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妹の友達のアルノちゃん#3【寄り道】

夕方まで昼寝をしてしまった休日。

窓に打ち付ける激しい雨風の音で起こされ、身体が自動的にリビングに向かう。


和:もぉおー、やっと起きた・・・

ア:おはようございます

アルノちゃんから本日二度目のおはようをいただいて、ようやく脳が働き始める。

〇:・・・雨、すごいね

和:アルノが帰ろうとしてたら急に降ってきたんだよ

〇:そーなんだ

和:これ止むのかなー

ア:うん・・・・・・


物憂げに外の様子を見つめる姿はずいぶんと大人びて見えて、まだまだ知らない表情があるんだななんて当たり前の事を考えてしまう。

そんな彼女から目が離せなくなっている自分に気づいて、無理やり回れ右をしてから短く息を吐く。

ふぅっ・・・

・・・・・・

・・・・・・

これからオレがする提案はごく自然なものだ。

そう自分に言い聞かせ、妹の友達というフィルターを掛け直し、精一杯のフラットなトーンで声をかける。



〇:アルノちゃん、車で送ってくよ

ア:えぇ;;そんな;;大丈夫です;;傘ありますし

〇:これ傘じゃどーにもなんないでしょ

そう言ってあらためて外の様子を確認する。

〇:風も強いし、いつ止むかもわかんないし

そーだそーだと雨粒達が窓ガラスに次々ダイブしてくる。

・・・・・・

・・・・・・

ア:でも・・・

屋外からのサポーターの声だけでは足りないようだ。


和:アルノ、遠慮しないで!!お兄ちゃんはこういう時の為に彼女もいないのに車持ってんだから!

〇:おいっ、ほっとけ!!

ちゃんと不満ツッコミを入れておくが、なぎの絶妙なカットインに舌を巻く。

和:お兄ちゃんがどーしてもアルノのこと送りたいみたいだから、ゴメンだけど付き合って送られてあげてよ

ア:えぇぇ!!?;;;

こうでも言わないとアルノちゃんはオレの言葉に甘えてくれないだろう。

なぎも、その辺諸々分かったうえでの発言というがオレには分かる。

ほんとにできた妹だ。

いついかなるシーンにおいても、その場その時に自分がやるべき事を誰よりも理解している。

無茶ぶりや強引さに辟易する事もあるけど、本当に嫌な事はしないし、決してやりすぎない。

そーいうタイミングとギリギリセーフのラインを見極める才能には脱帽するしかない。

なんだかんだ、なぎの全肯定botになってしまうのはこういうところだ。

皆まで言うな、分かっている。オレは兄バカだ。


◯:そーそー、アルノちゃんどうか送らせてください

ア:えぇぇ!!?;;;

和:ってことでお願い。いいよね?アルノ



井上兄弟のツインシュートに、ようやく首を縦に振るアルノちゃん。

ア:う、うん・・・・・・お願いします


全力サムズアップ中のなぎとバチィッンっとハイタッチを決めた。

心の中で・・・


本来こんな回りくどくてややこしいやりとりが必要なのか分からない。

それでもなんだか・・・

ここまでの全工程が面白くて・・・

愛おしくて・・・

笑っている自分に気づいて・・・

また笑ってしまう。




◯:じゃあ、車玄関前に出してくるわ

脳内でゲットワイルドがかかり始めて玄関の扉に手を掛けると後ろから呼び止められる。

和:あ、お兄ちゃん

◯:ん?

すっかり心が通じ合った妹とあらためて正面から対峙する。

リアルハイタッチでもするのか、そう思っていると・・・

和:一応言っとくけどアルノに変な事しちゃダメだよ

〇:は?

和:『ちょっと寄り道していい』とか言って人気のない河川敷に車を止めて・・・

和:『抵抗すんなよ』ってアルノに覆いかぶさって・・・

和:「いやぁっ、やめてください!!」って必死に抵抗するアルノに余計に興奮して・・・

和:『いいから・・・ちゃんと気持ちよくしてやるから』って乱暴にアルノの胸を

〇:やめろやめろやめろぉー!!

前言撤回、やりすぎだ。

・・・・・・

・・・・・・

恐る恐るアルノちゃんに目をやると

案の定、回路がショートして白目をパチンパチンさせていた。

そりゃ、そうなるよな。



〇:あのな;;;妹の友達にそんな事するわけないし、心配ならなぎもくればいいだろ

和:まあそうだけど・・・

・・・・・・

和:うーん・・・

・・・・・・

オレとアルノちゃんの顔を交互に見てなにやら考えているムーブをする。

・・・・・・

え、これなんの時間・・・


和:いいや。お兄ちゃんに任す。私忙しいし

〇:おい

和:ワタシ、イソガシイシ



抑揚ゼロで言い直してからソファに座ってスマホをいじる。

こいつ・・・まあこれ以上変な事言われても困るな

〇:アルノちゃん行こうか

ア:えっ・・・あ、はい;;;




ーーーーーー

車を走らせると、雨も風も強くなってきて、やっぱりこんな中歩いて帰らせなくてよかったと思う。

家族以外まともに乗せた事の無い助手席に妹の友達がいるというのは少し不思議な感覚だった。

それにしても・・・・



〇:アルノちゃん

ア:は、はい;;;

〇:大丈夫?

