幼なじみのさくらと蓮加と後輩の菅原#8(完結)【選べない】
咲:先輩とはお別れする事にしました
咲:意地悪じゃない先輩ってなんか物足りなくって
いつもの明るいトーンで喋り続ける菅原の目から、透明な雫が零れ続ける。
咲:あれ;;;これは違うんです;;
涙を拭いながら間を埋めるように喋り続ける菅原に蓮加が寄り添う。
蓮:咲月・・・もういいから・・・・
観念したように目を閉じて唇をぐっと噛むと、ひと際大きな雫が零れた。
咲:蓮加さん、さくらさんごめんなさい!!
一度呼吸を落ち着けた後に深く頭を下げる。
咲:先輩と付き合ってたのは、私が無理やり提案した事なんです
〇:それは違うだろ;;
咲:先輩はちょっと黙っててください、すいません
そう言ってオレにも頭を下げる。
咲:先輩が好きなのは私じゃなくて・・・・
咲:お2人の事を本当に大切に思っていて・・・
咲:私も力になりたかったんですけど力不足でした
咲:先輩達にとってどういう形がいいのかは分かりません
咲:でもそこに私がいちゃいけないって事は分かりました
咲:私みたいな部外者が・・・
咲:付き合ってからも先輩はずっと優しくて
咲:期間限定でいいとか言ってたのに、どんどん先輩の事が好きになっちゃって
〇:待てって!オレは本気で菅原の事
咲:はい、分かってます・・・・嬉しかったです
・・・・・・
咲:本当に好きになろうとしてくれてましたよね
・・・・・・
・・・・・・
菅原・・・
咲:でも私じゃダメでした
咲:だって・・・私と付き合ってから先輩は全然笑えてません
え?
菅原に言われてこの一か月を思い返す。
以前は菅原といる時が一番笑えていた。
恋人になった菅原の前でオレはどういう顔をしていたんだろう。
・・・・・・
・・・・・・
どうしても思い出せなかった・・・
そんなオレの様子を見て悲しく微笑む。
咲:やっぱり・・・気づいてなかったですよね・・・
咲:先輩・・・
咲:今日はありがとうございました・・・
咲:また可愛がってくださいね・・・普通の後輩として・・・
最後に見せた菅原の泣き笑いに言葉を返す事は出来なかった。
ーーーーーー
カチャッ
珍しく昼まで布団から出れなかった休日。
部屋の扉を開けると、リビングのテーブルの上に書置きを見つける。
『実家に行ってくる』
蓮加の字だが、わざわざこんなものを用意してるという事はさくらも一緒なんだろう。
・・・・・・
・・・・・・
リビングで1人で過ごす時間には慣れているはずなのに・・・
こんなに広かったっけ・・・
毎日当たり前に見ている空間がとても空虚なものに感じる。
不思議だとは思わない。
原因は明らかだ。
そして1人で色々と整理するには都合がいい。
実家に急に行ったのだって、その辺気を遣ってくれたんだろう。
オレは・・・
蓮加が好きだ。
そして、さくらが好きだ。
この先どんなに時間をかけても2人のうちどちらかを選ぶ事はできない。
それに加えて今では菅原への気持ちも自覚している。
3人がオレと一緒にいる事で幸せになる未来など微塵も想像できない。
ルームシェアは終わりにしよう。
2人が帰ってきたらちゃんとその話をしよう。
そう決心するのにそれほど時間はかからなかった。
ーーーーーー
オレは朝リビングで過ごす1人の時間が好きだ。
知識の習得を目的としない読書や、何も考えずにぼーっとケトルを眺める時間こそがオレにとって至高であると言って過言無い。
それでも今日は思考がグルグルと忙しい。
結局昨日蓮加達は帰って来なかった。
さすがにこのまま帰ってこないって事はないだろうし、
実家に行ってるんだったら心配する事もない。
実家から直接大学に行くんだろうか、それでも荷物もあるだろうし・・・
オレが必要なものを持っていけばいいだけだが、本人不在の部屋に入るのは・・・
求められてもいない勝手な問答を繰り返しているうちに時間だけが過ぎていた。
ーーーーーー
いつも通り1限の教室に向かうが、いつもの挨拶は聞こえてこない。
どうやら菅原は今日大学に来ていないようだ。
今更どんな顔をして会ったらいいのか分からない。
なんて言ったらいいのかも分からない。
それでも会って、話がしたかった。
ーーーーーー
ガチャッ
家の扉を開けた瞬間に電気がついている事に安堵する。
蓮:おっ、お帰りー
さ:おかえり〇〇
〇:ただいま・・・
蓮:私達もさっき帰ってきたんだ。大学は今日サボちゃった
〇:そっか・・・
さ:連絡しなくてごめんね、思ってたより遅くなっちゃって
〇:いや、別に・・・
蓮:帰ってきてそうそう悪いんだけど大事な話があるの。いい?
