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【すっぱいチェリーたち🍒】⑥スピンオフ 桂源雀 落研編2382文字




オレの名前は宇利盛男うりもりお田梨木たりき高校に通う17才。成績もスポーツもパッとしない。特にこれと言って得意なこともない。目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。


きょうは2週間前に転校してきた圭子にオレたちの部活を見学してもらうために、音楽室に向かって渡り廊下を歩いていた。


向こうから岡源おかげんがやってきた。
(やばい!)
「圭子、前から来る男と絶対目を合わさないように」 オレが圭子言った。

「どうして?」
「いいから、黙って」

岡源が圭子の顔をじっと見ている。
圭子も岡源の目をじっと見ていた。
両者睨み合ったまま、数秒が経った。

「見かけねぇ顔だな」岡源がそう言うと
「2週間前に転校してきたの、圭子って言います、それよりどうして和服を着ているんですか?」
(あーあ、言っちゃた、長くなるぞ)オレは心の中でつぶやいた。

「ボク、落語研究会なんです。いわゆる落研おちけんって言うやつ。もっとも部員はボク一人なんで、こうやって和服着て、入部しそうな子を物色してるんです。あっ、名乗るのが遅くなりましたがボク桂源雀かつらげんじゃくと言います。
本名じゃなくて芸名です。こんにちは」

「ふーん」
「どうですか、入部しませんか?」
岡源は桂枝雀かつらしじゃくのファンで自分で源雀と名乗っているが、みんなは本名の岡田 源おかだげんを略して岡源と呼んでいる。

「あのぉ制服着なくても、叱られないんですか?」圭子が訊いた。
「あぁ、富良子ふらこ校長の許可とってあるんで、あの校長何を提案しても絶対NOと言わないから。校内で和服着てもいいですか?と訊いたら、わかった、そこのメモ用紙に和服着用許可願いと書いてあとクラスと名前書いといて、私は今から子ども食堂へ行かねばならず忙しいからと言って即OK」
岡源がそう言うと圭子が
「ふーん」と言った。

「あの校長 とにかく子ども食堂が優先だから、前に赤点で進級が危うかった先輩が子ども食堂の手伝いを3日やったら、進級させてくれたと言っていた」オレがそう言うと
「あの校長なら、あり得るね」岡源が言った。

「怒ったとこ見たことないから、あっ一度だけ怒った時があったわ。野球部の大谷が打った打球が体育館の屋根の雨どいにはまって、普通はあそこまで絶対飛ばないんだけど、それを見ていた、戸橋とばし先生がボルダリングみたいに壁をよじ登って屋根に登ってボールを取ったんだけど、その時は校長から危ないからと言ってひどく叱られたらしい」オレが言った。

「へーぇ、戸橋先生かなり落ち込んでいた?」
圭子が訊いてきた。
「それが、そのあと校長に普段は開店してない幻のラーメン屋というところに連れて行かれて、
めちゃくちゃうまいラーメンを食べさせてもらったらしく、あんなうまいラーメンが食べられるなら、また屋根に登ってやろうかなと言っていたらしい」 オレがそう言うと岡源と圭子は
「さすがにそれはアカンやろ」と口をそろえた。

「あのぉ落語研究会って言ってるけど、お笑いに関係することだったらなんでもやるんで、例えば、都々逸どどいつって聞いたことない?七七七五の26文字で表現するんだけど
君 清楚な感じでアイドル並みの人気者になりそうやから一句プレゼントさせてもらうわ」

きみぼくらの
マドンナだけど
いつか
とれたなら

(今は君は僕らのマドンナだけど、いつか僕だけのマドンナになって欲しい)

「なるほど、なかなか洒落た都々逸ね、じゃあ私もお返しさせてもらうわ」圭子が言った。

うぶなおんな
あなたがれた
しんわたし
つよ

(清楚な女だとあなたは私に惚れたけれど、本当の私は強情で意地っ張りの女です)

「素人にしては、よくでき…えっ?女=レディー ガガ…我がは掛詞かけことばだったんだ。マドンナを受けてレディーガガで返してきた、しかもあからさまにレディーと言わずあえて女と…」岡源がそう言うと、

「あっ、そうか、でもレディーの方がわかりやすくないかな?」オレがそう言うと

「だからお前は野暮と言われるんだ。読み手が気付くか気付かないかギリギリのところで、あぁそういうことかとオチがわかるところに、都々逸の奥深さがあるんだ。それがいきというものだ」
岡源は圭子の方を見てニヤリと笑った。

「そしてもっとすごいのが、この句によって、ボクが読んだ句のマドンナというワードがもう一つの意味を持つ掛詞かけことばに生まれ変わったんだ。ボクの句とはレベルが違う。数段上のレベルだ」
岡源が興奮して早口で言った。

「やってたでしょ!」岡源が圭子に向かって言った。
「やってた訳じゃないけど、ある人に教えてもらったことがあるかも」圭子が答えた。

「ある人…?」岡源がつぶやいた。
(そうだ、絶対そうだ、あの人に決まっている)オレは心の中である名前を思い浮かべた。

「もしかして、そのある人って…」
「そう、かっーちーさんです」
「いや、トシさんじゃないんかーい!」
オレが大きな声で叫んだ。
周りの生徒たちが全員何事なにごとかと言うような顔をしてオレの方を見た。

オレは素知らぬ顔で渡り廊下から外を見た。
雲一つない青空の中を飛行機が飛んで行った。

(で…かっちーさんて誰?)オレの心の中でまた大きな疑問が湧いた。

                               To be continud


今回の主な出演者

宇利盛男 (うりもさん)

圭子 (圭果さん)

岡田  源 (おかぐちや源太さん)


富良子不良雄校長 (脱サラ料理家ふらおさん)

戸橋先生 (パヤとバーシーさん)

かっちー (かっちーさん)


大谷翔平(回想シーン)     友情出演


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