妹の友達のアルノちゃん#1【困る】
ア:おかしいよぉ。もう絶対おかしい。絶対おかしいよぉぉーー
珍しく早い時間に仕事が終わり帰宅するとリビングから知らない声が響く。
恐る恐る入っていくと妹のなぎとテーブルに突っ伏している女の子。
和:あ、お兄ちゃん早いじゃん
〇:ただいま
和:アルノが遊びに来てんのよ
〇:うん・・・
テーブルの上に既視感のあるペンを見つけて色々納得する。
〇:なぎ、やったろ
和:うん、大成功
〇:それマジで痛いんだって
和:私は痛くないし
〇:あのなー
いまだに机に突っ伏しているさまに、さすがに申し訳なくなって声をかける。
〇:えっと・・・アルノちゃん?大丈夫?
ゆっくり顔を上げて目が合うと急にピンっと立ち上がる。
ア:えぇぇ!!だ、誰ですか?
いや、そんなに驚かなくても・・・
まあたぶん今はパニック状態なんだろう。
警戒心の強いペットに近づくようにゆっくりとしゃべりかける。
〇:それ痛いよね。オレもなぎにやられてさ・・・
ア:えぇ?な、何?
助けを乞うようになぎに問いかける。
和:何って・・・これはドッキリじゃなくて、ガチお兄ちゃんの帰宅
〇:どうも・・・
・・・・・・
・・・・・・
ア:ええぇぇえーーー
ア:あわわわ。す、すいません中西です。お邪魔してます
お手本みたいなパニックの動きをしてから、深々と頭を下げられる。
あわわわってちゃんと言う人いるんだな。
なるほど、これは騙し甲斐のあるリアクションだ。
色々仕掛けたくなるのもわかる。
・・・・・・
ア:えっ。えっと・・・
戸惑いの表情から、じーっと観察していた自分に気づく。
〇:あ、ごめん。なんかリアクションが可愛いなーって思ってつい;;;
ア:えぇぇっ!!!
和:ちょっとお兄ちゃん!!アルノのことエロい目で見んな!
〇:見てないわ;;;
和:絶対見てた!アルノの困り顔たまらん!よだれずびっって
〇:そんなの言うかっ!!
和:アルノだってエロい目線感じたでしょ
ア:えぇぇ;;;;えっと;;;;
和:ほら、アルノ困ってんじゃん
〇:なぎが困らせてんだろ
ア:あ、あのっ;;;私、全然;;;困ってません;;;
お手本みたいな困り顔でそんな事を言ってくる。
なんか可愛いっていうか、面白いっていうか・・・
和:アルノ。とりあえずこれでも飲んで落ち着いて
ア:うん
この流れは・・・・・
コップに手を伸ばすアルノちゃんの手首をキュッと掴むと、再びパニックになる。
ア:え?えぇぇ?
〇:あ;;急にごめん。これ、めんつゆだからさ
ア:ええぇぇええ?えぇぇ?
和:最悪ぅー、ネタバレすんなしぃー
〇:アルノちゃん困ってんだろ。その辺にしとけよ
和:ぶううぅぅ
〇:なぎ!!
和:・・へーい
ア:なにもう・・・なぎ怖いんだけど・・・・
和:ごめんごめん、ガチコーラ持ってくるねー
アルノちゃんの反応にとりあえず満足したらしい。
めんつゆの入ったコップを持って冷蔵庫に向かう。
〇:なんかごめんね
ア:え?
〇:痛かったでしょ?
ア:はい、死んだかと思いました
〇:はは。大袈裟だね
ア:うぅ;;;ほんとに痛かったんですぅ;;;
〇:そうだよね・・・
多少の問題行動はあるにしろ、オレにとって可愛い妹なのは間違いない。
ドッキリを仕掛けるなんてなぎが相当心を許している証拠だし、そういう存在は貴重だ。
〇:あんな妹だけど、これからも仲良くしてやってください
悪く思わないでっていうのは無理があるかもしれないが、一方的なお願いを込めて妹の非礼を詫びる。
ア:え;;;はい、大丈夫ですから頭上げてくださいっ;;;
ア:なぎも私を楽しませようとしたんだと思いますし、おもてなしみたいな;;;
・・・・・・
〇:ぷっ、いいやつすぎるね、アルノちゃん。普通怒るでしょ
ア:・・・怒れませんよ。あんな可愛かったら
〇:あぁー
どうやら同種族のようだ。
妹にやられっぱなしの兄としては妙に親近感を覚えてしまう。
〇:アルノちゃんもなぎにドッキリ仕掛けていいからね
ア:えっ、でもたぶん私そーいうの下手だと思います
〇:あぁー、そんな感じはする
ア:えぇっ;;;
〇:ははは、ごめんごめん
困り顔が見たくてつい揶揄ってしまう。
なんか癖になりそうだな・・・
和:ちょっとなにコソコソ話してんの?
ガチコーラを手に持ったなぎが戻ってくる。
〇:べ、別に;;;
和:え、まさか妹の友達に手出そうとしてる?
