腱板の脂肪浸潤が起こる原因

腱板の脂肪浸潤(Fatty Infiltration, FI)は、腱板断裂後に筋肉が変性し、脂肪組織が浸潤する現象です。これは腱板修復の予後に大きく影響を与え、不可逆的な変化とされています。以下、最新の研究に基づき、その主な原因を説明します。

1. 腱板断裂と機械的負荷の喪失
• 腱板断裂が発生すると、筋肉が適切に収縮できなくなり、筋萎縮が進行します。
• 研究によると、腱板断裂後6週間で脂肪浸潤が進行し始め、その後も時間とともに増加することが確認されています (Rubino et al., 2007)。
• MRIを用いた研究では、腱板修復後も脂肪浸潤の進行が見られ、特に広範囲な断裂では脂肪浸潤が進行しやすいことが示されています (Lansdown et al., 2017)。

2. 筋萎縮と線維化の進行
• 腱板断裂後、筋線維が減少し、脂肪細胞や結合組織が侵入することが報告されています (Goutallier et al., 1995)。
• 筋の線維化が進行すると、筋力回復が困難になり、修復後の機能回復が制限されることも示唆されています (Kuzel et al., 2013)。

3. 血流低下と筋変性
• 腱板断裂後、筋への血流が低下し、低酸素状態が脂肪浸潤を促進する可能性が指摘されています (Deraedt et al., 2024)。
• 特に棘上筋や棘下筋は血流が乏しく、脂肪変性の進行が早いことがCT研究で確認されています (Melis et al., 2009)。

4. 炎症とサイトカインの影響
• 慢性的な炎症が腱板周囲に存在すると、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-αなど)が分泌され、筋組織の脂肪変性が加速することが示されています (Hu et al., 2019)。
• これらの炎症性物質は、脂肪細胞の分化を促進し、筋線維の再生を阻害する作用があります。

5. 加齢と遺伝的要因
• 年齢が高くなるほど、脂肪浸潤が進行しやすいことが示されており、50歳を超えると顕著に脂肪浸潤が進行する傾向があります (Gueniche & Bierry, 2019)。
• 一部の研究では、遺伝的な影響も示唆されており、特定の遺伝子が脂肪変性のリスクを高める可能性があると報告されています (Hu et al., 2019)。

まとめ

腱板の脂肪浸潤は、腱板断裂による機械的負荷の喪失、筋萎縮、血流低下、炎症の影響、加齢などの要因によって進行します。脂肪浸潤が進むと腱板修復の成功率が低下し、機能回復が困難になるため、早期診断と適切な治療(リハビリや手術)が重要です。

エビデンスに基づいた適切な介入を行うことで、脂肪浸潤の進行を遅らせ、肩関節の機能を維持することが可能になります。

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