幼なじみの美空#2【今日も今日とて】
美:ただいまー
〇:オレんちな
美:うん、だからただいま
〇:うん、だから;;
美:ふふ、ヨメだし///
・・・・・・
まあ、いいや
否定するのもそれなりにカロリーを消費する。
だからこれくらいにしておこう。
どうせみくには響かない。
それがみくだもの・・・
今日も一緒に大学に行って、一緒に帰ってくる。
うちの両親が家をあけがちなのはお伝えしたところだが、みくの両親も家をあけがちだ。
という事で平日は夕食を一緒にする事が多い。
ちなみにみくの両親は本当は男の子が欲しかったらしい。
利害一致かどうか知らないが昔から親同士も仲良くやっている。
食費に関しては上手い事やってくれているらしい。
仕事熱心な親達のおかげでストレスなく食材の仕入れができるのはありがたい。
とはいえ無駄な買い物はしない主義だ。
大学終わりのスーパーでみくが籠に入れてくるものを却下した回数は両手両足ではおさまらない。
みくはそういうやりとりを楽しんでるだけだと思うが・・・
美:今日はがっつりお肉系かなー
〇:へいへい・・・
聞いてもないのに当然のように晩飯リクエストを口にする幼なじみが憎らしくてありがたい。
いくら料理好きでも自分一人の為にとなるとなかなかモチベーションも上がらない。
作る側からしたら食べてくれる相手が喜んでくれるかは重要だし、ふわっとした発注でもあるのと無いのとではだいぶ違う。
こういうオレの思考をみくは分かっているんだろう。
美:んうぅー、幸せぇー
美:今日も最っ高に美味しいよ〇〇
〇:そらどうも;;;
今日の煮込みハンバーグもみくのお気に召したようだ。
安定の過剰リアクションだが、悪い気はしない。
こういうとこがみくのずるいとこだ。
美:私は幸せ者だよー、〇〇みたいな可愛くて料理もできるヨメがいてさー
〇:可愛いって;;;だいたいどっちが嫁なんだよ;;
美:ふふふ、みくがオレのヨメだろって。もぉおおお/////
・・・・・・
うん、今日もみくは楽しそうだ・・・
美:ごちそうさまでした
〇:ごちそうさま・・・
みくが食べ終わるのを待ってから一緒に立ち上がる。
シンクに皿を置いてもニコニコと隣を離れようとしないみく。
〇:別にいいぞ
美:一緒に、ねっ
・・・・・・
美:やろやろ
・・・・・・
美:早く早くぅうー
〇:分かった分かった;;;
料理をするのは1人でやりたいタイプだ。
それが分かってるみくは作ってる時に手伝うとは言ってこないし、邪魔もしてこない。
それでも洗い物の時は、なんだかんだ毎回押し切られてキッチンに並ぶ。
なんならみくが一人でやってくれてもいいんだが、そういう事ではないらしい。
オレが洗い終わった皿やコップを受け取って水切り皿に置くのがみくのお仕事だ。
要は全然必要ない。
!!
美:あっ
わざとらしく声を出して皿を持っているオレの右手首をキュッと握る。
〇:何してんの
美:んふふー、間違えちゃったー
オレの手首を掴んだまま至近距離できゅるきゅるしてくる。
〇:邪魔すんなら座ってていいぞ;;;
美:もぉー、嬉しいくせにー////
よくもまあ毎回・・・・
洗い物を終えて少ししてから徒歩30秒のみくの家に到着する。
美:今日もごはん美味しかった
〇:ん
美:今日も送ってくれてありがと
〇:ん
美:今日の〇〇も可愛かったよ
〇:ん
美:もぉー、ちゃんと聞いてよぉー
〇:ん
安定のやりとりを終えてぱちぱちと忙しく眼を動かしてから唇を突き出す。
美:ん
〇:ん?
