肩関節疾患の評価と運動療法のポイント


肩関節の解剖・病態から効果的なアプローチを考える

1. 肩関節の特徴と課題

肩関節は球関節であり、運動性が高い一方で安定性に乏しいという特性があります。この構造的な脆弱性により、肩関節疾患は理学療法士が頻繁に取り扱う課題となっています。特に、以下の特徴が重要です:
• 臼蓋と上腕骨頭の関係
肩甲上腕関節の関節窩は上腕骨頭の約1/3の面積しかなく、安定性の確保には周囲組織(靭帯、腱板筋群)の働きが不可欠です。
• 腱板筋群の役割
腱板を構成する4筋(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)は、上腕骨頭を安定させる「シャツの袖口」のような役割を果たしています。この筋群は羽状筋の構造を持ち、微細な運動や安定性の調節に貢献します。
• 肩関節の動的・静的安定機構
肩関節の安定性には、陰圧による静的安定性と腱板筋群による動的安定性が関与しており、双方の評価が必要です。

2. 肩関節疾患の概要

調査によれば、肩関節疾患の約56%は炎症性疾患が占め、腱板炎や疼痛性肩関節制動症(いわゆる五十肩)が主な症例として挙げられます。また、肩関節不安定症には以下の2種類があります:
1. 外傷性不安定症
スポーツや事故により発生し、関節唇や靭帯の損傷(例:バンカート病変)が特徴です。
2. 非外傷性不安定症
動揺性肩関節症や習慣性脱臼など、関節の弛緩性が原因となるもの。

3. 評価と治療アプローチ

肩関節の評価・治療には以下の視点が求められます:
1. 痛みの把握
• 安静時痛(夜間痛を含む)や運動時痛の特定。
• 疼痛部位や痛みの質を記録し、画像所見と併せて分析する。
2. 運動制限の特定
• 肩甲胸郭関節や肩甲上腕関節の制限を分けて評価。
• 関連筋群の触察によりスパズムや圧痛部位を確認する。
3. 筋活動と姿勢の評価
• 肩甲骨の動きや安定性を調べ、運動連鎖の視点で全身の関与を考慮する。
4. 動作環境での動的評価
• 挙上動作、結帯動作など日常生活動作を観察し、肩関節の協調性や可動域を確認する。

4. 病時期を考慮した運動療法

肩関節疾患の運動療法は、病時期に応じた適切な介入が鍵となります:
• 急性期
安静時痛が強い場合は、アイシングや疼痛緩和のためのポジショニングを優先。
• 慢性期
筋力強化、柔軟性の向上、動的姿勢制御を目的としたリハビリを行います。

また、関節モビライゼーションや腱板トレーニング、姿勢矯正など、個々の患者の状態に合わせたアプローチが必要です。

5. 全身を考慮した「みかた」の重要性

肩関節は、体幹や下肢を含む全身の運動連鎖の中で機能します。そのため、局所的な問題だけでなく、全身のバランスや姿勢を含めた評価が必要です。例えば、円背や骨盤後傾が肩の可動性に影響を与える場合があります。

終わりに

肩関節疾患の治療において重要なのは、患者の訴えや状態に基づいた仮説を立て、評価と治療を段階的に行うことです。局所の解剖や病態を理解しつつ、全身の視点を取り入れたアプローチを磨くことで、より効果的な介入が可能となるでしょう。

参考文献:
遊佐隆.「肩関節疾患と運動療法について」理学療法の科学と研究 Vol. 1 No. 1 (2010).

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