【すっぱいチェリーたち🍒】 スピンオフ千代子編(1108文字)
私の名前は千代子、きょうは1週間前にこの田梨木高校に転校してきたクラスメートの圭子を私の所属している競技かるた部の見学に連れてきた。
競技かるた部の顧問は古文担当の垣野先生だ。
垣野先生が顧問になってから競技かるた部はみるみる強くなり、最近は3年連続全国大会出場、去年は決勝まで進んだが横浜の強豪校に惜しくも敗れ全国2位になった。
私は競技かるた部の部長で、昨年は個人戦でも2年生ながら決勝まで進み同じく2年生の横浜の広瀬しのぶに惜しくも負けた。
部員たちは和服を着て練習をしていた。
「ちょっとやってみる?」顧問の垣野先生が圭子に声をかけた。
「私、全然できま…」圭子が言い終わる前に垣野先生は食い気味に
「あなたの目の動きを見ていたらかなりの腕前ということは分かったわ。いいからちょっとやってみて。寿賀美さん、ちょっとお相手差し上げて」
「あっ、はい」
…
「ひさ…」
バシーン 『しつこころなく はなのちるらむ』と書かれた札が
垣野先生の目の前に飛んだ。その札を空中で垣野先生が右手の人差し指と中指で挟んだ。
「もういいわ」
7枚連続で圭子が札を獲ったところで垣野先生が口をはさんだ。
「千代子さん彼女に入部申込用紙を渡して」
私が圭子に用紙を渡そうとすると圭子が言った。
「あっ、ちょっと待ってください。少し考えさせてください」
「あなたが入部してくれたら、今年は全国優勝も狙えるわ、前向きに考えて」垣野先生はそう言うと両手で圭子の手を握った。
(実は圭子は事情があって留年している。高校3年生だがすでに19歳だ。もしかすると出場資格等のルールに抵触するかもしれない。県大会レベルならまだしも全国大会でそのことが問題になり部に迷惑をかけてもいけない。ちょっと慎重に考えた方がよさそうだ。)圭子は頭の中でそんなことを考えながら垣野先生に言った。
「なるべく早く返事します。きょうはありがとうございました。あと教員用駐車場に停めてあったカワサキの400先生のですか?」
「あら、よくわかったわね」
「さっき両手で手を握っていただいたときに何となくバイク乗られるのかなと思って、あのクルマ…結構渋いですね」
圭子が部室を出るときに2年生と3年生の部員たちが頭を下げた。
1年生部員は、正座したまま圭子の方を見ようともせず真正面を見続けていた。
たぶん頭の上に水の入った洗面器を乗せているせいだろう。
To be continued
今回の主な出演者
千代子役 (チョコさん) 特別出演
圭子役 (圭果さん) 友情出演
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