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【すっぱいチェリーたち🍒】⑧スピンオフ KENさん編1642文字


「ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ」
真っ赤なオープンカーが来客用駐車場に停まった。
ポルシェ356カブリオレ。
短髪でサングラスをかけた長身の男性が降りてきた。
「KENさんじゃねぇ?」
渡り廊下から生徒たちがのぞきながら話していた。


オレの名前は宇利盛男うりもりお。ここ田梨木たりき高校に通う17才。成績もスポーツもパッとしない。特にこれと言って得意なこともない。目標は『三年間無遅刻無欠席』という面白くもなんともない男子学生だ。


「君、校長室はどこかな?」
KENさんのマネージャーと思われる30代位の男性がオレに声をかけてきた。
(あれ?この人どこかで会った気がするけど…)

KENさんは世界的な俳優だ。
下積みが長かったが初めての主演作品の映画「忍者ラブレター」が大ヒットして世界中に忍者ブームが起こった。
次作の「親切な暗殺」も大ヒットして彼は莫大な財産を築いた。

一躍世界的俳優となった彼は高級外車を乗り回し、銀座で毎晩若いもんを連れてどんちゃん騒ぎをしていた。
彼は下戸だったが本当に酔っぱらっているようにバカ騒ぎをした。
帰りは自分で運転して帰るのだが、ちょくちょく接触事故を起こした。

人身事故は一度もなく学校の塀や壁にほんの少し、かする程度のものだった。
マネージャーに運転させればという周りの声を聞かず、普段世話になっているマネージャーも飲んで楽しんでほしいと言って自分で運転していた。

「あっ、ご案内させていただきやす」
KENさんのオーラに圧倒されたオレはそう言うと校長室までKENさんとマネージャーを案内した。

「コン、コン、コン」
「どうぞ」
富良子不良雄ふらこふらお校長先生の声が聞こえるとオレはドアを開けて
「校長先生、お客様をご案内致しました」
オレはそう言うと、KENさんの方を見た。
「不良雄、久しぶり!」
「KEN、よく来てくれたな!」

富良子校長があの天下の大スターを呼び捨てにしてオレは驚いた。
「うちのマネージャーが、帝子てるこさんに会ったって聞いて、それで色々調べたら今この学校にいるらしいと」
KENさんがそこまで言うと富良子校長が
「あっ、宇利君、ご苦労様でした、もう帰っていいので」富良子校長が言った。
「いえ、彼にも聞いていて欲しいので」

マネージャーが説明し始めた。
数ヶ月前におばあさんが道で倒れてるところをここ田梨木たりき高校に通ってる生徒が助けてくれた。
そこに偶然通り掛かったマネージャーが、その生徒から事情を聞いてその後のフォローをした。

実はそのおばあさんは、KENがまだ役者の卵だった頃、よくご飯を食べさせてもらった先輩女優の帝子さんだった。
帝子さんは、何かの事情で突然役者を辞めて、行方が分からなくなった。
KENさんが長年帝子さんの行方を探していたことを聞いていたマネージャーがKENさんに報告した。
そして、同じく当時役者の卵だった富良子校長先生が帝子さんを預かっているらしいということがわかり、ようやく今日帝子さんに会いに来た。

「そして、その時帝子さんを助けてくれた生徒の君に偶然さっき出会った、と言う訳です」
マネージャーがオレの顔を見て言った。
オレはびっくりしすぎて、頭がついていけなかった。

「KENちゃん、久しぶり!」
奥にいた帝子さんが笑顔でKENさんに近づいてきた。
「帝子さん、ご無沙汰してます」
KENさんはそう言うと帝子さんに頭を下げた。

「KENちゃん、まだ役者続けてるの?
少しはご飯食べれるようになったの?」
帝子さんはそう言うとKENさんの方を見て微笑んだ。
「やっとご飯が食べれるくらいになりました。
帝子さんのご恩は忘れたことはありません」
KENさんはそう言うと帝子さんの両手を握った。
「KENちゃん、あなたは才能があるから絶対諦めちゃダメよ、絶対売れるから」
帝子さんは弟を見るような目でKENさんを見つめた。

「不良雄、ちょっと話があるんだ」
KENさんは真面目な顔つきで富良子校長を見つめた。

           To be continud

今回の主な出演者

宇利盛男うりもりお  うりもさん

富良子不良雄 (脱サラ料理家ふらおさん)

多 帝子おおのてるこおおさわさん(後見人)

KENさん    友情出演
マネージャー  友情出演


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