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幼なじみの和#5(完結)【おかわり】

〇:一番好きなとこは・・・まっすぐなとこかな



△:だってさ、なぎちゃん

え?


振り向くとなぎの強すぎる顔面が視界に飛び込んできた。

どうやらオレは放課後の教室で悪友にはめられたらしい。


〇:えっと・・・今のは////

和:〇〇・・・

恥ずかしがるでも喜ぶでもなく無に近い表情のなぎを見ていられなくて、正面に向き直る。


〇:お前なぁ!!

ニヤニヤ笑いを浮かべる悪友に掴みかかろうとすると、背後から生えてきた両腕がゆるゆるとオレを締め上げる。

和:〇〇・・・

〇:な、なぎ!?ちょっと////

和:嬉しい・・・〇〇大好き////

んぐぐっ;;;


△:おぉぉぉぉ、甘ぁー-い

戸惑うオレを見て楽しそうに手を叩く悪友。

〇:拍手してんじゃねーよ;;お前のせいでっ


まだ人の残る放課後の教室で視線を独占しているのが分かる。

一応人目を気にしていると言ったはずなんだが・・・


背中にむにゅむにゅと柔らかい何かを押し付けられている状態のまま、背後のなぎに声をかける。

〇:なぎ、とりあえず離れようか////

和:うん!!私も〇〇の好きなとこいっぱいあるよ////

なにっ!?会話が成立しないだと;;

〇:いい;;いい;;今言わないでいいから、一旦離してくれ

和:うん!!ちゃんと話すね

〇:違う違う、そうじゃなくって

△:聞きたい、聞きたい!!

〇:お前は黙れ!!

△:なぎちゃんも一番好きなとこ教えて


和:うん!一番好きなとこはね

なんだこの状況はオレが何を言ってもどんどん会話が進んでいく。

まあ、興味がないと言えば嘘になるが、これだけ注目されてる中では・・・


和:えっと・・・・

・・・・・・

和:あぁー・・・・

・・・・・・

和:どうしよ、一番って難しいね

和:だって〇〇の全部大好きすぎて////

んぐぐぐぐっぅ

心の臓の的の中心を確実に射抜かれながらも、ふっと緩んだなぎの手をほどいてなんとか身体を離す。

〇:もういいから、部活行くぞ;;




和:あ、待って。最近一番きゅんきゅんしちゃうのはね

和:寝顔が可愛いとこ////


たっぷりめに頬を染めつつそんな事を言う。

うわぁ・・・・



△:寝顔って・・・

△:お前、意外と手早いんだな

〇:おい、なんか変な勘違いしてないか?

△:何が?

〇:何がって・・・・朝の事だぞ

△:ああ、朝だよな・・・事後の・・・

和:え、なんて?

〇:い、行くぞ。なぎ!!

絶賛独占中の教室中の視線を回避する為に、なぎの手を掴んで早々に教室を立ち去る。

△:部活頑張ってなー

アイツ、今度粛清してやる・・・





人もまばらな廊下を抜けて、校舎から出る直前でようやくなぎの手を強く掴んでいる事に気づく。

〇:あ、ごめん

和:ああっ・・・

〇:痛くなかったか?

和:うん、全然・・・

和:よかったのに・・・

残念そうな声を漏らした後にオレの右袖をそっと掴む。






人目につくところでは手を繋いだり、そういう目立つスキンシップは控えようという話を以前していた。

なぎも不満そうではあったが一応理解はしてくれて、折衷案が袖を掴むだった。

はたから見たら何も変わらないのかもしれないが、オレの中では自制が効いている事を確認できるポイントだった。




袖で繋がったままいつもの神社に向かって裏門を抜ける。

学校から離れて行くにつれて周りの音が無くなっていく。

無くならないのは2人分の足音だけだ。

知らなければ気づかないような細い脇道を進むと、両脇を背の高い木々に覆われた長い石段が現れる。

まるで異世界に繋がっているかのように荘厳な雰囲気が漂っている。

緑の間にぽっかり空いた空は何度見上げても心を持って行かれる。



石段の前で一拍置いた後に袖にぶら下がっているなぎの左手を握る。

ここを登る時は大抵そうしていた。



ここなら人目につかないし

手すりもないこの長い石段で万が一バランスを崩せばそれなりに危険だし

なんて誰に対しての言い訳なのかわからないが・・・



いつものように一歩一歩丁寧に、一段一段石段をゆっくりと踏みしめていく。

以前1人で登っていた時は身体の中からドロドロした闇とも膿ともつかないものが足裏から石段に染み込んで、身体が軽くなっていくような感覚があったんだが・・・

なぎと2人で登るようになってからは少し違う感覚になった。


一歩一歩未来へと進んでいく感覚というか・・・

将来の自分達に会いに行くというか・・・

時間経過の視点で見れば当たり前の話で、自分でも何を言っているのかよく分からないが・・・



とにかくなぎと一緒に同じ場所に向かって足を進めている事が恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。



長い石段を登り切って境内の入口に到着する。

2週間前に久しぶりの再会を果たした元相方は、またこの場所を我が物顔で陣取るようになった。

少し離れてみて、やっぱりオレの事が恋しくなったのか。

初めてのチュウを邪魔した時のなぎの全身で驚くさまが大層気に入ったのか。

多分後者だろう。



それでも今日は珍しく不在のようだ。

まあ、いてもいなくても別に何が変わるわけでもない。

ただ黒々とした見た目でじーっとオレたちを見ている存在がいるかいないかだけの問題だ。



・・・・・・

・・・・・・


和:ねえ、怒ってる?

〇:え?

