「太陽と月のあいだ」(4)取り戻したい記憶
まだ〈ケータイ〉なんて便利なものが普及していなかった、東京で独り暮らしを始めて数年経ったある日の夜
私は自宅への道すがら、[あること]を急に思い出した
それは、“どうして今の今まで忘れていたのだろう!?“というような、物凄く驚く内容であり、そしてワクワクする経験の記憶だった
興奮した私は、すぐ近くに見つけた公衆電話に小銭を入れると、この手の話を信じて面白がってくれる友人の番号を押した
「あのね、どうしてこんな凄いコト今まで忘れてたんだろうって思うんだけど」
「うん」
「・・・」
「・・・」
出てこなかった
たった今思い出したばかりのことを、話そうとした途端、また失ってしまった
でも、思い出した時の興奮と、絶対これは友人が面白がってくれ不思議がってくれると、いてもたってもいられない気持ちでTELしたことはしっかりと覚えている
ただ、その〈内容〉だけがストンと抜け落ちてしまったのだ
ビックリした私は、とにかく何でTELしたのか、そしてまたそれが消えてしまった事を友人に話した
話ながら、『もしかしたら話してはいけなかったから、もしくはまだその時じゃなかったのかな』という考えが浮かび、その事も友人に伝えた
友人は静かに全てを聞いてくれ、
「いつか思い出すんかな?」
と私が思っていることを呟いた
あれから随分と時を重ねたけれど、未だにその「いつか」がやって来ていない
今日も私は「いつか」を待ちわびている
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