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幼なじみの咲月#7【コロコロゴロゴロ】

マジか・・・

自分の家の前でぴょんぴょんと跳ねながら両手をぶんぶん振っている姿を見て、車内で呟く。

車の少ない通りを減速しながらゆっくり近づいて車を寄せる。

車を降りるといつのまにか目の前で耳をピンと立てて尻尾をぶるんぶるん回しているさつき。

咲:おはよっ、〇〇

はい、今日も可愛い;;;


〇:おはよ;;;まだ時間早いだろ。外で待ってたのか?

咲:へへへへ

〇:着いたら連絡するって言ったよな

咲:うんうん、えへへへへ

はい、聞いてない・・・



咲:だって〇〇が迎えに来てくれるって思ったら家の中でじっとしてらんなくて

いやいや;;;

咲:なんかもう付き合ってるみたいだね/////

はい、また可愛い、反則だ;;;

毎週帰りには送り届けているが、迎えに来るのは初めてだ。

さつきの興奮がちゃんとオレにも伝わって、こっちも意識してしまう。



〇:と、とにかく次からは家の中で待ってろよ;;;

咲:ふふ、はーい

分かってんのか?ほんとに;;;




咲:ねえ、〇〇

〇:ん?

咲:テストがんばったよ

〇:ああ、お疲れ

咲:うん!!

・・・・・・

・・・・・・

肩をすくめて上目遣いでオレを見る。


〇:えっと;;;今?

コクコクと頷いてさらに一歩近寄ってくる。

〇:買い物終わってオレん家行ってからじゃ・・・

・・・・・

ダメか・・・



早く早くと言外に伝わる表情から今ここ以外の選択肢が無い事を知る。

さつきの家の前でこれをやるとは・・・


〇:えっと;;;いっぱい頑張ったな、お疲れ様;;

そう言って色素の薄い髪の上の方を撫でると耳を赤くして嬉しそうに目を瞑る。

咲:っふふふっふ/////

咲:頑張ったよね

〇:うんうん;;


この頭を撫でる行為がテストを頑張ったご褒美になっているらしい。

まあこんなんで喜んでくれるならいくらでも・・・

そんな事を思いながら毎回それなりの時間さつきの頭を撫でているんだが、外でずっとやってるわけにもいかない。

・・・・・・

・・・・・・

〇:じゃあ行くか;;

咲:あ、うん

いつもより少なめなご褒美に少しだけ寂しそうに頷く。

もう少しやってとか言われるかとも思ったが納得はしてくれたようだ。

まあ不足分は後で清算する事にしよう////

そんな事を考えつつ助手席側に回ってドアを開けると、今度は恥ずかしそうに頬が染まる。

咲:あ、ありがと/////いつもこれ嬉しい////

〇:んっ?

咲:な、なんでもないっ////


いつもよりコロコロと忙しいさつきの表情の変化に少々戸惑いつつ、座ったのを確認してゆっくりとドアを閉めていく。

咲:あっ・・・

完全に閉まる直前にさつきから微かに漏れた音が耳に届いてもう一度ドアを開く。

〇:ん、大丈夫か?

咲:あ;うんうん。大丈夫。なんもないよ;;

焦ったように顔も手もぶんぶん振る。

〇:どした?なんか忘れ物とか?

咲:ううん、ほんとに大丈夫だから;;;

さっきまでのテンションと明らかに違う。



本人も大丈夫だって言ってるしこのままにしておく事べきなのかもしれない。

散々我慢を重ねてきているからか、さつきが何かを我慢している事は分かる。

オレの考えがさつきにも色んな我慢を強いている。

それも分かっている。

それでも・・・

なんでも我慢してほしいわけではない。



〇:さつき

助手席のドアに手をかけたまま、膝を折って視線を合わせる。



咲:な;なに?

〇:ほんとはオレが察するべきなんだろうけど

〇:今さつきが考えてる事ちゃんと言ってくれないか?





咲:・・・でも

〇:なんかあるんだろ?

咲:・・・言っても嫌いにならない?


