高齢者の骨折:疫学、リスク因子、予防策



日本では高齢化が急速に進行しており、それに伴い高齢者の骨折も増加しています。特に脊椎骨折、大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折が臨床的に重要とされています。本記事では、各骨折の発生率、危険因子、そして予防策について解説します。

1. 高齢者に多い骨折の種類と特徴

① 脊椎骨折

発生率・有病率
• 60歳代で7.6~14%、70歳代で37~45%と報告されています。
• 特に第6~8胸椎、胸腰椎移行部に多発。

危険因子
• 骨量減少:骨粗鬆症による骨脆弱化
• ホルモン関連要因:初経年齢が遅いとリスク増
• 既往歴:脊椎骨折の既往があると新たな骨折リスクが約5倍

② 大腿骨近位部骨折

発生率
• 50歳以下では発生率が低いが、60歳以上で増加し、70歳以降に指数関数的に上昇。
• 70歳代前半までは頸部(内側)骨折が多いが、70歳代後半から転子部(外側)骨折の方が増える。
• 日本の発生率は欧米の1/2~1/3と低いが、増加傾向にある。

危険因子
• 骨量減少
• 転倒:転倒のリスク因子には視力低下、バランス能力低下、薬剤(睡眠薬、降圧剤など)使用がある。
• BMIの低下
• 生活習慣:肉食、喫煙、カフェイン、飲酒がリスクを上げる。

③ 橈骨遠位端骨折

発生率
• 女性で50歳代後半から急増し、60~70歳でピーク(年間10万人あたり300~400人)。
• 80歳以上では発生率が低下する(身体活動の低下による影響)。

危険因子
• 骨量減少
• 転倒(特に活動性の高い人に多い)
• 飲酒、動物性タンパク摂取
• 歩行頻度が多い、歩行速度が速い

④ 上腕骨近位端骨折

発生率
• 60歳代後半から直線的に増加し、85歳以上の女性で年間10万人あたり220人。
• 男性では加齢による発生率増加はほとんどない。

危険因子
• 骨量減少
• 活動性の低下(歩行頻度が少ない)
• 健康状態の悪化
• インスリン依存性糖尿病

2. 高齢者の骨折予防策

① 骨脆弱化の防止・改善
• 運動療法・食事療法
• 薬物療法
• ビスフォスフォネート(アレンドロネート、リセドロネート):骨折リスクを約半減
• 活性型ビタミンD3、エストロゲン、ビタミンK2 など

② 転倒予防
• 環境改善
• 滑りやすい床、じゅうたんのめくれ、障害物の除去
• 手すりの設置、照明の改善
• 身体機能の維持
• バランストレーニング、筋力強化(特に下肢)
• 転倒防止プログラム(太極拳など)
• リスク因子の管理
• 不整脈、低血圧、パーキンソン病の管理
• 向精神薬や睡眠薬の調整

③ 転倒時の衝撃緩和
• ヒッププロテクター
• 大腿骨近位部骨折リスクを約3分の1に低下。
• ただし、装着の不快感や使いにくさが課題。

3. まとめ
• 日本では高齢化の進行により、骨折患者が急増している。
• 大腿骨近位部骨折の患者数は2030年に2.3倍に増加すると予測。
• 予防策としては、骨密度の維持、転倒予防、衝撃緩和対策が不可欠。
• 特に骨折歴のある患者では、再骨折リスクが高いため積極的な介入が必要。

今後の高齢社会において、理学療法士は骨折予防とリハビリテーションの重要な役割を担うことになります。患者の生活環境や身体機能に合わせた指導を行い、骨折を防ぎ、健康寿命を延ばすことが求められています。


論文名
高齢者の骨折
著者
鳥取大学医学部附属病院リハビリテーション部
萩野浩
理学療法ジャーナル(PTジャーナル)第39巻第1号(2005年1月)

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