〇:ああ
蓮加が立ち上がって空気が一変する。
さくらも真っすぐにオレを見る。
蓮:今まで3人でルームシェアしてきたけどさ・・・
蓮:もう終わりにしよう・・・
蓮加達から言ってくれるのか・・・
それは助かる・・・
〇:ああ、そうだな・・・
蓮:それでこれからは一緒に暮らそう
蓮:恋人っていうか、家族っていうか
蓮:そういう感じで
ん?
・・・・・・
・・・・・・
蓮:聞いてる?
〇:ごめん、ちょっと意味が分からない
蓮:だから同居とルームシェアとは違うでしょ
・・・・・・
・・・・・・
蓮:とにかくずっと一緒にいようって事
〇:ずっとって?
蓮:ずっとはずっとじゃん
まるで予想し得ない蓮加の発言に言葉が出ない。
何を言ってるんだ、いったい?
絶賛戸惑い中のオレを諭すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
蓮:私は〇〇とおさくが好き
蓮:どっちか選んでって言われても選べない。どっちも私にとって大切
蓮:だから、〇〇もどっちか選ばなくていいんだよ
蓮:別に籍を入れないから不幸って事はないし
蓮:色んな価値観があっていいじゃん
蓮:一番大事なのは私達の気持ちでしょ
蓮:親達もちゃんと話して決めるならって言ってくれてる。〇〇のパパママも・・・
〇:そんなわけ・・・
蓮:けっこう前からそういう話はしてたから
〇:そういう話?
蓮:うん
蓮:3人でずうっと一緒に暮らす未来の話
蓮:ねっ、おさく
さ:うん・・・
蓮加に頷いた後にじいっとオレを見る。
それだけでさくらが何を言いたいかは分かる。
〇:なんだよ、それ・・・
〇:そんなのいいわけないだろっ!!
いいわけがない。
そんなオレにだけ都合のいい未来なんて・・・
蓮:たしかに普通とはちょっと違うかもね
蓮:でもね、中学で2人で告白した時から
蓮:おさくといっぱい話して、いっぱい考えてきた事だから・・・
さ:私も一緒・・・
さ:〇〇と蓮ちゃんが好き。どっちかなんて選べないよ
オレの知らないところで蓮加もさくらもずっと悩んできたんだろう。
さくらの表情でようやく気付く事ができた。
ルームシェアだってオレと同じように何かしら罪悪感を抱えて・・・
それでも一緒にいたくて・・・
蓮:でも〇〇に彼女ができたら応援しようって、〇〇が幸せならって2人で決めてた
蓮:それは誰でもいいわけじゃないけど・・・
蓮:咲月ならって思ったんだ・・・
蓮:でも咲月は優しすぎて色々我慢しちゃって、上手くいかなかったね
蓮:みんな我慢して上手くいかないなら、こっからはみんな我慢は無しでいいじゃん
さ:蓮ちゃん
蓮:うん
さっきからずっと蓮加の言葉に深くうなづいていたさくらが蓮加の部屋を開ける。
そこから出てきたのは・・・
〇:菅原っ!?
咲:先輩・・・
咲:お邪魔してます
なんで菅原がここに・・・
先ほどから過多過多押し寄せる情報に理解が追い付かない。
咲:私もいっぱい話したんです。蓮加さんとさくらさんと、両親とも・・・
咲:勝手にお別れしたばっかりですけど
咲:蓮加さんがもう我慢しないでいいよって言ってくれたので・・・言います
咲:先輩が好きです!
咲:さくらさんも蓮加さんも大好きです!!
咲:私も入れてください。3人の中に!!!
飾る気などまるで無い菅原の言葉がちゃんと刺さってしまって目の奥が燃える。
蓮加もさくらも自分の気持ちを曝け出してくれて
オレの思考を先回りするように菅原まで登場して
3人とも何言ってんだよ・・・
オレは何を言ったら・・・
蓮:ドォォーーーン!!!
ノーガードの状態で過去に例の無いほど重い蓮加タックルをくらって堪らず床に転がる。
蓮:ふっふっふ、どう?びっくりしたでしょ?
さ:ちょっと蓮ちゃん;;
咲:先輩;大丈夫ですか?
〇:いてぇ;何すんだよ;;;
転がったまま蓮加を見上げると、蓮加の口がスロー再生のように動く。
蓮:余計な事考えないで、これだけ教えて
蓮:〇〇は私達の事好き?
3人が真っ直ぐにオレを見る。
ああ・・・
ここまでオレの事を分かってくれて・・・
ここまで真剣に思ってくれて・・・
嘘なんかつけるわけが無い。
この先の未来が幸せなものになるかどうか分からない。
それでもオレは・・・
ゆっくり立ち上がってふうっと息を吐く。
〇:蓮加・・・
〇:さくら・・・
〇:菅原・・・
〇:好きだ。3人とも大切だ
〇:もし、許されるなら・・・
〇:オレとずっと一緒に・・・
蓮:ふふ///もちろん、喜んで///
さ:うん、嬉しい〇〇///
さっきからぼやけていた視界に2人の顔がはっきり映る。
それから不満そうに口を尖らせている菅原が・・・
咲:もぉ///そこは咲月って呼んでくださいよぉー///
蓮:ぷっ;;
さ:あははっ
蓮:やっぱり咲月いいね
さ:うんうん、さつきちゃんがいれば3人の時よりもっと楽しくなるね
咲:もおぉ///
コトンッ
自ら長年嵌めていた枷のようなものが落ちる音が聞こえた。
咲:あっ、あの;;できれば私も一緒に住みたいです
蓮:あぁ、それはそーだよね
さ:ここじゃ4人は部屋が足んないし、探さないとね
咲:あ、大丈夫です
咲:私は先輩と一緒の部屋がいいので
蓮:はぁ?