正直に不安を伝えてくれる大きな瞳に嘘はつけない。

〇:そんなの無理だから

咲:えっ


こんなに真っ直ぐにオレを想ってくれる5歳も年下の大切な存在を手放す気などない。

〇:なに言ったってもう嫌いになんかなれないし

〇:さつきの事ちゃんと分かりたい

〇:だから言って




ゆっくり頷いてから申し訳なさそうに伝えてくれた。

咲:テストで先週会えなかったけど

咲:・・・助手席

咲:・・・誰か乗った?




は、なんで?

という問いは脳内のマイシナプス達が速攻で解決に導いてくれた。

さつきの脳内が想像できて無用な心配をさせてしまったと思いながらも、あまりの可愛さに吹き出してしまう。

ふっ;;

咲:えっ?


〇:ごめんごめん、ちょっと失礼

短めのスカートからしっかり目に出ているさつきの脚の下に手を入れてシート位置を前に動かす。


咲:あっ;;

〇:この辺でよかったか?

咲:え;;あ、う、うん;;


〇:仕事で長い荷物乗せてさ。その時助手席動かしたんだよ

〇:だからここには誰も乗ってない

〇:戻したつもりだったけど

〇:ちゃんと戻ってなかったか、ごめんな




咲:なんで・・・

安心より申し訳ないが勝っている表情のさつき。



〇:ん?

咲:なんで謝るの?〇〇の車だし、私が勝手に不安になっただけなのに

今度は大きな瞳をたぷたぷに潤ませる。

今日はほんとにコロコロと忙しいな。



〇:なんでって



〇:ここはさつきの席だろ?


・・・・・


・・・・・



〇:さつき?



両腕が伸びてきてオレの後頭部をしっかりホールドする。

そしてそのままさつきの柔らかいふたつの膨らみに顔がめり込んでいく。

〇:ちょ;ちょっと/////!!!



咲:ぎゅうぅぅーーー/////

〇:ぎゅうって言ってる;;;


咲:ごめんね、〇〇

オレの顔をホールドしたまま申し訳なさそうに言うさつき。

〇:いや;;大丈夫だから/////


〇:えっと・・・離してくれない?



咲:ごめん、もうちょっとだけ・・・


それだけ不安に感じてしまってんだろう。

これは落ち着くまで待つしかないか・・・


覚悟を決めてからもさつきの腕は弱まらず、ぐりぐりぐりぐりと/////

柔らかすぎる感触と甘すぎる香りを顔面で受け止めつつ欲望に抗う。

天国すぎる我慢地獄タイムだ。




心頭滅却・・・


明鏡止水・・・


泰然自若・・・


無念無想・・・


無我夢中;;;


無理難題;;;;


絶体絶命;;;;;;





永遠のような天国と地獄を繰り返し、なんとか解放される。

こんな状況を人に見られるのはよくないが外でよかった。

家でこれをやられたら完全に理性を手放してトンデいたに違いない。



・・・・・・

・・・・・・


咲:ありがと/////

〇:いや;;ちゃんと言ってくれてありがとうな/////

余裕の戻ったさつきの表情に安心しつつ、無音の高速深呼吸を繰り返して全身の脈を鎮める。



〇:じゃ、じゃあ今日はテストのご褒美で焼肉でもいくか;;;

咲:えぇ!そんなのいいの?

〇:まあ、ご褒美だからいいだろ


大切な人の為にお金を使えるのは幸せな事だと思う。

それが5歳年下の愛しい存在であればなおさら。

もちろんなんでもかんでもお金を出したいとか、高価なものをという事ではない。

普段浪費をしない分、本当に価値を感じるものや時間にお金を使いたいという話だ。


〇:赤点回避、がんばったしな/////

そう言って色素の薄い髪の頂点に手を置く。

咲:んぅぅーー、嬉しいぃー

ん?

再び伸びてきた両腕に対し、首をすっと引いて間一髪で回避する。

咲:あっ;;

〇:じゃあ閉めるぞ;;;

咲:んぅぅー



さつきの不満げな視線を感じつつ助手席のドアを閉める。

車の前方から周り運転席に座っても、じいっーとこちらを見ているさつき。



〇:さつき、ベルトして

咲:うーん・・・椅子が

〇:ん?まだ違ったか?

