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新自由律川柳 10

あまつさえ 蜘蛛の巣 顔に 張りついた
(あまつさえ くものす かおに はりついた)


元歌
天津風(あまつかぜ)雲の通ひ路(かよひじ)
吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ

元歌の解説 
美しい乙女が踊る「五節ごせちの舞」※を見て、平安時代の和歌の名人である「六歌仙」「三十六歌仙」の一人僧正遍昭(そうじょうへんじょう)(816年ー890年)が詠んだ歌。
舞姫たちの姿を天女に見立てています。
舞姫たちが舞う姿があまりにも美しく、天女のようなその姿をもっと見ていたいと強く思ったためでしょうか。
「天に帰る通路を閉じてほしい」とストレートな願いを詠んで、名残惜しさを表現しています。
※「五節」は、陰暦11月に4日間、宮中で行われた舞姫による舞楽の行事。


今回の川柳の解説
「あまつさえくもの」まで元歌の韻を踏んでます。
それがどうしたと言われると困ります。
「あまつさえは」その上にという意味で、悪い事柄が重なった時に用いられます。

 ある夏の暑い日にあなたと私は一緒に森にカブトムシを採取しにいった。
あなたが木の枝に頭をぶつけた。
頭をぶつけただけでも災難なのに、あまつさえ
(さらに)そこに張られていた蜘蛛の巣が顔に張りついた。

少し背の高いあなたが木の枝に頭をぶつけたこと蜘蛛の巣が顔に張りついたこと 私は生涯忘れることはないでしょう。

息を止めて見つめる先にカブトムシを発見した時の嬉しそうな少し癖のあるあなたの声 私は生涯忘れることはないでしょう。

できることなら、ボーイフレンドのあなたが夢中になっているカブトムシに私はなりたい、あなたが夢中になってくれるなら一瞬で終わってしまう花火にでさえ私はなりたい、そんな無邪気で悲しい乙女心を感じさせる一句です。





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