〇:出すわけないだろ;;;
和:アルノ気をつけてね。お兄ちゃん見た目は普通だけど、中身変だから引っかかっちゃダメだよ
〇:おいっ
和:だって実際彼女いないじゃん
〇:ぐぬうぅ。それは言わない約束ですよ、なぎさん
和:そんな約束してませんよ、エロ兄ちゃん
〇:いや、そこは察していただいて。あとエロ兄ちゃんはダメですよ
和:え、なんでダメなの?エロ兄ちゃん
・・・・・・
・・・・・・
いつもの調子でなぎとやりあっているとじーっと見られている事に気づく。
和:アルノ?どした?
ア:あ、その・・・仲良いんだなーって・・・
ーーーーーー
ーーーーーー
はぁっ!!
ぐえっ!!
和:おっはよー、お兄ちゃん
休みの日は大抵妹のボディプレスとともにスタートする。
仕事の日は朝が早いので休日くらいはと思い惰眠を貪る。
オレとしては夕方くらいまで寝ていたい気分なんだが、昼過ぎにはなぎに無理やり起こされると言うわけだ。
和:起きろぉー
〇:分かった分かった、起きるって
無理やり覚醒させられて、脳が追い付かないまま手を伸ばす。
いくらなぎが細いとはいえ、飛び乗られたらそれなりのダメージを受けるんだが・・・
ポンポンと背中を軽くタップしてから強めに頭をワシワシと撫でると、ようやく重みから解放される。
というかこれをやるまで、ずーっとどかないので休日の儀式みたいな事になっている。
和:へへへ
和:ねえ、これから買い物行くんだけど
〇:ああ、行ってらっしゃい。気を付けて
和:暑いから、車出して
・・・・・・
面倒くさ・・・
和:ねえ、お願い
〇:えぇぇ・・・
和:可愛い妹とアルノが熱中症になってもいいの?
〇:ん?
予想していなかった名前の登場に開かない目を無理やり開いてみると、廊下から控えめに顔を出すアルノちゃんと目が合う。
ア:お、おはようございます。お邪魔してます;;;
・・・・・・
・・・・・・
和:ね、お願い。お兄ちゃん
・・・・・・
・・・・・・
なぎめ、賢い・・・というかずる賢いやつだ。
そんなこんなで暑くて仕方ない夏休み真っ最中のショッピングモールに出掛ける事になった。
ーーーーーー
ア:せっかくのお休みにすみません
〇:いや、オレの方こそ、なんかごめんね
ア:いえ、私は嬉しいんですけど・・・
〇:なぎのやつ、あーいうとこ上手いんだよな
ア:・・・仲いいですよね
〇:いいのかな・・・
ア:朝からけっこう激しめなスキンシップだなぁーと
〇:まあ、うん;;;
ア:でもなぎみたいな可愛い妹だったら、絶対嬉しいですよね?
〇:うーん・・・兄としては年の離れた妹にかまわれるのはそんなに悪い気はしないけど//////
ア:好きなんですね、なぎのこと
〇:妹だからね
ア:・・・いいなぁ
〇:へっ?
ア:あ;;なんでもないです
和:ねー、2人でなにこそこそ話してんの?
〇:別になんでもないよ
和:怪しいなー。まあいいけど
・・・・・
和:それよりさー
・・・・・
和:なんかお腹空いたよねー
・・・・・
・・・・・
〇:はいはい、わかったよ
和:やった!お兄ちゃん話が早くてチョロくて大好きっ!
〇:おい・・・・
和:アルノ何食べたい?お兄ちゃんの奢りだから遠慮しないで
ア:えぇ、そんなの悪いよ
和:いいのいいの!彼女もいないおひとりさまは妹に課金する為に日々馬車馬の様に働いてるんだから
〇:お前な・・・
和:やっぱお肉かなー
はあ、こいつ・・・・
溜息をついて多少の文句があるアピールをしてみるが、実際のとこなぎの言う通りだ。
正直なぎにお金を使う事に一切の抵抗も無いし、喜んでくれるならこっちが感謝しないといけないまで思っている。
物欲も無いオレが唯一喜びを感じるお金の使い方と言っても過言ではない。
それくらいなぎの笑顔には日々救われている。
だからなぎが喜ぶなら、それでいいし。
今日はアルノちゃんも喜んでくれるなら本望だ。
〇:アルノちゃんはお肉好き?
ア:え、はい・・・大好きです///
少し恥ずかしそうに言う。
〇:じゃあ決まりだね
和:やった!おっ肉、おっ肉!!
ア:えぇっ、なぎテンション高っ
そんな2人を見ていると自然と自分の口角が上がるのを感じて、妹に無理やり連れ出される休日もそう悪くないなんて思ってしまう。
〇:じゃあ、行こうか。アルノちゃん
ア:はいっ!
しっかり正面から見る笑顔は、なぎと同い年には見えなかった。
【続く】
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