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腐れ縁の井上 #1【あんたバカァ?】
「あぁーほんっと最高、この部屋」
「へえー、それはよかった」
今日も今日とて大学終わりにコイツの部屋のベッドを陣取る私と
今日も今日とて私に興味なさそうに壁際の薄い机で本を読んでいるコイツ。
「ほんっとに快適なんだよ!」
「ふぅーん・・・そんなに違うのか?」
「全っ然違うよ!!私のとこのWifi終わってるから!ほんっと羨ましい」
「まあ・・・オレはあんま恩恵感じないんだよな・・・」
大学入学を期に地元を出て一人暮らしを始めた。
それなりに親にも心配されたが、決め手となったのはコイツの存在だ。
中学で出会って
たまたま高校も一緒で
地元を離れた大学もたまたま一緒だった。
こういうのはきっと腐れ縁というやつなんだろう。
だってほんとにたまたまだし;;;ほんとに;;;
中学からの知り合いが近くにいるならという事で、両親も納得してくれた感じだ。
大学から徒歩圏内で部屋を探せばそれなりに近所にはなる。
だからたまたま徒歩5分程度の近所になった。
大学終わりに私の部屋を通り過ぎてコイツの部屋に入り浸る理由の1つがWifiだ。
どちらもWifi付の物件だけど、速度・安定性ともに私の方が劣っていた。
だからアニメくつろぎタイムはコイツの部屋で過ごすと決めている。
勝手な事は重々承知だがそれについて文句を言われていないという事は、許容してくれているという事なんだろう。
そんな過ごし方ももう一年以上続いていて、心にも身体にもすっかり染み付いている。
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今日もいつものように単色で飾り気が無い部屋の一等地に鎮座するベッドの上を占領してやる。
家主はコイツだが私がここにいる時間、このベッドは私のものだ。
それからコイツのスマホも。
ベッドに関しては以前からだったが、スマホまで私のものになったのは一月ほど前からだ。
「あー、めっちゃ気になるー、あぁー」
・・・・・・
「見ちゃおうかなー、んーでも今月これ以上はちょっと厳しいしー」
・・・・・・
「迷うなぁー、ううぅ・・・」
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「どしたんだ?」
「え;;あ;ごめんうるさかった?」
私がベッドでスマホを見ながらキャーキャーヤーヤー1人で言ってるのはいつもの事だ。
普段は全然興味なさそうに本を読んでるくせに急に声をかけられて驚いてしまう。
「いや、別に・・・なに迷ってんのかなって」
「あー、独占配信のアニメ新作でたんだけど、今月は契約してないから見れなくて」
「ずっと契約してるわけじゃないんだな」
「ずっとなんて無理だよ、いくつサービスあると思ってんの!?」
「いや、分かんないけど・・・」
「毎月いっぱいなんて契約できないから月替わりでなんとかやりくりしてるのよ」
「やりくりって・・・なんかよく分かんないけど大変そうだな」
「そーだよ、ほんっと大変なんだから」
コイツにしては珍しく私に興味を持ったんだろうか。
なんだか嬉しくなってしまってベッドから出て壁際の机に近づいてみる。
「有料だとそんなに毎月いくつも入れないでしょ!」
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「ふーん・・・」
いつもより少し近い距離に恥ずかしさを感じる私といつも通りのコイツ。
まあ、そうだよね・・・分かってたけど・・・
「それってさ・・・オレのでも見れんの?」
「え?」
「いや、初回何日無料みたいのあるだろ、そーいうの」
「え、めっちゃ名案だけどいいの?」
「別に、オレはいいぞ。それで井上が見たいやつ見れるんだろ、はい」
そう言って自然にスマホを手渡される。
「え;;」
「好きにやってくれ」
え;こんな事ある?;;普通自分のスマホ誰かに触らせないでしょ;;;
「す、好きにって言われても・・ロックは?」
「あ、そっか。011111」
は?正気?普通言う?
