幼なじみのさくら#3【しっかりしろ】
モヤモヤとさくらの事を考えながらキャンパスを歩いていると、背中をチョンチョンとつつかれる。
振り返ると中学卒業以来の同級生が立っていた。
賀:〇〇、久しぶりだね
〇:賀喜さん!?
賀喜さんは中学時代の同級生で、さくらの親友だ。
今は地元を離れて大阪の大学に行っているらしい。
中学を卒業してから、オレは会ってなかったけど。さくらからちょくちょく話は聞いていた。
〇:帰ってきてたんだ。さくらに会いにきたの?たぶんまだ授業終わってないと思うけど
賀:ううん、〇〇に会いに来た
〇:へ?
賀:ちょっと時間もらえる?
オレに会いに?
全然話が見えてこないまま、人目を避けるように場所を移す。
賀:急にごめんね、どうしても〇〇に確認したい事があって
〇:いや、いいけど。電話でもくれたらわざわざ来なくてもよかったんじゃない?
賀:連絡先知らないじゃん。さくには聞けないし、人づてに聞く事はできたと思うけど直接話したかったから・・・
・・・・・・
賀:大学で見つからなければ家に直接行こうと思ってた。さくんちの近くなのは知ってたから
大学で見つからなければって、無謀がすぎないだろうか。普通見つかんないだろ。
ってちゃんと見つかったオレが言えるわけないんだけど。
何が賀喜さんをここまでの気持ちにさせているのか見当がつかなかった。
〇:それでオレに話って?
賀:うん・・・さくの事
〇:さくら?
賀:〇〇がさくの事どう思ってるのか知りたい
〇:え?
賀:さくから告白されたんだよね
さくらから告白される直前にどこかに電話をしていたことを思い出す。
〇:あっ、もしかしてあの時さくらが電話してたのって
賀:うん。これから告白するって電話きた
〇:そっか・・・
賀:うん・・・
賀:私が何か言える立場じゃないって事は分かってるんだけど
賀:〇〇はさくの事どう思ってるのかちゃんと聞きたくて・・・
〇:それだけの為に来たって事?
賀:うん、明日の朝には帰るし、さくにも帰ってきてる事言ってない
〇:そうなんだ・・・
賀:余計なお世話だって事は分かってるから・・・
そう言って申し訳なさそうに目線をそらす。
本当にさくらの事が心配だったんだろう。
そんな賀喜さんの真剣な気持ちに、正直に答えない事は失礼だと思った。
〇:ちょっと長くなっていい?
賀:うん
質問に対しては完結明瞭に答えるべきだという事は重々承知しているが、
さくらへの気持ちを一言、二言で言い表せるはずもなく自分語りを始めた。
〇:オレ、小さい頃からさくらの事がずっと好きだったんだ
〇:外見が可愛いってのはもちろんだけど
〇:とにかく優しいやつで、いつも自分より他人を優先するみたいなとこがあってさ
〇:そのくせ、意外と頑固なとこもあって。そういう時のめんどくささっていうか、芯の強さっていうか・・・
〇:ギャップって言ったら、安っぽく聞こえちゃうんだけど。そういう人間としての魅力に惹かれてたんだと思う
〇:それで中学の時、告白しようと思ってたんだけど、賀喜さんとさくらが話してるの聞いちゃった事があって・・・
賀:えっ!?
〇:悪いと思いつつ、立ち聞きしちゃって・・・ごめん
〇:その時ただの幼なじみだからってさくらが言っててさ
〇:オレの気持ちはさくらを困らせちゃうなって思ったんだよね
〇:だから結局さくらには告白できなかった
〇:そこでさくらへの思いにはちゃんと蓋をして、
〇:それから色んな人に告白してフラれまくってる感じなんだけど・・・
賀:ちょっと待って;;
〇:ん?
賀:それって3年の時?教室?放課後?
〇:えっと、たぶんそうだね
賀:ちゃんと最後まで聞いてないの?
〇:最後って?
・・・・・・
・・・・・・
賀:私のせいだ・・・
〇:へ?
