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幼なじみのさくら #1 【全然違う】


「ごめんなさい」

あぁ、まただ・・・

ちゃんと思いを伝えて、ちゃんとフラれる。

今日の為に推敲を重ねた告白の台詞は、

彼女の心に響く事はなかった。

もう何回目だろうか。

ずいぶんと負け癖がついたもんだ。

オレって一生彼女できないのでは・・・

肩を落として大学の門から離れようとすると

タタタっと背後から足音が近づいてくる。

さ:〇〇ーっ!!

やっぱりさくらか・・・

オレがフラれるとさくらが現れるというジンクスでもあるんだろうか。

フラれた後のジンクスなんてどうでもいいが。


さくらは所謂幼なじみというやつで、

小学校からの付き合いだ。

高校に入ってから告白してはフラれ続けるオレを

いつも心配してくれる優しいやつで、

・・・かつて好きだった相手でもある。

さ:大丈夫?

〇:何が?

さ:またフラちゃったって聞いたから

心配そうにオレの顔を覗き込む。

〇:またって・・・なんで知ってんだよ

さ:けっこう噂になってたっていうか・・・

キャンパス内で告白したから仕方がないのかもしれないが、

みんな他人の不幸が好きなんだな。

さ:今も元気無さそうだし・・・

付き合いが長いと色々伝わるものがあるみたいだ。

今は傷心で一人になりたい気分なんだが。

そこは伝わらないんだろうか。

〇:フラれたばっかで元気なわけないだろ

さ:そうだけど・・・

〇:バカにしに来たのかよ

さ:ち、違うよっ;;○○が心配で・・・

・・・・・・

〇:ほっといてくれって

さ:えっ?

〇:関係ないだろ、さくらには

・・・・・・

〇:ただの幼なじみなんだからさ

・・・・・・

〇:今、誰かと話す気分じゃないんだよ

・・・・・・

さ:ごめん・・・

悲しそうに俯く姿を見て、ハッとする。

心配してくれている事はわかってるのに、

タイミングが悪すぎて、ついあたってしまう。


はぁぁ・・・

またやってしまった。

オレもつくづく学習しないな。

〇:いや、フラれるのはいつもの事だしさ;;;

・・・・・・

〇:別にオレはなんともないから、ほっといてくれって事で;;;

・・・・・・

〇:えーっと;;;

さ:ごめん・・・なさい・・・

俯いたままのさくらを見て、心底後悔する。

〇:さくら!!ごめん、オレが悪かった!!

反省が伝わるようにしっかりと頭をさげて謝罪する。

さ:ううん。私が悪かったもん。ほんとにごめんなさい

そう言って、さらに頭を下げる。

・・・・・・

・・・・・・

いつまでも顔を上げないさくらの頭を一瞬だけポンっと触る。

子供の頃から、こうするとさくらは顔を上げてくれる。

暗黙の約束事みたいなもんだ。

ゆっくりと顔を上げてオレの表情を伺うさくら。

さ:怒ってない?

〇:怒ってないよ

さ:ほんとに?

〇:うん。悪いな、いつも心配させて

さ:ううん、私は何の力にもなれてないし

〇:そんな事無いって、感謝してるよ

オレがフラれると、さくらはやたらオレにかまってくる。

正直、フラれた直後くらいはそっとしておいてほしいんだけど。

一応幼なじみだし、気を使ってくれているんだろう。

さ:ほんとに大丈夫?

〇:もう慣れてるからさ

さ:そっか、とにかく私でよかったらなんでも相談してね

〇:おお、じゃあ誰か可愛い友達紹介してくれ!!

さ:そーいうのはダメッ!!

〇:えー、なんでもって言ったじゃん

さ:ちゃんと自分で見つけないとでしょ。○○にお似合いの相手を

〇:はいはい

さ:ふふっ

いつものやり取りの中で少しずつ気持ちが落ち着いてくるのを感じる。

ほんとに毎回助けられてるんだよな。

あいかわらずいいやつだ、さくらは。

昔からまっさらで優しいやつだった。

曇りのない性格と

普段おとなしいのに実は芯が強いというか、けっこう頑固というか

そういうところに、ずっと惹かれていたんだけど。

あの日から、さくらへの気持ちは変わった。



^^^^^^^^^

中学3年の夏、俺は焦っていた。

さくらが告白されたという噂を耳にしたからだ。

どうやら丁重に断ったという事らしいが、

さくらに直接その辺について聞くわけにもいかずモヤモヤしていた。

幼なじみというポジションにいつまでも甘んじていると、誰かに先を越されてしまう。

今日こそは告白しようと思いながら、告白できない言い訳を探す日々が続く。

そんな中、放課後の教室で賀喜さんと話すさくらを見つけた。


賀:私はお似合いだと思うなー。さくと○○は・・・

さ:えっ

・・・・・・

オレの話!?