そっちで解除してくれって意味だったんだけど;;;
それに番号・・・
「それでできそうか?」
「いやIDとパスとか分かんないし」
「あ、それ写真のフォルダに入ってる」
ちょっと;;;コイツ;;;
セキュリティ感覚ないのか?と思いつつ言われるままに進めてみる。
「あ、支払い登録でクレジットカードとかないとだ」
「そっか。はい」
また当然のようにカードを手渡される。
いやいやいや;;;さすがに;;;;
「ちょっと!!」
「ん、どした?」
「どしたじゃない!!あんたバカなの!?」
「普通スマホを他人に渡さないし、パスとか教えたら絶対ダメなんだからね!!」
「ほぉ・・・」
「ましてクレジットカードそのまま渡すとかありえない!セキュリティ甘すぎっ!!」
自分で聞いといてなんだけど心配すぎて詰め寄る。
「さすがに他人には教えないぞ、井上だから教えたんだろ」
そんな事を平然と言ってくる。
「な、なに言ってんの、バカじゃないの///」
なんだか分が悪くなってバサっとベッドに帰還する。
なんなのよ・・ほんとコイツのこういうとこ//////
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「文句いいながら番号入れてんじゃん」
「うるさい!!バカっ!!」
・・・・・・
・・・・・・
「あのさ・・・セキュリティの甘さで言ったら井上もだぞ」
「は!?なんで私が」
「それはそーだろ、男の一人暮らしの部屋でそんなふうにくつろぐって」
「男って;;;べ、別に、アンタの部屋だから;;そーいうの別に;;;」
「・・・パンツ見えてるし」
「はぁ、このど変態!!」
ぐいっと距離を詰めて背後からぐりぐりと両のゲンコツで頭を締め上げる。
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「イタイイタイ;;オレ悪くなくない?」
「うるさい、あんたが悪い;;;」
恥ずかしさを上書きするようにさらに力を込めてやる。
「分かったギブギブ、オレが悪かったよ;;;」
「と;;とにかくオレが言いたいのはさ;;;」
「井上は可愛いんだからもうちょっと警戒した方がいいぞって事だよ;;;」
「なぁっ;;///」
可愛いって;;
コイツに可愛いなんて言われたのは初めてだ。
それでも・・・
違う・・・
浮かれそうになっている自分にブッスリと自分で釘を刺す。
今のは私を意識してないから出る発言だ。
バカ・・・
モヤモヤを紛らわす為に拳にまた力をこめる。
「イタイイタイ;;;」
ーーーーーー
そんなやりとりが一月ほど前にあって動画サービスの無料期間を楽しんでいるところだ。
コイツのスマホで、コイツのベッドで・・・
いつものように・・・
コイツと言えばいつものように机で本を読んでいる。
まるで私に興味なんてなさそうだ。
っていうか普通女の子がこんなに頻繁に来てて何も感じないの?
いくらWifiが強いからってそれだけで来るわけ無いのに・・・
本当にバカなやつ・・・
天下一朴念仁大会があったらダントツ優勝するに違いない。
それでも・・・
分かってる・・・
本当にバカなのはこんなコイツの事を好きになってしまった私の方。
なんで好きになったのかなんて覚えてない。
どこが好きかと聞かれても答えられる気がしない。
それなのに中学で出会ったコイツの事がずっと好きだ。そして残念な事に現在進行形。
出会ってからそれなりに時間は経った。
なのに関係性は全然変わらない。
私はずっとこんな感じだし、コイツもずっとこんな感じ。
告白なんてできるはずがないけど、きっとこういう時間はずっと続くはず。
コイツは恋愛なんてこれっぽっちも興味がないんだろう。
そう思っていたけど・・・
そんな思考は油断であり、甘えだった。
その事を教えてくれたのは突然のスマホの通知。
えっ!!;;;
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視界に飛び込んできた桜の写真アイコンと遠藤という名前。
思い浮かぶ人物は1人しかいなかった・・・
【続け・・・】