美:んんっ
・・・・・・
美:んーんんっ
・・・・・・
美:早くうぅ///
・・・・・・
美:おやすみのチュー///
〇:んじゃ・・・
スルーアンドターンして徒歩30秒の家に向かう。
美:もおおおー、嬉しいくせにー;;;
よくもまあ飽きもせずにおんなじ絡みを///
20秒後角を曲がる前にいつものように振り向くと、両手をぎゅっとしてきゅるきゅるとオレを見ている。
美:おやすみっ、〇〇
やってんなぁ・・・
うん、今日もみくは元気だ。
ーーーーーー
ーーーーーー
ああ、今日もか・・・
目を擦りながら階段を降りてリビングの灯に気づく。
朝からテンションの高いみくの姿を脳内再生した後にからからと扉を開ける。
美:おはよっ〇〇!!
想像していた通りのみくの登場に少し面白さを感じつつ、増長されるのも面倒なのでいつも通りのなんでも無い挨拶をする。
〇:おう、おはよ・・・
大学が夏休み期間に入ってもちょこちょこリビングにいる。
みく曰く勉強するのはオレんちのリビングが一番捗るらしい。
どうせ今日も早くから来ていたんだろう。
それでも部屋に凸してこないのは、人に起こされるのが苦手なオレの事をよく分かっているからだ。
一見ノールールで好き放題やってるようでもオレが嫌な事はしない。
これもみくのずるいとこだ。
こういうとこがあるから、普段の過剰な絡みもまあいいかと思ってしまう。
ヨメだの可愛いだのなんだの・・・そういうやつだ///
美:ねえ、今日のデートどうしよっか
〇:なんだそれ
美:デートだよデート
〇:行かないぞ
美:でもすっごいいい天気だよ
〇:ふーん
・・・・・・
・・・・・・
美:ねえええ、どこでもいいからー
〇:じゃ、家で
美:お家デート?もおー、エッチ///
〇:はいはい・・・
別にみくがいるからと言って何をするでもどこに行くでもない。
みくだって文句は言うが別に本当に出かけたがってるわけじゃない事くらいはオレにも分かる。
やや重めのだる絡みを受け流しつつ、今日も今日とて一緒の時間を過ごす。
今更変に気を使う事もないので、オレにとっては日常で特別な事は何も無かった。
ん?
目的もなくずっとついているテレビで週間天気予報が始まって急に静かになる。
美:ねえ・・・
・・・・・・
美:天気大丈夫そうだよ、土曜・・・
〇:ふーん・・・
・・・・・・
・・・・・・
美:今年は一緒にいけるかな・・・
・・・・・・
・・・・・・
美:いける・・・よね?一緒に・・・
いつもと違う弱弱しい声が発せられた方に視線を向けると、小さい身体を丸めて怯えたようにオレの反応を待つ大きなみくの眼。
さっきまでデートだなんだと散々言ってたくせに・・・
こんな感じで、ごくまれにきゅるきゅるスイッチがオフになる瞬間がある。
そして・・・
こういう本人が自覚していない緩急は、オレに一番刺さるやつだ。
〇:ああ・・・まあ行けるんじゃないか///
美:よかったぁ・・・すっごい楽しみ///
心底安心したように言ってから、柔らかく笑った。
ここ数日みくは天気ばかり気にしている。
今週末は地元の花火大会がある。
電車で2駅ほどの距離ではあるが、まあ地元って事でいいだろう。
去年はあいにくの天気で中止になってしまった。
花火大会の最初の思い出は小学生の頃。
親と一緒に行った事を鮮明に覚えている。
田んぼに囲まれた野球場の駐車場に出ているたくさんの屋台の灯りに虫みたいに群がるたくさんの人々。
時間が経つにつれ、たくさんの顔が上ばかりを向き始める。
その光景がなんか面白いなぁと思っていたら、頭上から光が落ちてきた。
見上げると視界いっぱいに広がる派手すぎて艶やかすぎるたくさんの色と模様。
一拍置いて音が落ちてきて、全内臓が震えた。
納得した。
これはいいものだ。
人が集まるのも分かる。
確かにそう思った。
それでも帰りの駅までの壮絶な混雑っぷりは筆舌にしがたく、
そっちの方がより鮮明な記憶として残った。
いくら花火がいいものでも、あの人混みは二度とごめんだ。
もうオレは暑い中花火を見に外に出る事はないんだろう。
そう思っていたんだが・・・
オレの価値観はあの日リライトされてしまった。
4年前、高校1年の夏のあの日だ。
【続く】