賀:私があの時、あんな事さくに聞かなければ・・・
〇:賀喜さん?
賀:ごめんなさいっ!!
深々とオレに頭を下げる。
賀:2人がすれ違ったのは私のせいだ
〇:いや・・・よくわかんないだけど
・・・・・・
〇:と、とにかく顔上げてよ;;;
・・・・・・
・・・・・・
賀:その時の事を私から話す事もできなくはないけど・・・
賀:私じゃダメっていうか・・・それじゃあ何も変わらないっていうか・・・
賀:とにかく、ちゃんと2人で向き合って話してほしい
自分でもずっと考えていた事をはっきりと言われてしまう。
それでも・・・
〇:オレも話さなきゃって思うんだけど。さくらがそれを望んでない気がして・・・
〇:無理に気持ちを押し付ける形になるんじゃないかって・・・
賀:そんなのわかんないじゃん!!
・・・・・・
賀:結局さくの事好きなの?好きじゃないの?今の〇〇の気持ちを聞いてないよ
・・・・・・
・・・・・・
〇:・・・好きだから迷ってる
・・・・・・
・・・・・・
賀:そっくりだね・・・
賀:優しすぎるよ・・・2人とも
〇:え?
賀:ねえ、〇〇
賀:相手の気持ちを思いやるのはすごく大事な事だと思うよ
賀:でもさ、自分の気持ちもちゃんと大切にしてあげてよ
賀:中学の時は告白できなかったけど、今は?
賀:今の〇〇は、さくに気持ちを伝えなくていいの?
〇:今のオレ・・・
昔の事を思い出すとあれこれ考えてしまうが、今のさくらへの気持ちははっきりしている。
だからってオレの都合でさくらに気持ちをぶつけてもいいんだろうか。
そうしてまた思考の沼に片足を踏み入れそうになる。
賀:しっかりしろっ!!
〇:え?
賀:今まで散々バット振って、フラれまくってきたんでしょ?
賀:一番大事な場面でバット振らないどころか、打席にも立たないってなんなの!!
賀:そんなんでいいわけないじゃん!!
興奮した賀喜さんから発せられる言葉が、オレの心と身体にちゃんと突き刺さる。
顔を上げると、たっぷり目を潤ませ、ぎゅっと握った両手を震わせていた。
〇:賀喜さん・・・
わざわざオレに会いに来てくれて、本来言う必要の無い事まで言わせてしまった。
賀喜さんの言う通りだ。
こんなオレでも告白する事に関しては、それなりにベテランの域だ。
それなのに・・・
あれこれ理由をつけて、また告白できない理由を探してたんじゃないだろうか。
ここで打席に立たないでどうする!!
いくら考えてもまとまらなかった思いが、徐々に集まって形になっていく。
やるべき事がはっきりすると、頭の中もスッキリするもんだ。
・・・・・
・・・・・
〇:賀喜さんって野球好き?
賀:えっ、別に。例えで言っただけだし・・・
・・・・・・
・・・・・・
〇:・・・優しすぎるのは賀喜さんじゃないかな
賀:んっ?
顎をぐっと出して、よくわかんないって顔をする。
〇:ほんとにありがとう。さくらと話してみるよ
妙にスッキリした気分で感謝を伝えると、少し安心したような表情をする賀喜さん。
賀:私のお節介はここまで。勝手な事ばっか言ってごめんね。それと・・・
賀:さくの事頼んだからね
ーーーーーーーーー
賀喜さんと別れた後、さくらの授業が終わるのを待って電話をかける。
〇:さくら、もう終わった?
さ:うん。これから帰るとこ
〇:一緒に帰ろうと思ってさ
さ:あ、まだ大学いるんだ。先帰ってると思ってた
〇:ああ・・・
さ:〇〇が待っててくれるなんて珍しいじゃん
〇:さくらに話したい事あってさ
・・・・・・
〇:さくら?
・・・・・・
〇:聞いてる?
さ:・・・・・・話って何?
〇:えっと・・・直接言うよ;;;;
・・・・・・
・・・・・・
さ:ごめん
〇:へ?
さ:今日は一緒に帰れない
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