幼なじみの柚菜【撫でる】
柚:ねー、行こーよ
〇:いや、オレは家で見る派だから
柚:えー、絶対楽しいよー。〇〇だって好きでしょー
〇:好きだけど、苦手なんだよ球場に行くのは;;;人が多くて
柚:一回くらい一緒に行こーよー
〇:まあ、考えとくから
もう何度目だろうか。ゆなに嘘をつくのは・・・
ーーーーーー
自分でいうのもなんだがオレは変わり者だと思う。
変わり者にも色々あると思うが、ガッツリ隠に入るタイプの変わり者だ。
何についても理屈が通っていないと、居心地が悪くなってしまう性分らしい。
色々考えすぎだという事は重々承知しているが、気の持ち用でなんとかできないほどには拗らせしまっていた。
そんなオレが唯一一緒にいて心地いいと思えるのがゆなだった。
ゆなとは幼なじみで近さで選んだ大学でも一緒にいる。
好きな事について話している時のゆなは本当に眩しくて・・・
本当に好きという気持ちが伝わってきて・・・
オレはそれを見るのが好きだった。
オレは野球が好きではない。
正確には好きになろうとしたが、好きになる事ができないでいる。
だからオレが野球好きを公言する資格は無い。
たぶんオレには好きという感情というか、好きになる才能というか、そういうものが欠落しているんだと思う。
野球の話を興奮して話すゆなの笑顔が眩しくて、オレも好きになりたいと思ったのがきっかけだ。
それから試合をいっぱい見たり、選手やチームの事を調べたり自分なりに色々試してみた。
実際に生で観戦したら好きになるだろうと思い、一人で球場に足も運んだこともあった。
大観衆の中でプレーをする選手は本当にかっこいいと思ったし、
客席にいるだれもが真剣に、全力で応援をしている姿を見て感動もした。
現場の熱をたっぷり味わう事ができて、大抵の人は好きになるんだろうと思うけど、
オレには居場所が無いように感じた。
不純な動機で野球を好きになろうとしている自分がここにいて、混ざっていいものだろうか。
そう考えてしまった。
我ながらめんどくさいやつだと思う。
そんな事気にせずに楽しめばいいのに。
その後も知識は増えていくものの、やはり自分の中での熱量は怪しいと言わざるをえなかった。
努力が足りないんだろうか、そう思って選手やチームのデータを深ぼってみたりもしたが、そもそも努力と言っている時点でズレているような気もする。
別に好きの度合いも、応援の仕方も人それぞれでいいのは分かっているんだが。
幸い知識をつければそれなりに話を合わせる事はできてしまう。
そうなるとゆなの前では、好きな振りをしてしまうというわけだ
何度も嘘を重ねるうちに慣れてくるのかと思いきや、罪悪感は募るばかりだった。
最近では野球以外でもそーいうことが増えてきて、ゆなと一緒にいるのが辛くなってきていた。
ーーーーーー
柚:あぁー、かわいぃぃー。なんでこんなに可愛んだろねぇー。カワイイネェー
大学のカフェでスマホを眺める幼なじみ。
また愛犬の動画見てんなーってのが遠目からも分かった。
柚:あ、〇〇。ほら見てよー
〇:あぁ・・・
・・・・・・
〇:可愛いね
柚:ねー、ほんとに。早く会いたいよー
〇:帰ったら会えるじゃん
柚:そーだけどさー
好きなものを見ているゆなは本当にキラキラしていた。
〇:ほんとに好きだよね
柚:〇〇だって犬好きじゃん
〇:あぁ・・・
野球の次にチャレンジしたのが犬だった。
なんとか好きになろうといろんな動画を見たり、雑誌を読み漁ったりした。
犬の行動と感情の繋がりみたいなものも分かってきて、実際に犬との生活を想像したりもした。
それでもやっぱり自分の中の熱量は疑わしかった。
もちろん可愛いとは思うが、そこまでだ。
心から好きで、心から可愛いと思っているゆなとの温度差は明確で。
そんなオレには犬を飼う資格がないように感じた。
その犬にも申し訳ない。
たぶん犬側からすれば飼い主ガチャのハズレみたいなものだと思う。
心から好きな気持ちを持っている人と、そうでない人と・・・
犬にも考えすぎと言われそうだが・・・
柚:あっ、〇〇も犬飼えばいいじゃん!!
〇:えっ?
柚:飼ったらもっと好きになるよ!!絶対っ!!
〇:いや、そんなの犬がかわいそうだし・・・
柚:ん?
〇:あ;;
柚:どういう事?
〇:いや;;;;
柚:かわいそうって何?
