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小説「見上げた空は今日も青い」第四話

続いてホームセンターにやってきた二人。
加々矢は自炊をほとんどしないため、調理器具を家に備えていないものが多い。
「これと、これと…あとこれも。それから…」
「おい、そんなに使うものがあるのか?」
「そうですよ。作るからには気合い入れないと駄目ですからね!!」
いや気持ちのことじゃなくて調理器具の量の問題なんだが…。
「俺ん家にあっても、あんまり使わないぞ?」
「あった方が無いより重宝しますから。」
雪野は目を細め、ニコッと笑う。
ドクンッ。
不意に加々矢の胸は高鳴った。顔が熱くなるような感覚さえある。これは…。
「あれ?加々矢さんどうかしたんすか?」
「…何でもない。」
「あ、待ってくださいよぉーっ。」
先にどんどん進んで行く加々矢。
落ち着け、相手は男じゃないか。そう言い聞かせながら。

「加々矢さん、出来たっすよぉ。」
「おう、そうか。」
テーブルの上にはいい匂いと共に並んだおかずたち。そしていつの間にか購入していたらしいレンジで加熱するパックご飯。さらには食器もさっきのホームセンターで手に入れたもの。全て雪野が選んだデザインだ。
「じゃぁ、頂くぞ。」
「どうぞ。」
箸を持ち、どれを食べようか少し悩んで…まずは何故かぼーっと見つめていた鶏軟骨に手を付けた。
上に乗っている大根おろしと共に食べてください、とのことで、そう食べてみる。
「どうっすか?」
「…美味い。」
「よかったぁ。」
それはすごく美味しかった。この鶏軟骨は、調味料に漬け込んで唐揚げにしたんだとか。大根おろしには味が付いてないのに、唐揚げの濃い目の味付けととても合ってさっぱりとしている。刻んだ長ネギも振りかけてあり、見た目も鮮やかだ。
「こっちは…?」
「あ、それは豆腐のあんかけソースがけっす。」
水切りをしっかりとしたから崩れにくいらしい。
なるほど、箸で持っても大丈夫だ。ぶなしめじのあんかけがたっぷりとかかったそれを口に運ぶと、加々矢は無言で俯きふるふと体を震わせた。
「加々矢さん!?」
この味、見た目、盛り付け方…。
「…雪野、合格。」
「え?」
何のことか分からないというような顔をしてきょとんとしている雪野。
「お前をうちのまかない担当にしてやる。明日から会社に来い。」

つづく。

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