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親切と成長促進のバランス#188

「先生、本部園の園コード知っていますか?」

副主任保育士・K先生が私に尋ねた。本部園で一括申請した研修の報告資料の提出に、そのコードが必要らしい。

「知らないわ。電話して聞いてみたら?」

そう答えると、K先生は「電話ですか……そうですよね。でも、どこかに書いてたりしないですかね~」と、どこか電話をかけることをためらった。

元々の私ならば、「私が確認しておくわ!」と、頼まれる前に先回りし彼女をサポートしていただろう。我ながら、かゆいところに手が届く存在だったと思う。

ある瞬間、その親切が同時に彼女の成長を妨げていることに気づいた。

彼女にとって「困ったら察して助けてくれる」が当たり前になってしまうと、自ら問題を解決する力を育てる機会、意欲を奪っていく。

園児の保護者に対して、「転ばぬ先の杖は、子どもの発達の機会を失う」と幾度となく伝えてきた私も、結局は同じことをしていたのだ。

私は、K先生の“手足”となるサポートではなく、彼女の“成長”を支える存在でありたいと思う。

「K先生が困っていたら、つい助けたくなるねんな」

「いつも本当にありがとうございます。めっちゃ助かってます」

「周りの人がつい助けたくなるのは、K先生の大きな武器やね。正直、羨ましいくらい。でもね、私は先生を助けるのを“わざと”やめることにしたわ。いつも誰かが助けられるわけでもないしね。本当に大事なことなら、人の手を借りるのも必要やけど、そうじゃないなら、自分でさっさと解決できる方がいいと思って」

「確かに、そうですよね……」

その時、主任が勤務を終え、帰宅前に事務室に寄った。

「先生、本部園のコードをご存知ないですか?」

K先生は主任に尋ねた。「えっ?さっきまで一緒だったから聞けたのに〜」と驚いた様子。
急ぎ足で帰ろうとしていた主任だったが、「本部に電話だけしてから帰るわ〜」と足を止め、受話器を取った。

K先生は、退勤し、お子さんのお迎えに向かおうとしていた、上司の貴重な時間を奪ってしまったことに気づき、「いえ、自分でかけます」と申し出たが、主任の行動の方が早かった。

結果としてK先生は、自らの苦手を回避できたことに安堵していた。しかし同時に、自分で解決しようとしなかったことが、多忙な上司の手を煩わせたことも痛感したようで、気まずく、申し訳そうな表情をしていた。今回は、対症療法的な対応で事なきを得たが、遠くないうちに根本的な解決に向けて自ら行動しだすのだろうなと期待している。

親切な人は、無意識レベルで勝手に親切な行動に体が動くので要注意だ。
自分の何気ない優しさが、誰かの自立の足を無駄に引っ張っていないか、自分の行動を顧みて調整していく必要がある。

本当の優しさとは、目の前の問題を代わりに解決してあげることではなく、自ら解決できる力を育むサポートをすることなのだと思う。
スモールステップで、つまり小さな問題を自分で解決する機会を意図的に増やしていくということが大事になる。
質問に対して速攻で答えてあげる(これも優しい人はついついやりがちだ)のではなく、ヒントとなるキーワードだけ与えるなど、自分の頭で考える力を養う。
自分の頭でイメージできると腹落ちするし、行動にも繋がりやすい。
これが、子育てや人材育成の醍醐味だな、と思っている。


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