ア:えっ;;;な、何がですかっ!!?

◯:肩がぴぃーんってなってる。さっきからずっと

ア:だって;;;

とんでもなく緊張しているアルノちゃんが隣にいて、こっちまで緊張が伝わってくる。

右足の居場所が分からなくなる瞬間が数回あって、一旦落ち着かないと事故でもおこしてしまいそうだ。

アルノちゃんが乗ってるのにさすがにそういう訳にはいかない。


〇:アルノちゃん、ちょっと寄り道していい?

ア:えっぇぇぇ;;;えっ;;えぇ;;;え;;;;

〇:あ;違う違う!コンビニ!コンビニ寄ってお茶買おうと思って;;;

ア:あ、!ぁあ、!す、すす、すす、すみません;;;

〇:いやこっちこそ;;すみません;;;




ーーーーーー

〇:お待たせ、はい

ア:ありがとうございます・・・

車中で待っててもらったアルノちゃんにお茶を手渡す。

・・・・・・

・・・・・・

ふうっ・・・
ふうっ・・・

一口飲んで短く吐いた息が見事にシンクロする。

顔を見合わせた瞬間に、お互いの気持ちも繋がったような気がして笑いあう。

ア:なんか・・・意識しちゃいました///

〇:なぎが悪いな、どう考えても///

なんとか落ち着きを取り戻したところで再び車を走らせた。



極度の緊張から解き放たれたのもあって、自然と会話が続いた。

アルノちゃんってけっこう喋るんだな。

また新しい一面を知って、もっと知りたいと思っている自分がいた。

ア:パンケーキほんっとに美味しかったです。驚きました。今まで生きてきた中でダントツ一位です

◯ :はは、それは言い過ぎじゃない?

ア:え?本気ですよ!私!


〇:ごめんごめん。なぎ以外に食べてもらう事なんかないから嬉しいよ

ア:・・・彼女いないんですもんね

〇:・・・アルノちゃん

ア:あっ、今のは確認です

〇:何度確認してもいないんですが・・・

自分で言ってて悲しくなるが、アルノちゃんはなんだか真剣だ。

ア:でも料理できる男性ってモテますよね

〇:そうかねー、人によるんじゃない?オレはまず食べてもらう機会が無いから

ア:なるほど。ふふっ、じゃあ私はラッキーだったんだ

〇:ん?この場合オレがラッキーじゃない?

ア:違います!絶対私の方がラッキーです!

珍しく引かないアルノちゃんが面白くて、笑いを堪えながら折衷案を出してみる。

◯ :ここは引き分けでどうでしょうか?

ア:うーん、そーですね。それならいいですよ

・・・・・・

・・・・・・

心がトクトク笑う。そんな感覚だった。

こんなにも意味の無いやりとりで、こんなにも気持ちが救われるのか。

今までもなぎが美味しいって言ってくれて嬉しかったけど。

喜んで食べてくれる人が増えると、作った側の幸せ度も増えるんだな。料理って。

・・・・・・

・・・・・・

〇:アルノちゃんが食べてくれるなら、毎日料理したいなぁ

・・・・・・

あれ?

自分の口からボソッと出ていた発言に自分で驚く。

ア:っ;;;;

驚きすぎて静止画像化しているアルノちゃんを見て慌てて方向転換する。

〇:つ;次はアルノちゃんハートもらえるかなぁー

意識して仕掛けてますよ感を顔に出してみると、口をぷっくり膨らませて威嚇してくれた。

ア:んむぅ。揶揄わないでくださいよぉ//////

〇:ごめんごめん;;;

なんとか成立させたやりとりに安堵するが、心はざわざわしてるままだ。

どうしたんだ、オレは//////

ア:・・・・あっ!

〇:ん?

ア:家、着いちゃいました。





〇:ちょっと待っててね

路肩に停車し、傘をさして助手席のドアを開ける。

ア:あ、ありがとうございます//////

雨の匂いに混じった甘い香りが微かに鼻をくすぐる。

ほんの一瞬の距離で助かった。

そんな事を考えながら玄関先まで送り届けた。


ア:送っていただいてありがとうございました。帰り気を付けてくださいね

〇:うん、それじゃ

ア:あ、あの!!

〇:ん?

ア:あ、えっと・・・

・・・・・・

・・・・・・

ア:また・・・お邪魔しますね

◯:うん、いつでもきてね

ア:はい//////

弱まる事の無い雨の中、バタバタと車に戻ってアクセルを踏む前に一瞬目を向ける。

ちょこんとお辞儀をした後、控えめに両手を振られて心が唸った。


【続く】


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