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腐れ縁の井上#3(完結)【なんか癪】

さくらさんからのメッセージを見てしまって

コイツとさくらさんとの出会いを知ってしまって

自分の醜い感情に今更気が付く。

それでも・・・

コイツの幸せを願って自ら身を引く昔からの友人。

それくらいになら私にもなれるはずだ。

せめて散り際くらいは潔く。

「はい、スマホ返す。たぶんデートのお誘いだったよ」

「早く返信しなさいよ、バカ・・・」


口内に鈍い鉄の味を感じながら持ち主に返却したスマホはすぐさま私のもとに戻ってくる。


「後で返すよ、今井上動画見てるじゃん」

何言ってんだ?コイツ・・・

「バカッ!私の事なんかどうだっていいでしょ。さくらさんだよ!早く返しなさいよ!」

「いや、デートなんてオレが誘われるわけないだろ。今までだって世間話くらいしかしてないぞ」

コイツはほんとにそう思ってるんだろうけど・・・さっきのはどう考えたって・・・


そう考えて戻ってきたスマホを無理矢理コイツの手に納める。


「いいから早く確認して!アンタみたいなバカには分かんないかもしれないけど!」

「こーいうメッセージを送るってすごく勇気がいるんだよ!送った後もずっとドキドキしてるんだよ!」

「さくらさんは今あんたの返事を待ってるの!だから早く返事しろ!!」

「・・・分かったよ;;;」

私の勢いに押されて受け取ったスマホを確認する。




「やっぱりデートじゃなかったぞ」

「え;;;」

「よかったら一緒に公園とかお散歩しませんかって」

「え;;うん;;;」

「え?ん?」

コイツ、やっぱりヤバいぞ・・・





「あのね・・・普通好きでもない異性をお散歩に誘うと思う?」

「あー・・・・・・・・・、、、、、、、、誘わないな、たぶん」

「って事は?さくらさんは〇〇に好意を持ってるって事でしょ?」

「なるほど!」

「デートの細かい定義は置いといて、さくらさんはそういうつもりで誘ってくれてるって事だからね」

「そっか、井上ありがとな。そういう事だよな」

コイツの幸せを願って自ら身を引く友人を演じるとは決めたけど・・・

キューピット役までやらされてるというか、進んでやっている自分が情けなくて笑ってしまう。


メッセージをもう一度確認して少し考えた後に迷いのない表情で返信をする。

「今、送った」

「うん・・・」


これでいい・・・


これでいいんだ・・・


これで・・・


「あんた、さくらさんの事ちゃんとエスコートしてうまくやんなさいよ。こんなチャンス2度と無いんだからね」

「あと着てく服とか大丈夫?あんたいつもジーパンだよね、悪くないけど黒のワイドパンツとかあると全体的に落ち着いたいい感じになるんじゃない?なんだったら一緒に見に行ってやってもいいけど。髪もできればちょっと切りたいなぁー、ねえデートの日っていつになりそうなの?」

心が考える隙を与えないように口が饒舌に語る。

心と身体がバラバラだ。

「デートは行かない」

「は?」

「ちゃんと断った。ごめんなさいって」

「え、マジで?」

「うん、マジで」

えっと、あのさくらさんからのお誘いをコイツが・・・



「はあああ!!;;;、あんたバカァ?」

「なな、なにやってんのよ;;;さくらさんだよ、あの;;;」

「そーだけど、本当にオレに好意を持ってくれてるならダメだろ、好きな人がいるのにそういうの行ったら」

「それは確かにそーだけど・・・ん?」


ん?


んんん??



「はああああぁぁ!!!???」

「すすすす、好きな人!?」

「え?」

「ああああ、あんた好きな人なんているの!!!?」

「落ち着けよ。別にいたっていいだろ」

「いやいやいや、なにそれ聞いてないんですけど!!」

「いや、まあ言ってないけど・・・聞かれてないし・・・」

「あんた、バカァ!!!!???」



万力と化した私の両の拳がグリグリと腐れ縁のこめかみを締め上げる。

「イタイイタイ;;」

「さくらさん以上なんてこの世にいるわけないでしょ!!!」

「それは人によるだろ;;;」

「誰なのよ、好きな人って」

「え;;イタイイタイ;;」

「だからアンタが好きな人って誰なのよ!!??」

「井上だよ;;イタイイタイ;;;」


ん?

んんぅ?

イノウエ・・・イノウエ・・・

井上って言った?

目の前のバカをグリグリやりながら思考がグルグル巡る。


「イタイイタイ;;;」

私の知ってる井上って・・・

「イタイイタイ;;;」

・・・・・・

・・・・・・

!!!!//////


「ふ;;;ふざけんな!こっちは真面目に;;;」

「こっちだって真面目だって;;一目惚れだったし」

「は、はあぁぁ!!!???」

「中学で初めて見た時から7年?8年?くらいずっと好きだから」


え?


どういう事?


押し寄せる情報量の波に飲み込まれてしまう。


余りの出来事に全身の力がダラっと抜けて、イスに座っているコイツの前でペタンと床に座り込む。


私の事が好き?

ずっと前から?

私が意識する前から?

・・・・・・

・・・・・・


はあ?


はああああ?


ふざけんなっ!!


ふざけんなよっ!!!



そんな素振り全然見せなかったじゃないか!


告白とかしないにしても


もうちょっと感情出してくれたっていいじゃん!!


こっちがどんだけ・・・





床についた両手の甲が濡れてハッとする。

あれ?

私泣いてる?

