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【すっぱいチェリーたち🍒】圭子編(1828文字)


オレの名前は宇利盛男うりもりお田梨木たりき高校に通う17才。成績もスポーツもパッとしない。特にこれと言って得意なこともない。目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。

家から学校まで4km位距離があり近所の同級生は自転車で通っているが、オレは1時間かけて歩いて登校している。
何かを妄想しながら歩くのが好きなのだ。

きょうも歩いて登校していると学校まであと2km位というところで、誰かが道端でかがみこんでいた。
近づくとおばあさんが息苦しそうにしている。
あいにく周りには誰もいない。オレはスマホで119番に電話した。
近くの消防署の救急車が別の患者を運んでいるらしく到着まで30分位かかるらしい。このままほおっておくこともできず、オレは誰かが来るまでおばあさんを見守った。

20分経った。まだ救急車は来ない。30代位の男性が通りがかり事情を話した。

少し遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
「救急車も来たようです。ここは私に任せて君は学校へ行きなさい」
「すみません、あとはお願いします」
オレはそう言うと学校へ向かって走り出した。
(やばい、遅刻だ、今日までの無遅刻無欠席が途切れてしまう…)


ボボボボボボボボボー
突然けたたましいエンジン音とともに大きなバイクがオレを追い抜いて停まった。
ライダーは黒のレザージャケットを身にまとい、フルフェイスのヘルメットをかぶったまましゃべりかけてきた。
女性の声だった。

「すみません、田梨木高校ってどっちですか?」
「オレ、田梨木高校の生徒っす。そこの交差点を左折したらあとは1本道です」
「ありがとう、… よかったら乗ってく?」
「遅刻しそうなんで、助かります」
「オケ―」
「これナナハンすっか?」
「1200よ、ヤマハのV-MAXていうの」

バイクに乗せてもらうのは初めてだった。
「落ちないように、しっかり掴まっていてよ」
彼女の腰に手をまわした途端心臓が爆発しそうなくらいドキドキした。
ボボボボボボボボボーけたたましいエンジン音とともにバイクが走り出した。
今までに感じたことのないスピード感と爽快感だった。

 
あっという間に校門近くに着いた。余裕で間に合った。
他の生徒たちがみんなこっちをジロジロ眺めながら校門をくぐっていく。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
彼女はそういうと学校の塀をなめるように低速で走り出した。
 



「起立」
「礼」
「核兵器」
級長の吉田がそう言うと全員大爆笑した。

「コラー、阿久あく、どうせアンタの入れ知恵やろ、しょうもないこと吉田に言わすんやない、まあ核問題はしょうもないことはないけど、ノーベル平和賞も獲ったしって、そういう話じゃない。」
担任の油木ゆき先生はそう言うと自分の左手に立っている見たことのない女子生徒を見た。

「きょうからこのクラスに転校してきた圭子けいこさんです。みんな仲良くするように、席は波都子はとこの隣で、波都子しばらくの間、教科書を見せてあげたり、分からないことを教えてやってちょうだい」
了解道中膝栗毛りょうかいどうちゅうひざくりげ」波都子がそう言うと全員大爆笑した。
「これも阿久が言わせてるんか?オモロイけど」

たぶんこれは波都子が自分で言ったのだろう。
波都子は人一倍美容関係に詳しくて顔立ちもかわいいことから「おしゃれ番長」と言われている。授業の合間にはクラスの女子が波都子に化粧の仕方やお薦めのコスメ商品などを訊いたりしている。
そのくせ結構ギャグやダジャレを言ったりするので男子にも人気がある。


「では圭子さん自己紹介して」
担任の油木先生がそう言うと圭子が口を開いた。
「圭子です。トシさんの紹介でこの学校に転校してきました。皆さんよろしくお願いします」


… 教室がざわついた。
「トシさんって誰?」
「トシさん?」
「トシなんていうやついたっけ?」

教室がざわつく中、圭子がオレの横を通り過ぎて、波都子の席の隣に向かった。 
ほんのかすかにガソリンのようなオイルのような匂いがしたと思ったらすぐにそれを打ち消すかのように上品で甘くセクシーな香りが漂った。

気のせいか以前にも嗅いだような香りだった。

                                                                                      to be continued


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