すっぱいチェリーたち⑩KENさん番外編2000文字
本作品は下記の2作品の伏線回収編となっておりますので下記作品を読んでいないと、面白くともなんともありません。
悪いことは言わないので下記2作品を先に読んでください。
田梨木高校 校長室
「あのーマネージャーさん、あなたのお名前はもしかしたら…」宇利がマネージャーの名前を訊くと
「申し遅れました」
「グオーーン」窓の外を見ると雲一つない青空の中をジェット機が飛んで行った。
「……と申します」マネージャーが名乗った。
「KEN このあとちょっと時間あるか?」富良子不良雄校長がKENさんに訊いた。
富良子校長がどこかに電話するとKENさんとマネージャーと富良子校長が車で学校の外へ出ていった。
…
ガラガラガラ
「親父、ラーメン3つ」富良子校長がオーダーした。
「親父さん、ご無沙汰してます」KENさんはそう言いながら頭を下げた。
その年配の主人が作ったラーメンを初めて食べたマネージャーは今まで食べたラーメンの中でも格別旨いものだと舌鼓を打った。
「ごちそうさまでした。幼いころ不良雄んとこの家の屋根に登って、親父さんから怒られて頭にげんこつもらって、そのあとラーメンをご馳走になったなぁ」
「KENさん勘弁してくださいよ、子どものころとはいえ、天下のKENさんに…私も若かったもんで…」
「ははははは、あの頃みたいに『KEN』でいいですよ」
KENさんはそう言うと富良子校長の方を向き話を続けた。
「不良雄、前に新聞で読んだけど、落第しそうだった生徒を自分の子ども食堂で働かせて、進級させたとかで問題になってたな」
KENさんはそう言うと富良子校長の方を見てニヤリと笑った。
「あーあれか、あの生徒は父親が交通事故で亡くなって、学校の許可をとってアルバイトをやってたんだけど、なかなかテスト勉強もできなくて、赤点取ったのが社会科だったから、本当に社会で大切なものは何かということを学ぶためにとった手段でオレは間違ったことはしてない自信がある」
富良子校長がキッパリと言った。
「お前らしいな、あの記事を読んで、今度の大学でそういう授業を作ろうと参考にさせてもらったんだ」
KENさんが微笑みながら言った。
「KEN、昔からお前はせっかちだったけど、今度の大学の話もえらく急な話だな」
富良子校長がそう言うとKENさんは顔をしかめながら天井を見てつぶやいた。
「…不良雄、すまんな、あまり時間がないんだ、なんとか協力頼むよ」
…
温介護福祉大学の開校1週間前にKENさんは亡くなった。
KENさんの葬儀は派手だった。
お寺の門をくぐると両脇には派手な和服を着た銀座の綺麗どころが整然と並んで参列者を迎えた。
周りには数えきれないくらいの豪華な供花が飾られた。
宇利は、何か場違いなところに来たような気持ちで、恐る恐る記帳した。受付の近くで立って葬儀を仕切っていたマネージャーが黙って宇利に頭を下げた。
お参りを終えて帰ろうとしていると、テレビ局のアナウンサーが参列者にインタビューをしていた。
「うちの店の女のコは全員交通遺児なんです。みんなKENさんの紹介で、ママこの娘使ってやってくれないかなと言って一緒に支度金も用意してくれて…」
「うちのような小さな修理工場がやってこれたのはKENさんのおかげです。
月に1度くらい車に傷をつけては、親父悪いけど急ぎで頼むわと言って、急がせたからと余分に修理代金を払ってくれました」
「うちの養護学校は塀がボロボロだったんです。そこへKENさんがほんの少し車で接触した程度だったんですけど、塀をすべて新しく作り変えていただきました」
「うちは小さな呉服屋ですけど、毎月のようにKENさんから注文があって、あそこの店の誰誰が誕生日だから着物を作って届けてくれと…」
「うちは小さな花屋ですけど、今まで続いているのはKENさんの注文で毎晩何軒かのお店に花を届けているためです。今日の花もKENさんが俺が死んだら一番いい花を数えきれないくらい飾って欲しいと、生前にびっくりするくらいの額の前金を預かっていました」
「うちは…」
「うちは…」
一通り参列者のお参りが済んだ後に
アナウンサーがKENさんの奥様にマイクを向けていた。
「奥様、恥ずかしながら私は今までKENさんのことを誤解していたようです。一言で言ってKENさんはどんなお方だったんでしょうか?」
「せっかちな男でしたね。そんなに慌てなくてもせめてあと1週間生きていてくれたら、本当に不器用な男でした笑」
空を見上げると雲一つない青空の中を飛行機が飛んで行った。
Fin
※本作品はすっぱいチェリーたち🍒の番外編ですので、他のクリエーター様の作品とは雰囲気の異なるところがあり、マガジンに登録してもらうのは気が引けますのでハッシュタグはつけておりません。