気になりすぎる。

悪いと思いつつ、廊下から聞き耳を立ててしまう。

・・・・・・

さ:お似合いなんかじゃないよ

・・・・・・

賀:さく?

・・・・・・

さ:そういうんじゃなくて・・・

さ:○○とは今まで通りの関係でいたいかな・・・

賀:え!!そーなの?

さ:〇〇は・・・

・・・・・・

さ:〇〇は、ただの幼なじみだから・・・

・・・・・・

オレはその場にいる事ができず、教室から離れた。

人生最初の失恋は突然やってきた。

オレが告白する事で困るさくらの表情が容易に想像できる。

気持ちを伝える事はできない・・・

オレにとっても、さくらはただの幼なじみ・・・

そう思う事に決めた。

さくらへの気持ちにケジメをつける為にも

ちゃんと別の子を好きになって、お付き合いしたいと思うようになった。

もちろん真剣に。

告白してフラれる度に必ず思い出すんだ。

告白できないまま終わった最初の恋を。



ーーーーーーーーー



さ:ねえ、聞いてる?

〇:あ、ごめん。なんだっけ?

さ:もぉー、だからー。〇〇はすごいよって話!!

〇:は、すごい?

さ:だって、4人目だよ!!高校3年で3人でしょ。

・・・・・・

さ:大学入って半年でまた告白してるじゃん。

こいつ・・・

〇:さくら、どういうつもりで言ってる?

さ:だから、すごいなぁーて


〇:はぁー・・・もういいから

さ:え、なんで怒ってんの

〇:あのなぁぁー

人の事をバカにしたりしないのもわかってるし、

さくらは本当にそう思ってくれてるんだろうけど、さすがにひどくないか?



大学を出てから家に向かって一緒に歩いていたが、

このまま家に帰る気にならず、かといってどこかお店に入ってという気分でもなかった。

〇:オレちょっと寄り道して土手の方歩いてくるから

さ:じゃあ、私も行くっ!!

はあ、そろそろ一人になりたいんですけど。

・・・・・・

さ:ねえ、一人になりたかったのにって思ってるでしょ

〇:え?

さ:ほらぁー、分かっちゃうんだからね!!

珍しいさくらのドヤ顔に心を掴まれそうになる。

〇:分かってんなら一人にしてくれよ

さ:だって・・・

〇:んっ?

さ:私が今の○○を一人にしたくないんだもん///!!

今度は恥ずかしそうに、強めの視線を送ってくる。

どういう感情なんだ、それ?

全然分かんないけど。

オレの事を心配してくれている事はよく分かる。


こういうところだよな・・・

普段はおとなしくて引っ込み思案な印象が強いのに、

こうと決めたら変に頑固なんだよな。

オレがかつて好きだった所をしっかり見せられて、その芯の強さにまた魅せられる。

こうなったさくらを説き伏せるには相当なエネルギーが必要だ。

そして、今のオレにそんな元気は無い。

結局、2人で遠回りして帰る事になった。


最初は鬱陶しいと感じるんだけど。

さくらのお節介のお陰なんだよな。

失恋というトラウマものの人生の失敗イベントが

徐々に酸っぱい思い出に代わっていく様な感覚を味わう。

毎回忘れているけど、さくらがこれを狙ってやってくれてるならすごいなと思う。



さ:なんで笑ってんの?

〇:え?

さくらに言われるまで気づかなかったが、どうやらオレは笑っていたらしい。

さ:壊れちゃった?

〇:おいっ!!

失礼なやつだ。

とても狙ってやってるとは思えないな。

そう思うとまた笑えてくる。

まったく・・・

すごいやつだ。

自分の中でどれだけさくらの存在が大きいのか実感する。

さ:ほんとに大丈夫?

〇:大丈夫だよ、また新しい恋を探すしかないなー

さ:うん・・・ほんとにすごいね。私には絶対できないや

〇:なんだよ、モテる自慢か?

さ:ち、違うもんっ;;

〇:ほんとかぁ?

慌てるさくらが可愛くて、ついからかうような絡みをしてしまう。

さ:ほんとだもんっ!!ちゃんと気持ちを伝えられるのがすごいなーって思ってるんだよ

・・・・・

さ:私にはそんな勇気ないからさ・・・

・・・・・・

〇:さくらも告白したい人がいるの?

さ:えぇっ!!?なんで?

〇:そんな感じしたから

・・・・・・

〇:っていうか、さくらに告白されて断るやつなんていないだろ

さ:・・・・・

ん?

