幼なじみの和#6【鴉と彼女の関係】
和:あぁー、ごめんなさぁぁーい
新年早々でかい謝罪とともにオレの部屋に飛び込んでくるなぎ。
初日の出を見に行く計画は世にも珍しいなぎの遅刻で叶わなかった。
3時間ほどの大遅刻だ。
ついさっきなぎからの電話で起きたオレが言えた立場ではないが・・・
和:ほんとにごめんね。私が言い出したのに
〇:いいって別に、オレも起きれてないし
和:〇〇が朝起きれないのはいつもの事だもん。最初から全然期待してないし
和:んもー、だから私が起きなきゃダメだったのにー
期待してないって・・・まあ、その通りだが・・・
和:彼氏と彼女の関係になって初めての年越しにテンションが上がっちゃって;;;;
和:結局あの後全然寝れなくて;;;
和:彼女になれたら一緒にカウントダウンやりたいってずっと思ってたから;;;
〇:あぁ;;うん///
和:ドーパミンがどっぱぁあーって出ちゃって;;;
〇:分かった分かったって;;;
電話越しの年越しカウントダウンの代償という事だろう。
和:ああぁぁ、もうほんと大失敗したぁー
心底残念そうななぎ。
初日の出を一緒に見るのもずっとやりたい事の一つだったんだろう。
〇:とりあえずこれから行ってみる?
和:え、いいの?
〇:ああ、あそこ放課後しか行った事ないし。冬の朝の景色も見てみたいしな
和:嬉しい!じゃあ、おはようのハグとチュウを
〇:いや、もう起きてるから;;;
幼なじみの和#1~5までの話を読んでいただいた皆様にはお分かりいただけると思うが
あそこというのは高校の裏山にある人気のない神社だ。
え?読んでないって?
それなら一旦読んでからまた帰ってきなさい!下にリンク貼っとくから!
嘘です、読んでください!どうかお願いします!なんでもしますからっ!!
とまあ、たまに無性にやりたくなるメタ発言はこれくらいにして・・・・
元旦の午前10時過ぎ、高校の裏山にあるいつもの神社に向かう。
いつも登校する時は人目を気にして手を繋いでいない、袖は掴まれているけど・・・
今日は人目を気にする必要もないよな。
家を出てすぐになぎの左手を握ると、嬉しそうに頬を緩ませてきゅっと握り返される。
なになに;;;可愛いがすぎるんですけど///
幼なじみのなぎと付き合うようになってそれなりに時間は経ったが
いまだにビジュの強さにやられる瞬間は減らない。
そしてそのあたりの自覚が全く無いのが困ったところだ。
和:なんか私服で高校向かってるの変な感じだねー
そんな事を言いながらぴったりと身を寄せてくる。
〇:歩きづらいって;;;
和:っふふっふ
はい、聞いてないやつ・・・
正門は閉まっているので学校をぐるっと迂回して裏山に入っていく。
知らなければ気づかないような細い脇道を進むと、両脇を背の高い木々に覆われた長い石段が現れる。
へえぇ・・・
もう何度も通っている場所なのに朝だとこんなに違って見えるもんか。
いつもの場所のまだ知らない顔を見ながらそんな事を思う。
和:わあぁ。なんか違うとこみたい、いつも来てるのに・・・
なぎも同じ感想を持ったらしい。
手すりもない石段を手を繋いでゆっくり登っていくと、
いつもの先客がいつものように、わが物顔で境内の入り口を陣取っていた。
和:あっ
嬉しそうな声を出して、ててっと近づいていくなぎ。
和:クロ、あけましておめでとう
この場所ではなぎよりも付き合いの長い先客にはいつからか名前がついていた。
安易すぎるネーミングだが・・・
いつもなぎと放課後の部活動としてここで絵を描いているが、
なんとなく部活仲間のような感覚なんだろうか。
和:クロも新年の挨拶?初日の出見れた?
すっかり仲良し気分でキラキラした眼で話しかけるなぎと、興味なさそうにただただ黒々と眼を光らせる先客。
一見すると一方通行の片思いに見える光景だが、なんだかんだいなくならないのはそれなりになぎの事を気に入ってるのかもしれない。
「鴉と彼女」
絵のモチーフにもならない妙な組み合わせだが、この場所だから成立する貴重な構図ではある。
和:今年もよろしくね。あ、でも〇〇と私がいい雰囲気の時は絶対邪魔しちゃだめだからねっ!
何言ってんだか;;;
確かにそういう絶妙なカットインは一度や二度では済まないほどにあった。
なんならなぎの反応が面白くて邪魔してくるんじゃないかと思っている。
和:ねえ、分かった?聞いてる?
聞いてませんよとでも言っているようにそっぽを向く先客の視線に回り込むようにして何度も話しかける。
話通じるわけないだろと思いながら鴉と彼女の謎やり取りを眺めていると、
視界の隅に小さい賽銭箱がある事に気づく。
へぇ・・・こんなのあったんだな・・・
一応これも初詣って事になるのか・・・
和:ねえ、ここでも初詣って事になるよね?