和:教室で抱き着いちゃたから

〇:あ、ああぁぁ////

和:人前ではそーいうの禁止って言われてたのに

和:〇〇が私の事好きって言ってくれてるのが嬉しくなっちゃって

和:ダメ・・・だったよね

和:ごめんなさい


教室でのやりとりが恥ずかしくてさっきからなぎの顔を直視できなかっただけなんだが、なぎには違うように伝わってしまったようだ。

◯:怒ってないって;;;オレの方こそごめんな

和:え?

◯:なんかめんどくさいっていうか中途半端な事言っててさ・・・

自ら掴んだなぎの手を見ながら言う。

人目を気にしすぎだというのは悪友の言う通りなんだろう。

アイツなりにその辺り心配してくれているのかもしれない。


和:ううん、〇〇が私の事思って言ってくれてるのは分かるし

和:私も人前でイチャイチャしたいわけじゃないから

◯:そうなのか?

和:うん・・・2人の時はいっぱいイチャイチャしたいけど////

・・・・・・

・・・・・・




和:ねえ、今日はあの子いないね

◯:ああ・・・

和:続き・・・してほしいな・・・


◯:え?

和:だからこの前の初めてのチュウの続き////

和:この前は邪魔されちゃったから////

◯:いやいや;;;続きって;;;

和:嫌?

◯:そうじゃなくって;;;もう初めてじゃないだろ;;;

◯:あれから毎日;;っていうか今朝だって

和:〇〇からしてほしい///

◯:え?

和:いつも私からだから

◯:そんなのどっちからでも一緒だろ;;;

和:違うよ!!全然違う!!

和:〇〇からしてほしいのっ!!

◯:ちょっと待て;;;

なんでこんな展開になったんだ?


和:ねっ、〇〇からチューして!一生のお願い!!



出た!!なぎの必殺技もとい反則技。

さすがに何度も同じ手はくわないし、オレだってそこまでちょろくないぞ;;


和:ダメ?

んぐ



オレはこの顔に昔っから・・・



和:チューください////

んぐぐ



和:お願い////

んぐぐぐぐ




ダメだ。なぎが強すぎる////


目を逸らそうとしてもジャックされた視界には、もうなぎしか映らない。

全てを吸い込むような眼に魅入られつつ、視界に続いて脳内もなぎでいっぱいになる。

なんでこんなオレを選んでくれるのか未だに分からないが・・・

こんなにもまっすぐにオレを見てくれるなぎ。

幼なじみで・・・

オレはなぎがずっと好きで・・・

なぎもオレをずっと好きでいてくれて・・・



愛おしさが溢れて許容量を超える。

オレは何を気にしているんだろう。

人目ばかり気にして、なぎの気持ちも自分の気持ちも押さえつけて・・・


本当に気にしなければいけないのは・・・

本当に大切にしなければいけないのは・・・

今目の前にいるこの瞳だ。


高台特有の強くて短い風がなぎの髪で遊びだす。

顔にかかった髪をよけながら頬に手を添えて

なぎの唇との距離は消失していた。





覚醒状態で初めて体験する幼なじみの味に脳が痺れる。

寝ている時に一方的にされるキスとはこんなに違うものなのか。

順番が違うのかもしれないが、より一層なぎを愛おしいと思う。

こういう時は何も考えられなくなるのかもしれないと思っていたんだが

興奮よりも幸福の方が勝っているのかもしれない。

意外と脳が回転しているようだ。

一通り内観を終えるとなぎの身体がびくんびくんと震え出す。

できる事ならこのままもっと繋がっていたいと思わずにはいられないが・・・

何か失敗したんだろうか。

心配になって唇を離す。


◯:なぎ?

和:あぁぁ////

和:うぅぁぁ////////

え、なに?この反応?

オレなんか失敗したのか?

和:あ・・・えっとね・・・

和:思ってたより〇〇の唇が柔らかくって//////

和:〇〇がいっぱい私の中にびゅびゅびゅーって入ってきて

和:身体がビビビビー、ピカピカってなっちゃって////

和:と、とにかく////

和:〇〇とのチュウすごかった////




何を言ってんだかよく分からないが聞いてる方が恥ずかしい////

◯:すごかったって;;いつもしてんだろっ////

和:あっ・・・

和:えっと・・・

和:ごめんね・・・

口元に手を添えたなぎの顔面が近寄ってきて・・・

んっちゅ・・・

人差し指と中指をオレの唇に押し当てて、指ごしに聞き覚えのあるやや大げさなリップ音。




和:朝のはこれ・・・

和:だから今のが初めてのチュウだよ////

◯:え;;;;

◯:な、なんでそんな事;;;;

和:だって・・・

和:やっぱり初めては〇〇からしてもらいたかったし・・・

和:毎日してるって思って慣れてくれたら、気軽にいっぱいしてくれるかなって////

気軽にいっぱいって;;;どういう発想なんだ;;;


和:あ、でもちゃんと初めてのチュウしてくれたから////

和:明日からはちゃんと生チュウで起こすね////

んぐぅっ;;;

◯:普通に起こしてもらえると助かるんだけど・・・

和:おかわり自由だよ////

〇:は!?

和:生チュウのおかわり////

〇:なに言ってんの;;;

和:明日の朝、いっぱいしよーね////

〇:いや、だから;;;

和:ふふふ・・・・生チュウ////

ああぁぁ、ダメだこれ。

全然聞いてないやつだ。





・・・・・・

・・・・・・


なぎの生チュウって・・・

参ったな・・・


今まで以上に心にも身体にも悪そうだ。



皆まで言うな。

贅沢この上ない悩みであることは重々承知している。

文句があるなら自分で起きればいいだけの話だ。


だがしかし、

あえて一言言わせてもらおう。




オレは朝がとにかく苦手なのであるっ!!


【終わり】


最後まで読んでいただいてありがとうございました!!



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