さ:・・・・・・

〇:おぉぉーーい

さ:えぇぇぇっ!!??

固まっていたと思ったら急に大きな声を出す。

〇:なんだよ;;びっくりすんだろ

さ:そ、それどういう意味?

〇:どういうって、そのまんまの意味だよ

さ:むうぅぅぅ・・・・

じろりと上目づかいに睨み上げてくる。

けっこう器用なやつだ。

〇:なんだよ

さ:なんでもないもん

なんかお気に召さなかったらしい。



・・・・・・

〇:告白したらいいんじゃないの?

・・・・・・

さ:ううん、告白なんてできないよ

・・・・・・

〇:まあ、さくらが決める事だからな

・・・・・・

さ:私が好きな人にはね・・・

さ:私と正反対で明るくて一緒にいると笑顔になれるような・・・

さ:そういう人がお似合いだって思うんだ

・・・・・・

〇:ふーん

・・・・・・

さ:それに昔から全然そういう対象として見られてないし、私は選択肢に入ってないんだ

・・・・・・

さ:だから選ばれないっていうか

・・・・・・

さ:告白する資格が無いっていうか

・・・・・・

さ:ごめんね、こんな話・・・



〇:あのさ・・・

・・・・・・

〇:資格がないと告白しちゃいけないの?

さ:え?

〇:オレそんなふうに考えた事なかったなー

・・・・・・

〇:オレさ、昔好きな子に告白できないまま諦めた事があってさ・・・

さ:え?○○が?

〇:意外だろ?オレにもそんな時期があったのよ

〇:でもさ、やっぱりちゃんと気持ちを伝えたかったなって

〇:今は思うんだよね

さ:・・・・・・

〇:だからさくらには後悔してほしくないなーって

さ:・・・・・・

真剣な表情で聞き入っているさくら。

〇:それに告白ってゴールじゃなくて、スタートでしょ

〇:2人の時間が始まるのはそっからじゃん

〇:告白してからの時間の方が長いし、大事かなって

〇:だったら早くスタートしたいって思うんだよね

さ:そっか、そうだね!!

オレの話に何度も頷くさくらがちょっと心配になる。

〇:あくまでもオレの考えだから参考にならないと思うけど

さ:やっぱりすごいよ、○○は!!

〇:結果、数打ってフラれまくってるけどな

さ:うん、そうだよね!!フラれまくってる!!

〇:おいっ!!

さ:ふふふっ、ごめん

そう言って笑うさくらがあまりにも眩しくて、気持ちが揺さぶられてしまう。

オレにはそんな資格ないのに・・・



〇:と、とにかくフラれても今度はオレが話聞いてやるからさ

〇:がんばってみれば?

自分で言った台詞に多少胸のざわつきを感じるが、

さくらに幸せになってほしい気持ちに嘘は無い。

さ:私もがんばれるかな?

〇:さくらなら大丈夫だろ!!

さ:○○に言われると本当にそんな気になってくる!!

〇:そっか、うまくいくといいな

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

そこから急にさくらの口数が少なくなる。

もともと一人になりたかったオレには都合がいいんだけど、

会話をしていない事で余計にさくらの存在を意識してしまう。

さくらと2人で並んで歩く。

こういう時間はいつまで続くんだろうか。

さくらの告白が成功するまでかな・・・

感傷に浸っていると徐々にさくらとの距離が離れている事に気づく。

斜め後ろを振り返って声をかける。

〇:さくら?

さ:〇〇・・・


〇:ん?

さ:ちょっとそこで待っててほしい

〇:いいけど・・・

訳が分からず、言われるがままに立ちすくむ。

少し距離をとって、スマホを取り出すさくら。

どしたんだ急に?

誰かに電話してるみたいだけど。

話している事は聞こえないが、なんだか興奮しているように見える。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

さ:ふぅぅー

通話を終えた後、長く息を吐いてオレを見据えてくる。

さ:お待たせしました

〇:なんかあったの?

さ:えっと;;;;

・・・・・・

さ:うぅーん;;;

・・・・・・

さ:あのね;;;;

・・・・・・

さ:なんて言ったら・・・

・・・・・・

きょろきょろと視線を動かしながら、

両手で身体のあちこちを触るさくら。

〇:さくら?

挙動が不審すぎて心配になる。


さ:よ、よしっ!!

両手をぎゅうっと握って少し後ずさる。

さ:行きますっ!!

〇:ん?

ぐっと腰を落とした後に、一瞬で距離を詰められる。


ズゥゥウーン!!!

ぐえぇぇっ!!

