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コピー 《エッセイ》

 私は母のコピーです。いえ、私じゃなくとも、きっとほとんどの人は誰かのコピーです。私のように誰か一人の特定の人をコピーする場合もあるでしょうし、何十人もの人の気に入った部分だけ少しずつ摘み取って自分のものにする人もいるでしょう。
 私はマザコンです。最初はそう思っていなかったのですが、つい最近知人に指摘されて気がつきました。私が母をコピーするようになったのは、ただマザコンだったからではありません。私が母から認められたくて、母に愛されたくて、自分に自信を持っていたかったからです。母が好きな食べ物は好きになりますし、嫌いなものは嫌いになります。服やアクセサリーのセンスも、私は母を基準にしています。だからと言って、どれが母の好みか見極められるほど私は自分の目に自信がないので、一人で買い物に行くと服一つ買えません。せいぜいシンプルなピアスくらいです。家族と買い物に行く時は、必ず母に意見を求めます。高校生にもなって自立してないと思うでしょうが、正しくその通りです。そろそろ親から離れて自分が確立してくるはず、と私も思います。
 ちなみに、コピーしたのは母の好みだけではありません。母の思想も、私はちゃんとコピーしました。数年前まで、母は自然派志向だったので添加物の入った食べ物は出なかったし、おやつは人参丸齧りとかでした。もちろんドライヤーで髪を乾かしたりしないし、コンビニに寄って小腹を満たすこともありません。皆さんの家に揃っているであろう調味料の数々も、数年前まではほとんど見たこともありませんでした。それがここ数年、母が急に変わりだしました。今までの思想は間違っていたとばかりに、考え方を変えていったのです。家にカレールーで作ったカレーや、スーパーで買った冷凍餃子が並び、コンビニだってしょっちゅう行きます。スマホだってたくさん見るし、家に虫が出たら殺虫剤だって使います。
 もちろん、私がそれにすぐ順応できるわけありません。正しいと思っていたことがある日突然覆されたら、皆さんだってきっと戸惑うはずです。母が思想を変えてもう数年経ちますが、私は未だに以前の母のコピーのままです。今でもルーを使わない汁っぽいカレーが恋しくなりますし、ドライヤーは苦手で今でもほとんど使いません。私だけ自然派志向に取り残されて、どこか新しい場所に向かう母の出来損ないのコピーにしかなれません。

 さて、どうして私が急にこんな話を始めたのかというと、自分の文章を読んで個性について考えていたからです。私の文章には私の個性があるでしょうか? 私だけの色があるでしょうか? いいえ。おそらくないでしょう。葡萄の実を摘み取るように、自分の内側から個性をつまみ出せればいいのですが、そう簡単にはいきません。
 私は自分に自信がないのです。母に認められる考え方でなければ、文章でなければ、怖くてとても表には出せません。私の文章は当たり障りない、と思う方もいるでしょう。そりゃそうです。当たり障りないところだけ書いているのですから。自分の奥深くにある何かには、見て見ぬ振りをして蓋をしていたいんです。それではだめだとわかっていても、せっかく書いた文章を何度も何度も書き換えて、核心には触れないように細心の注意を払っているのです。

 これは全く自慢ではないのですが、私はよく人に「優しいね」と言われます。多分、相手のことを否定せず、なんでも受け入れるからです。それは私が優しくしようと思ってしているわけでも、相手のためを思ってしているわけでもありません。ただ、私には何が正解なのかわからないので、その時その時の相手の言葉が全て正解に分類されるだけなのです。ちなみにこれは優しさではありません。優しさが果たしてどんなもののことを指すのか、私にはわかりませんが、おそらく相手のためを思った行動のことではないでしょうか。
 私はほとんど何もわからないのです。皆さんもそうかもしれませんし、そんなことないかもしれません。私は意志がほとんどないのです。あるとすれば、それは母のコピーです。母の意志なら、私は自信を持って話せます。
 でも、これでいいわけがありません。私は母ではないですし、あと一年で成人するのですから、こんな母の腰巾着みたいなままではだめでしょう。文章を書くのは大好きです。けれど、今の私にはきっと今以上の作品は書けません。これから文章力をいくら上げたって、いつか越えられない壁が現れます。
 すぐには変えられません。もう十年以上母をコピーしてきたのですから、そう簡単に自分を見つけられることはないと思います。でも、少しずつ私を確立していって、少しずつ自分の内側の蓋をこじ開けて、今よりも少し、母のコピーじゃない自分に自信を持てたら、もっと力強くて芯のある文章が書けるようになるんじゃないかと思います。

 今回はちょっと話しすぎましたね。後悔して消してしまう前に、公開しておこうと思います。
 この文書を読んでくださった皆さんの一日が、楽しくて素敵なものになりますように……
 ありがとうございました。

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