「千年女優」感想          ~自分の人生を書き換えろ~

映画「千年女優」よりも面白い作品はたくさんあるが、これ以上に自分が好きだ、と思える作品あんまりない。

テーマがいい。今敏監督についてそれほど詳しいわけではないけれども、虚構と現実というテーマは自分の興味のある分野に近い。

虚構と現実と言ってしまうと、わかりにくいので、言い換えると、客観的な「現実」と自分の頭の中で「現実」だと思い描いているストーリー、物語の違い、という話をしているように思う。

前作の「パーフェクトブルー」では、「推しが解釈違いの行動をするのは許せない」(曲解)と、「アイドル」としての「私」と現実に生きる「私」の境界線があいまいになる話だった。(そう私には見えた)

今回は、「ずっと鍵の君を追っていたけども、会えなかった私」から、「あの人を追いかけている私が好きだった私」に物語を書き換える話だと思った。

人はいくつになっても変われるというが、死の間際でも自分自身を変えることができると考えると感慨深い作品だった。

というよりも個人的に「自分の頭の中にだけ存在するあの人」を必死で追いかけるというモチーフがすごく好きだ。
ずっと初恋の人の幻影を追いかけているみたいな。
「失恋ショコラティエ」もあるいはそういう話だった気がする。

劇中に出て来る社長とカメラマンがいいよな。
最初は冷めたカメラマンの視点で物語を見ているけども、だんだん社長の方に感情移入して千代子さんを守りたくなる。多分、女優としての千代子さんに私が失ってしまった純粋な気持ちや子供の頃の気持ち、普段胸の奥にしまっている気持ちを見いだすから、応援したくなるのだろう。

千代子さんは作中で「年をとった私」をあの人に見られたくない、と言っていた。
そんな千代子さんが「一番大切なものを開ける鍵」を持ってあの世に行く、というのはできすぎるほど、よくできた話だ。
だから非常に好きなんだけども、無粋でもいいから、最後に千代子さんが満足して逝くのではなく、最後に社長に自身が主役の映画を撮らせるラストでもよかったんじゃないか、と思う。

いいなと思ったら応援しよう!