・・・・・・
・・・・・・
すぐに誤魔化せばなんとかなったのかもしれないが、じっと覗き込んでくるゆなのあまりにも真っすぐな視線に
これ以上嘘を続ける事はしたくなくて・・・
長年重ねてきた罪を告白していた。
・・・・・・
・・・・・・
〇:ごめん・・・
〇:今までずっと犬好きみたいな事言ってたんだけど
〇:ほんとは、好きじゃないって言うか・・・
柚:え、嫌いだったの?
〇:いや、誓って嫌いではないし、犬が好きな人の事を否定するつもりもないよ
〇:ただ・・・オレがちゃんと好きになれなかっただけ
柚:ちゃんと?
〇:うん・・・本気でっていうか・・・
〇:ごめん・・・
・・・・・・
・・・・・・
柚:そーだったんだ・・・
・・・・・・
・・・・・・
〇:実は犬だけじゃなくて・・・
〇:野球も・・・・
柚:えぇぇっ!!!
〇:ごめん・・・
もう後戻りはできない。
そう思って残りの罪も告白する事にした。
柚:でも選手のデータとか私より全然詳しいじゃん
〇:それは調べて覚えただけだから・・・好きになりたくて・・・
・・・・・・
・・・・・・
柚:なんで?
〇:えっ?
柚:なんで好きになりたかったの?
〇:えっと;;;
・・・・・・
・・・・・・
〇:野球の話をしてるゆながすごくキラキラしてて
〇:勝った時に本気で喜んで上機嫌だったり
〇:負けた時に本気で悔しがってちょっと不機嫌だったり
〇:オレも野球を好きになってゆなとそういう感情を共有したかったんだと思う
・・・・・・
・・・・・・
柚:そーだったんだ・・・
〇:でもうまくいかなくて、ずっと嘘ついてた
〇:もちろん今も好きになりたいって思ってるんだけど・・・
〇:たぶんオレは何かを本気で好きになる才能っていうか、感情っていうか・・・
〇:そういうのが無いんだと思う・・・
〇:ほんとにごめん・・・
柚:ねえ〇〇
柚:好きになろうとして色々がんばったんでしょ?
柚:それってもう好きでよくない?
・・・・・・
・・・・・・
〇:でも、そもそもの動機も不純っていうか・・・
〇:ほんとに好きな人に申し訳ないっていうか・・・
柚:はぁああー・・・・
わざとらしく盛大な溜息をついた後に、ふわっと笑う。
柚:本当に〇〇は昔っからめんどくさいねー
そう言ってオレの頭を優しく撫でる。
〇:えっ;;
柚:よしよし///
柚:自分で認められないなら・・・
柚:ゆなが認めてあげる・・・
柚:他の人とは違うかもしれないけど
柚:それは好きって言ってもいいと思うよ
・・・・・・
・・・・・・
あれ?
オレ安心してる?
大学内の共有スペースで幼なじみから頭を撫でられているというのに、
恥ずかしいと思わないどころか、妙に気持ちが落ち着いている事に気づく。
ゆなの小さな手から伝わる大きな優しさに包まれて、あまりの心地よさに意識が持っていかれそうになる。
それでも・・・
このまま雰囲気にのまれてしまってはダメだ・・・
オレに甘える資格があるはずもない。
ずっと嘘を重ねてきたんだから。
〇:怒ってくれよ
柚:ん?
〇:オレずっとゆなに嘘ついてたのに・・・
真剣に言うオレを諭すように柔らかい表情を見せる。
柚:ねえ〇〇
柚:嘘はよくないよね
柚:でもさ・・・
柚:ゆなの好きを頑張って好きになろうとしてくれたって事でしょ
・・・・・・
・・・・・・
柚:それってさ・・・
柚:けっこう嬉しいよ///////
!!!
〇:そ;;;そうなの?
柚:うん///////
〇:そっか;;;
・・・・・・
・・・・・・
〇:えっと///いつまで頭撫でてんの?
柚:だってなかなかいい毛並みだから
〇:毛並みって;;;
柚:飼ってみたいかもっ/////
〇:なっ;;;何言ってんだよ/////
柚:あははっ、冗談冗談/////
なんだか釈然としない所もあるが、
ゆながこんなふうに笑ってくれるだけでこんなに満たされた気分になるんだな/////
頭を撫でられながら、そんな事を考えていた。
柚:ねえ、〇〇
柚:今度はほんとの好きを教えてよ
柚:がんばって好きになろうとしたものじゃなくて
柚:〇〇がただ好きなもの
柚:なんかあるでしょ
柚:昔からずっと好きとか
柚:この先もずっと好きだろうなーとか
柚:〇〇の好きなものをゆなも知りたいから///////
昔からずっと好きなもの・・・
この先もずっと好きなもの・・・
思い当たるものは一つしかなかった。
【終わり】
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