咲:角度がちょっと。どこで変えるんだっけ?

〇:左の下にレバーあるんだけど

咲:うーん・・・

・・・・・・

咲:分かんない・・・

・・・・・・

〇:ちょっと前ごめん

身体をめいっぱい伸ばして助手席の左下にいるさつきの左手にオレの右手を重ねる。

さっきまで堪能していた胸に再び顔を埋めないように注意しながらなんとかさつきの左手を誘導する。

咲:これ?

えっ;;;;

次の瞬間限界までフラットになる助手席。

それからさつきに覆い被さるような姿勢のオレ。

やばっ;;;

起きあがろうとするオレの頭をさつきの右腕がしっかりめにホールドする。




咲:っふっふふ、ぎゅううううぅぅーーー////

またぎゅぅーって言ってる;;;

今度はさつきの細くて柔らかいお腹の感触を顔全体で感じて全身に血が巡る。

ナニコレナニコレ;;;



なんとか顔を離すと仰向けの真っ赤な顔が楽しそうに笑う。

咲:あー、逃げられちゃった/////

〇:あのな;;;


咲:これどう戻すの?もう一回教えて;;;;

そう言って誘うように左手でオレの右手を掴む。

〇:いや;;;分かってるだろ;;;;

咲:分かんない/////

はあぁぁ・・・


一線は超えてないものの最近会うたびにスキンシップが濃くなってる気がするんだよな;;;

こんなの毎回やられたらさすがにもたないぞ;;;;


〇:これだよ

再びさつきの左手をレバーに誘導すると、倒す前と同じ角度に戻る。


咲:へへ、直った

〇:おいっ!!

先ほどから自由過ぎるさつきの小さい顔をむにゅっと挟んでやる。


咲:ふぇっ



〇:うそつけ;;;

咲:ふぁい・・・ふぉめんなふぁい・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

素直に謝ったと思ったら、首の後ろを掴まれた猫の様に急におとなしくなる。

え、ナニコレ?めっちゃ可愛いんですけど;;;

このまま首の下でも撫でてやったら、ゴロゴロ気持ちよさそうに鳴いてスリスリと擦り寄ってきそうだ。




うーん・・・

いつかのウェイトレス姿もやばかったけど・・・

猫耳とかいいかも・・・




ほら、可愛い/////



うん、黒も捨てがたい/////


頭の中でさつきの猫耳写真集を完成させる。



困った・・・


これは白黒決められないぞ・・・


なんとか両方お願いできないだろうか・・・




咲:〇〇?

〇:えっ!!?

ふいに名前を呼ばれて正気に戻る。


妄想に夢中でいつの間にか手を離していたらしい。

不思議そうにオレの顔を覗き込むさつき。


咲:どしたの?

〇:な、なんでもない、なんでもない;;;;

分かりやすく声が裏返ってしまう。

咲:ウソじゃん!何考えてたの?

〇:ほら、行くぞ!ベルトして;;;

咲:ずるいぃー、ちゃんと言ってよおぉーー


すまんさつき、これは絶対言えないやつだ/////


朝からフルスロットルが過ぎるさつきにゴロゴロ転がされ続けた。

まさか出発するまでにこんな苦労があるとは・・・

そしてほぼ一話分を費やすとは・・・




ーーーーーー


ショッピングモールに到着してお目当ての焼肉屋さんに向かう。

まずは肉を食べて買い物はそれからだ。

ちなみに駐車場から手は繋いだまま。

そもそも外へ出る事が少ないが、近くのスーパーや町中華に行く時なんかは自然と手を繋ぐようになっていた。


咲:ねえ、今日何買うの?

久しぶりのお出かけに上機嫌なさつき。


よし、朝からいいように転がされたがこっからが本番だ。

けっこう前から脳内リハーサルをしてきた通りの展開に、練習してきた台詞の出番が来る。


〇:今日買いたいのは、さつきの・・・


「えっ、さっちゃんっ!!!?」

「えぇぇー、ほんまや!!!!」



本番はリハーサル通りにいかないものだ。

練習を重ねた台詞は無慈悲にかき消された。



【続く】





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