さ:えっ!
さ:ちょ;さつきちゃん一旦落ち着こう;;;
蓮:そーだ!第1婦人をさしおいて何言ってんの!!
さ:えっ、ちょっと!!れんちゃん第1ってなに!?
蓮:え;;;だっていつも1番に名前呼んでくれるし
さ:あいうえお順でしょ!毎朝1番に一緒の時間を過ごしてるのは私だもん!蓮ちゃんがおはようするのは2番目じゃん!
蓮:夜最後にお休み言うのが1番でしょ
さ:朝だよ!1番はっ!
蓮:そもそもあいうえお順だったら、おさくが先でしょ。さなんだから
さ:だから苗字!
蓮:いやいや苗字呼びなんてしないじゃん、さすがに無理あるって
咲:あのぉ・・・
咲:私第3になってませんか?
蓮:え、咲月は第3でしょ
さ:うん、さつきちゃんは第3だね
咲:えぇーん、先輩。慰めてください―
さ:あっ;;抱きつくのずるい。私だってそんなのした事ない;;;
咲:先輩だって若い方がいいですよねー
蓮:若いって1年でしょ!離れなさいっ!
蓮:むぅー
さ:むうぅー
咲:むううぅぅー
手やら足やらなんやらを3方向から引っ張られる。
なんだこれは・・・どういう状況・・・
・・・・・・
・・・・・・
蓮:一旦落ち着いてちゃんと決めよう
蓮:〇〇の身体はひとつしかないんだから
咲:そーですね
蓮:さすがに3人同時にってわけにはいかないだろうし
さ:ん;れんちゃん何言ってるの?
蓮:何って合体する順番の話
さ:ええぇえええぇえ//
さ:が、合体って///そんなの言わないで
蓮:いや大事でしょ!
さ:そ;そうだけど///
蓮:あー、おさくがそんな感じなら〇〇の1番は私がもらうね
咲:私もっ!先輩の1番ほしいです///
蓮:第3は3番目でしょ!!
咲:第3じゃないです!!
蓮:だいたい未だに先輩呼びなのにエッチなんて早いから
咲:こ、これは作戦です;;先輩は後輩フェチですから;;
蓮:ぶぶぅー、〇〇はゴリゴリの幼なじみフェチですぅー
咲:うう、それはずるいですっ
蓮:じゃあどっちが先か〇〇に決めてもらおう!
咲:確かに!先輩が決めてくれるなら文句ないです!
さ:ま;待って;;やっぱり私も〇〇の1番欲しい///
蓮:まあ、そうなるか
蓮:じゃあ〇〇が決めた順番を受け入れるって事でいい?
さ:うん///
咲:はい!!
蓮:それで何番目でもそれぞれいっぱい愛してもらっちゃおう///
さ:わわわぁぁ/////
咲:なんかやばいですね///3番ってなったらそれはそれで盛り上がるっていうか;;;
咲:先輩もいっぱい優しくしてくれそう///
蓮:分かる!そーすると2番もアツイよね
咲:あ、分かります!待ってから送り出すみたいな、ちょうど切ない感じで・・・
咲:それもいっぱい優しくしてくれそう///
さ:わわわぁぁ/////
蓮:まあそれでもやっぱり1番がアツイ!!
咲:間違いないですねっ!!
さ:う、うん!!
なにやら盛り上がっている3人の視線が一点に集まる。
蓮:ねぇ〇〇
蓮:順番
蓮:誰からにする?
蓮:私だよね!
さ:わ、私にして///
咲:NG無しです!頑張ります!私にしてください!
我慢は無しというのはこういう事なんだろうか・・・
仲は良さそうだが・・・
きっとこの先ずっとこういう難しい選択を迫られるのだろう。
それでも・・・
順番はあっても、順位はない。
更新日を迎える前に3人のルームシェアは終わった。
ー-----
ー-----
オレはこの時間が好きだ。
本来有益な時間を無為に静かに過ごす事が最高の娯楽と言って過言無い。
そしてこう感じるのはそうでない時間のお陰である事は理解している。
どちらがいいとか、どちらが好きとかそういう事ではなくて
静かな時間のお陰で賑やかな時間が
賑やかな時間のお陰で静かな時間が
尊いものだと感じる事ができる。
カチャッ
今日もリビングで過ごす1人の時間が終わりを告げた。
【終わり】
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ぬめたけ的順番は菅原さん→遠藤さん→蓮加ちゃん。
3番で拗ねる蓮加ちゃんを見たいです。
お時間ある時に一気読みしていただけるとより楽しめると思います。
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