さくらが低い姿勢で腰のあたりに突っ込んできて

オレの口から異様な音が漏れる。

いくらさくらが細くても、これだけ勢い付けられると・・・

しっかり体重の乗ったタックルに、倒されそうになる。

それでも一緒に倒れてさくらにケガをさせるわけにはいかない。

なんとかさくらの身体を支えつつ、踏ん張って受け止める。

なんなの、これ!!??

どういう状況!?



==========

さくからの着信に気づき、気持ちが上がる。

賀:はーい

さ:かっきー!!私今から告白するっ!!

賀:え!?

さ:今ならできそうな気がするのっ!!

さ:ううん、たぶん今しかできないっ!!

さ:今しないと絶対後悔するっ!!

賀:ちょっと落ち着いて;;急にどしたの?

さ:約束!!

賀:・・・

さ:かっきーとの約束ちゃんと守るから!!

賀:・・・

さ:上手に伝えられるか不安だけど、やるだけやってみる!!

・・・・・・

・・・・・・

賀:上手じゃなくていいじゃん

さ:え?

賀:考えて用意した言葉より、さくの今の気持ちをそのままぶつけた方がいいと思う!!

さ:かっきー

賀:がんばれ!!!気持ちでぶつかってこいっ!!!

さ:うん、がんばる!!!

通話を終えて中学時代にさくと教室でした話を思い出す。



^^^^^^^^^

賀:さくって〇〇と仲いいよねー

さ:そ、そうかな

賀:好きなんでしょ?

さ:えぇぇ!?なんでっ////

賀:ふふっ、わかりやすいねー

さ:そ、そうかな。かっきーが鋭いんだと思うよ///

賀:告白とかしないの?

さ:そんな、無理無理;;;

賀:私はお似合いだと思うなー。さくと○○は・・・

・・・・・・

・・・・・・

さ:お似合いなんかじゃないよ

・・・・・・

賀:さく?

さ:そういうんじゃなくて・・・、

さ:○○とは今まで通りの関係でいたいかな・・・

賀:え!!そーなの?

さ:〇〇は・・・

・・・・・・

さ:〇〇は、ただの幼なじみだから・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・


さ:分かるんだもん

さ:○○にとって私はそういう存在だって

さ:私はいつも助けてもらってばっかりでさ

さ:何も返せてないんだよね

さ:私じゃ、○○を幸せにできないと思う

賀:そんなの!考えすぎだって!!

さ:ううん。○○には、ちゃんと幸せになってほしい

賀:さく・・・

さ:だからいつも明るくて、一緒にいると笑顔になれるような

さ:私とは正反対のそういう素敵な子がお似合いだと思うんだ

・・・・・・

賀:さくは・・・それでいいの?

・・・・・・

さ:うん。もう決めたから!!

さくの作り物の笑顔を見ていられなくて、ギューっと抱きしめる。

さ:かっきー

賀:さく、ごめん・・・

さ:ううん・・・

そんなに悲しそうに笑わないでよ。

全然いいって思ってないじゃん。

さくの繊細な気持ちの中に、土足で踏み入った事は反省してる。

それでも・・・

賀:でもさ、これだけは約束して

・・・・・・

賀:決めるのはさくだし、さくが納得してるならとは思うけどさ

・・・・・・

賀:さくも幸せになってよ

さ:かっきー・・・

放課後の教室で、

大切な人の為に何もできない自分が悔しくて泣いた。



==========

急に電話かかってきて、何かと思ったけど・・・

さく覚えてたんだ・・・

あれから4年か・・・

絶対・・・

幸せになってね・・・



ーーーーーーーーーー

突然タックルしてきたと思ったら

そのままオレの腰に巻き付いて離れないさくら。

〇:おいっ!!なんだよ急に!?

さ:き、気持ちをぶつけていますっ///!!!

〇:はぁ?

いや、気持ちって・・・

しっかり強めのタックルくらってんですけど。

訳が分からない。

さ:こ、告白ですっ///!!!

告白?

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

腰に抱き着いたまま、いつまでも顔を上げないさくら。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

いつものように頭を一瞬だけポンッと触る。

それをきっかけに

ゆっくりと上を向くさくらの顔が

夕焼けよりも綺麗に染まっていて

ようやくさくらの行動に察しがつく。


いや、でも・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・

〇:さくら・・・

〇:オレ達ってさ・・・

〇:ただの・・・幼なじみだよね?

・・・・・・

さ:違うもんっ!!///

〇:へ?

さ:全っ然っ、違うもんっ!!!!////


真っ赤な顔を左右にぶんぶんふるさくら。

うぅっっっ///

めちゃめちゃ可愛いんだけど

オレの知ってる告白と全然違うっ!!!///

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