認識できたところでぽろぽろ勝手に落ちる雫は止まらない。



好きって言われて嬉しかったの?


違う


コイツの今までの態度への怒り?


これも違う



これはたぶん



安心だ。


私は安心してしまった。



ついさっき手放そうと決心したコイツを

コイツの隣にいる事を

諦めなくていいんだと知ってしまったから・・・




「え、え、え、井上;;;」

「ん?」

聞き慣れないコイツの声に座ったまま顔を上げる。

「ご、ごめん。泣くほど嫌だったか?」

え?

「すまん、もう好きなんて言わないから;;;」

「えっと;;;もうずっと好きだったから、実際好きじゃなくなるのはちょっと無理なんだけど;;」

「その・・・普通にするように努力するっていうか;;;」

「だから;;泣かないでくれ」



へえぇ・・・

コイツでもこんなに焦る事あるんだ。

長年一緒にいたのにこんな表情見た事なかった。

なんか・・・ちょっと面白いっていうか・・・かわいいじゃん・・・



「ふふっ」

「え、大丈夫か?井上?」

ポロポロと涙を零しながら笑ってしまった私がよほど不気味だったんだろうか。

膝をついて同じ目線の高さで心配そうに私を見る。


焦ってる焦ってる・・・

なんだ・・・コイツにも感情あるんじゃん・・・

そう思うとさらに笑えてくる。

「ふっふふ;;」

「お、おい;;」

まだ知らないコイツがいたんだな。こんなに近くに・・・

相変わらず止まらない涙と対照的に脳内がクリアになっていく。




よくよく考えたら私も素直に感情を出してこなかった。

コイツに気取られるのが怖くて、

まるでコイツに興味がない素振りを続けてきた。


なんだ・・・一緒じゃん

感情表現が下手くそなのはお互い様か・・・




「井上?」

手打ちにしようと思った瞬間に飛び込んできた聞き慣れた声に私の欲が刺激される。

ん?

お互い様?

いやいや、やっぱコイツの方がヤバくて罪深いでしょ。

うんうん、そうだそうだ。

なにせこっちは身を引く覚悟までさせられたんだ。

相応の責任はとってもらおう。



「おい!」

「は、はい;;」

ぼやけたままの視界で睨みつけると、ぴっと背筋を伸ばす。

「あんたのせいで泣いてるんだぞ」

「えっと;;;」

「早く慰めろ、バカ」

「え、どうやって;;」

「そんくらい自分で考えろ」

「えぇぇ・・・」

・・・・・

・・・・・

・・・・・

「えっと胸を貸すっていうのは・・・どう?」

「オレの胸で泣け的なやつ?あんたバカじゃないの?」

「そ、そうだよな;;;ごめん;;;」

身を引こうとするコイツの腕をぐっと引く。

「え;;」

「早くやれ、バカ//////」




お互いに慣れない動きに戸惑いながらゆっくりと身を寄せて

絶対的安心感を味わいながら好き放題に涙を流した。






涙ってこんなに出るんだなーと感心するくらいの放水を終えてから顔を離す。

「井上・・・」

心配そうに私を見ているコイツのシャツに大きなシミができていて笑ってしまう。

「はは・・ビチョビチョじゃん・・・」

「あのなぁ・・・」

「あははは、ざまあみろ・・・」

楽しそうな私に安心したようにふっと笑ってから、いつになく真剣な表情でじいっとこっちを見る。

・・・・・・

あまり感じた事の無い間に、ん?コイツ何考えてんだ?

なんて考えている私の脳に聞きなれた声が届く。


「なあ、井上・・・」

「今までこういうのは避けてきたんだけど・・・ちゃんと確認したい」

「オレが好きなのは井上なんだけど・・・」

「井上は・・・好きな人いる?」




中学以来ずっと拗らせてきた想い。

ここで私も素直に気持ちを伝えてコイツと


うんうん・・・


それは思う・・・

思うけど・・・



こっちは長年モヤモヤさせられてきたのに・・・

それをこんな一瞬で?

なんかもったいないっていうか、なんか癪だ。


こんな簡単に結ばれてやるもんか//////




「言うか、バーカ//////」

「ええぇー、オレ言ったのにずるくない?」



散々待たせた罰だ。

もう少しだけ

私の気が済むまで

いっぱい考えてモヤモヤしろ!!


私の事を//////



「うっさい、自分で考えろ、バーカ!!!」





机の上のスマホを奪い取ってベッドにバサっと帰還する。

ふっ、やっぱり好きだな・・・

一度手放しかけたそれはより一層尊いものになった。







コイツのベッドも

コイツのスマホも

家主はコイツだが、私がこの部屋にいる間は私のものだ。

コイツのスマホは色々無料期間が終わったら持ってる理由はなくなるし・・・

私の気が済んだら関係性はちょっと変わるかもしれないけど///


私は一等地のベッドでアニメくつろぎタイム。

コイツは壁際の薄い机で読書。

お互いに興味のない素振りで・・・



こういう私達の過ごし方。

こんな時間はきっと今後も続くんだろう。




そんな油断しきった私の思考に飛び込んできたのは

突然のスマホ通知

ではなくて・・・


腐れ縁の聞きなれた声だった。



「なあ、井上・・・」




「パンツ見えてるぞ」


【終わり】

最後まで読んでいただきありがとうございました。

にゃぎにいっぱいバカって言われたくて書いてみました。
お時間のある時に一気読みしていただけるとより楽しめると思います。
気に入ってもらえたら嬉しいです。
感想もらえたら喜びます。



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