いつの間にか隣に戻ってきていたなぎも、また同じ事を考えていたようだ。
〇:ああ、お参りしとくか。一応
和:うんっ
〇:じゃあ・・・
白い息を吐いてからお参りする。
2礼2拍手の後に手を合わせて目を瞑ると隣から漏れ出ている声が耳に届く。
和:〇〇とこの町で一生一緒に暮らせますように・・・
!!;;;
一生のお願いって;;;ここは一年のじゃないのか;;;
なぎらしいと言えばなぎらしいが・・・
お参りを済ませた後に境内の脇にあるいつもの古びたベンチから田舎町を見下ろす。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
やっぱりオレはこの場所が好きだ。
季節感は今までたくさん味わってきたつもりだったが、朝には朝の顔があるんだな。
和:・・・・やっぱり綺麗だね、ここは・・・
〇:ああ・・・
和:来年は絶対初日の出見ようね、ここで一緒に
〇:ああ・・・
和:来年も、再来年も絶対一緒に
・・・・・・
・・・・・・
大好きな地元の町を真っ直ぐに見つめる瞳が美しすぎて・・・
ちゃんと伝えておかないとと思った。
〇:あのさ・・・
〇:ちょっと先の話になるけど・・・
〇:オレ大学は地元以外で受けようと思っててさ
和:え?
なぎが地元を離れるつもりは無い事は知っている。
そしてオレが地元を出たいと思っているなんて想像もしていないだろうという事も。
和:え・・・
和:そうなんだ・・・
和:ずっとここで一緒にいられるって思ってた・・・
気持ちが揺らいでしまわないように、なぎの表情を確認をしないまま続ける。
〇:地元が嫌いなわけじゃないし、寧ろ好きなんだけど
〇:ちゃんと他の場所を知って、そのうえでもっとこの場所を好きになりたいって思ってて・・・
〇:大学卒業したら戻ってくるつもりだけど、その間は遠距離になると思う
和:それは・・・もう決めた事?
〇:ああ・・・ごめん・・・
和:そっか・・・
〇:勝手だけど・・・待っててくれるか?
和:待たないよ
〇:なぎ・・・
和:遠距離とか絶対やだし
〇:そう・・・・か・・・
・・・・・・
・・・・・・
和:ふふ;;
和:ふふふふ;;;
〇:えっ;;;ど;どした?
和:だって思ったより早く一緒に暮らせるの嬉しい//////
ん?
あれ?なんか想定してない反応だぞ?
〇:ええと・・なぎも一緒の大学行く事になってない?
和:うん、行くよ!
〇:しかも一緒に暮らすって?
和:うん、もちろん!
〇:もちろんって;;ダメだろ;;そんなの親だって許すわけ・・・
和:ん?
許すわけあるな・・・ってか絶対許す・・・
オレの両親はもちろん、なぎのとこもオレたちが付き合った事を心から喜んでくれている。
それはもうやり過ぎなくらいに・・・
両家の親から付き合った記念と称して送られたオレへのプレゼントは避妊具の大容量ボックスだった。
さすがに文句は言ったが、無駄にするのもあれなので一応受け取るには受け取った。
幸いなぎには知られてないし、実際親としては心配なポイントなんだろう。
反対されるよりはいくらかマシだと自分を無理矢理納得させていたんだが。
さすがに大学生で同棲はまずいだろ・・・
和:ふふふ、楽しみ
和:卒業したら「幼なじみの和 同棲編」スタートだね
いや、スタートしないし;;;
ノールール甚だしいメタ発言は無視するとして・・・
〇:それはダメだろ
和:なんで?
〇:だってオレのせいでなぎのやりたい事とか、行きたい大学とか変えるのは違うっていうか
〇:その辺を妥協してほしくない
〇:全部オレのわがままなんだけど
和:うん、だから一緒に行くの!
〇:え?
和:私が1番やりたい事はどこの大学とか、どこに住むとかそういうんじゃなくって
和:毎日〇〇を起こしてあげる事だもん!!
和:だから絶対妥協しない!!絶対一緒に行くし、絶対一緒に住むっ!!
あまりにもまっすぐな瞳をぶつけられて戸惑う。
和:〇〇・・・大丈夫だよ。一緒にいれば全部うまくいく
和:だからそんな顔しないで大丈夫
なぎの両手がオレの顔に触れたことで、顔の筋肉が強張っていた事に気づく。
和:むにむに//////ふふふふ//////
なぎの柔らかい指の一本一本が繰り返しオレの表情をほぐす。
和:んむむむー、むぎゅー///
オレがやりたい事となぎがやりたい事。
両立するのが難しいと思っていたのはオレだけだったようだ。
和:うん!よくなった!
和:はい、ぎゅうー
甘くて優しいハグに脳内のモヤが晴れてなぎでいっぱいになる。
やっぱりなぎには敵わないな・・・
可愛すぎて///強すぎる///
和:ふふ、今はおはようのチュウだけだけど
和:卒業したらおやすみのチュウもできるね、毎日//////
和:ねえ、〇〇
和:新年のチュウ・・・まだしてないよ//////
和:それじゃあ//////
和:あけまして//////
ゆっくりと近づいてくるなぎの強過ぎる顔面の後ろから
ゆっくりと黒々光る瞳が迫ってきていた。
【終わり】
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
皆様、よいお年を。