベースラインで若干高い値を示しましたが、可動域には大きな差はありませんでした 。

疼痛スコアの変化
• Group I(通常セット):6.3 ± 2.1から2.8 ± 1.8へ改善(p<0.001)
• Group II(修正セット):7.1 ± 1.5から2.7 ± 1.2へ改善(p<0.001)

修正セット群の疼痛スコア改善度(-4.5 ± 1.7)は通常セット(-3.5 ± 2.4)と比較して有意差がありました(p=0.049) 。

ASESスコアの変化
• Group I(通常セット):41.1 ± 15.8から59.3 ± 13.6へ改善(p<0.001)
• Group II(修正セット):48.1 ± 12.5から71.2 ± 10.8へ改善(p<0.001)

修正セット群は通常セットよりも有意に大きな改善を示しました(p=0.038) 。

可動域の変化
• 全方向で有意な改善が見られましたが、特に**前方屈曲(42.9 ± 21.2度の改善)と外転(52.2 ± 28.3度の改善)**が顕著でした(p<0.001) 。

考察

本研究の結果は、修正された自己運動療法(Adapted Self-Exercise)が肩関節拘縮の治療において有効であることを示しました。以下の要因がその背景に考えられます。

1. スリーパーストレッチの効果

後方関節包の伸張により、内旋可動域が改善しました。これはLaudnerらの研究でも報告されており、スリーパーストレッチが関節可動域拡大に寄与することが確認されています 。

2. 立位での運動の利便性

従来のスリーパーストレッチは仰臥位で行う必要があり、スペースを必要としますが、本研究ではこれを立位で行うように修正し、患者の運動継続率向上に寄与しました。

3. 肥満患者への効果

BMI≥23の患者では、通常セットよりも修正セットの方が疼痛スコアと可動域改善が顕著でした。肥満患者にとっては、タオルを背中で持ち上げる運動が難しいため、スリーパーストレッチやドア枠ストレッチの方が実施しやすいと考えられます 。

結論

修正された少数の自己運動療法(Adapted Self-Exercise)は、肩関節拘縮の疼痛緩和、機能改善、可動域拡大において有効であり、特に肥満患者にとって実施しやすく有用な治療オプションとなり得ます。今後の研究では、さらなるサンプル数の拡大と長期的な追跡調査が必要です。

論文名
Does Adapted Self-Exercise Have Benefits for Stiff Shoulders?

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