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【すっぱいチェリーたち🍒】 ⑤スピンオフ 彩子目線の剣道部編2346文字



私の名前は貝差彩子かいささいこ、きょうは2週間前にこの田梨木たりき高校に転校してきたクラスメートの圭子けいこを私の所属している剣道部の見学に連れてきた。

剣道部の顧問は英語担当の青野あおの先生だが、育休中で、その間非常勤講師の早戸はやと先生が臨時顧問となった。

きょうは早戸先生のつてで県立横浜虎戸よこはまとらど高校から1年生2年生と全国高校剣道選手権女子の部で2連覇達成した柳生  香やぎゅうかおりが練習試合に来ることになっていた。

私は昨年個人戦で決勝まで進み柳生 香に惜しくも負けた。

圭子は剣道は未経験だが、先日の競技かるた部の話を聞いて、反射神経が良さそうなので剣道でも強くなりそうな気がする。

体験してもらうために私の予備の剣道着と袴を貸してあげたが、びっくりするくらい似合っていた。
見た目だけは十分有段者だ。


横浜虎戸高校はハマトラと呼ばれていた、ハマトラの剣道部員たちが武道場に入ってきた。

「杉本先生、きょうは無理をお願いして、遠いところをありがとうございます」
早戸先生がそう言うと

「早戸先生の頼みなら、きかない訳にはいきませんよ」杉本先生と呼ばれた顧問と思われる女性は長身でまるで女優の菜々緒のようだった。

「彩子、久しぶり!」柳生 香が私に声をかけてきた。
「きょうはお忙しいところ、ありがとうございます」私は1学年上の柳生 香に敬語で返答した。

「あの子は?」柳生 香が圭子の方を見て訊いてきた。
「あぁ、最近転校してきた子で、圭子って言うんですけどきょうは体験入部で見学に来ているんです」
私がそう言うと
「ふーん、ちょっとあの子と試合させてくれない?」

「えっ?、剣道未経験の素人ですよ、日本一の香さんの相手なんか恐れ多いですよ」
私がそう答えると
「いいから、やらせて」柳生 香はそう言うとニヤリと笑った。




「始めっ」 主審の早戸先生の発声で、柳生 香と圭子の練習試合が始まった。
副審は菜々緒似の杉本先生と私が務めることになった。

圭子は素人とは思えぬほどさまになっていた、まるで隙がないような構えだ。

両者の動きが止まった。
2人ともまばたきひとつせず、じっと相手の目を見ている。
息が詰まるような緊張感の中、見学者の誰かが我慢できず咳払いをした。

その瞬間、圭子が柳生香のめんに向かって竹刀しないを振り下ろした。面が決まったかと思ったとほぼ同時に柳生 香の竹刀が圭子の小手こてに当たった。

赤旗が3本上がった。
「小手あり!」主審の早戸先生が叫んだ。

両者蹲踞そんきょの姿勢から一礼してそれぞれの部員の方へ戻った。


圭子が面を外して、汗を手拭いで拭いてると柳生 香がやってきて圭子に向かって口を開いた。
「やってたでしょ」
「やってないです」圭子が答えた。

「でも、できてたわよね」柳生香がそう言うと
「できちゃってましたかね、だけどさすが日本一です、見事にやられました」圭子が答えた。

「もし、本物の真剣でやっていたら、あなたは右手にかすり傷を負って、私は、額を割られて死んでいたわ…あと…借りを作るのは好きじゃないんだけど…ありがとう…」柳生 香はそう言うとニコリと微笑んで、きびすを返した。

「借りってなんのこと?」私の問いに圭子は
「さあ?」と答えた。




「きょうは、本当にありがとうございました」
早戸先生と私が菜々緒似の杉本先生にお礼を言った。
「こちらの方こそ、いいもの見せてもらって、あの圭子っていう子、面白そうな子ね。
気を遣ってくれてありがとうと言って…いや、やっぱりいいや」
菜々緒はそう言うと頭を下げて武道場の出入口に向かった。

「じゃあ、あとお願いね」
早戸先生は私にそう言うと、ハマトラの剣道部員たちの見送りに向かった。


その時、同じクラスの級長の吉田吉夫が私の方へ向かって走ってきた。

「一体どうしたの、血相変えて」私がそう言うと吉田は「とにかくこれを見てくれ」と言ってタブレットを私に見せた。

「さっきの柳生 香と圭子の試合を超高速カメラで撮影して、スーパースローで今見てたんだけど…ここ…圭子の竹刀が柳生香の面を打つ5/100秒前に柳生 香の竹刀が圭子の小手に当たっているよね」吉田がそう言って私の顔を見た。

「そうね、これだとよくわかるわね」

「ところが、ここよく見て、圭子の竹刀が柳生 香の面に当たる1センチ位手前で竹刀が6/100秒その位置で止まってるんだ」

「どういうこと?」
「つまり、圭子は自分の竹刀が相手の面に当たる前に故意に時間を作って、自分の小手に相手の竹刀が当たってから自分の竹刀を動かした。
そのままやっていたら圭子の竹刀が1/100秒早く柳生 香の面を捉えて圭子の勝ちだった。
だけど現実的には5/100秒以下の差なら人間の眼では判断できないから、相打ちでどちらも1本にはならなかったと思うけど」

「じゃあ、圭子はその人間の判断がつくギリギリの5/100秒の差をつけてわざと負けたっていうこと?そんなことできるの?」

「普通はやろうと思ってもできない、人間技じゃない、でもそれしか説明がつかない」

「だけど何のためにわざと負ける必要があるの?」
私の問いかけに吉田はさもありなんと言った顔つきで

「そらそうよ、たとえ練習試合と言えども日本一の剣士が剣道未経験者に負けたら まずいっしょ」と言った。

吉田の説明を聞いて私は「うぉーん」と答えた。

圭子って一体…何者…

                                 To be continued

今回の主な出演者

彩子役 (彩夏さん)


圭子役 (圭果さん)  


早戸先生役 (パヤとバーシーさん)

吉田吉夫役 (よしよしさん)


柳生 香  友情出演

杉本 桂  友情出演

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