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おばさんJK 《エッセイ》

 自分の書いた小説が、とてつもなくつまらないものに思えることがある。普段から「自分の小説最高!!」というような自信があるわけでもないが、こんな時は僅かな自己肯定感、いや、自作肯定感が消え失せてしまうのである。
 そもそも私が今まで書いたエッセイは、大抵私の独白であり、今読んでみるとこんなもの他人が見て何が面白いんだと思えてくるのだ。
 ……さて、前置きはこのくらいにしておこう。とりあえず、記憶の奥から最初に手に触れた思い出を引っ張り出してこようと思う。

 これはほんの数日前の話だ。私はネット上で知り合った男性と、他愛もないお喋りをしていた。仮にその男性をシンさんと呼ぶことにしよう。
 シンさんとは数ヶ月前にネット上の知り合いに紹介されて出会い、それ以来、紹介してくれた知り合いよりもよく話すようになった。細かな配慮ができる方で、些細なことでも「さっきはごめん」「ありがとう」などと言葉にしてくれて、話している時に居心地がいい方だ。
 シンさんは今年四十三歳になるらしく、大人らしい落ち着いた雰囲気を纏っている。そのくせ流行語などもちゃんと取り入れており、年齢を聞かなければ大学生かと思ってしまうくらいだ。
 そのシンさんと、そう確か、流行に乗れないという話をしていただろうか。
「私流行に乗れてなくて、流行りとか全くわからないんですよね……」
「そうなんだw」
 シンさんはよくwを使う。私は笑でさえ躊躇してしまうというのに、流石である。
 ここでいう流行は私の世代なら使ってるだろう、それな、だとか、とりま、などの流行語や、あるいは韓国風ファッションだとかアニメだとかを指す。乗り遅れているのでうまい例が出てこなくて申し訳ない。
 私が流行に乗り遅れている理由は、いくつか思い当たるものがある。一つに、うちには小学生の頃からテレビがないこと、二つに、新聞をとっていないこと、三つに、スマホを持ったのがつい最近だということ、四つに、私が柔軟に変われないこと。
 恐らくこれらの理由で、流行を無視した私という人間ができあがったのだ。
 まあ、理由はどうでもいい。私が驚いたのはその後のシンさんの言葉だった。
「でも確かに、よるさんと話してると、たまに俺よりひとまわり年上の人と話してる気がするんだよね」
 一瞬、大人っぽいという意味かと思って喜んだのも束の間、あることに気づく。
 ひとまわり。ひとまわりというと、ちょうど母の年齢なのだが。大人っぽいの域を越している。いや、これは、恐らく……
「……ありがとうございます(?)」
 おばさんっぽいってことでは?
 なんて答えるのが正解かわからず、お礼を言ってみた。家で使うように、他人と話してる時でも「あら」とか言っちゃったのが敗因かしら。それとも少し前に他の人も交えてアニメや漫画の話をしていた時に、話に乗れていなさすぎる私に気づいたからかしら。略語を使われるといつも意味を聞き返してしまうのも理由の一つかもしれない。
 とは言え、私はまだピッチピチの十七歳である。れっきとした平成生まれ、いわゆるZ世代というやつなのだ。
 昔から大人っぽいねーと言われることは多く、褒め言葉だと思って天狗になっていたが、もしやおばさんっぽいと言いたかったのでは……オブラートに包んでくれていたから気づかなかっただけなのかもしれない。
 さて、とは言っても私はさほど落ち込んでいるわけではなかった。今更流行語を喋るなんてことは、私にとっては巻き戻ってしまったラップを剥がすくらいに困難だ。ならばもう、おばさんとして胸を張るしかないではないか。流行語は無理だとしても、流行の漫画やら服やらは取り入れられるかもしれない。そうしないと話についていけないし。
 とりあえず、わけわかめだとかシャレオツだとかあたり前田のクラッカーだとかの死語がポロッと出ないように気をつけよう……
 シンさん、教えてくれてどうもありがとう。一旦昭和から平成への脱出を試みることにします。そうは問屋が卸しませんよと思うかもしれないけど、やってみるのは自由だもんね。
 
 

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