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ミーナ

あらすじ・・・時は、2155年。某大都市。『環境優性法』により、社会に適応出来ないと見なされた弱い人間は『ジョーカー』というマシンによって、抹殺される法律が施行されていた。
    そんな中、とある地味なOLは世界に嫌気が差しビルの屋上から飛び降りようとした所で、数奇な運命が始まるのだったー。

『私は、あなたを護る使命を課せられた護衛用アンドロイドです。』


1、邂逅

    西暦2155年、某『グリーンキャピタル555番区』ー。在り来りな味気ない街並みは、最先端の科学技術により超巨大都市へと変貌を遂げたのだった。富士山位の高さだと思われる超高層ビル郡は、無機質に睨みをきかせどっしりとそびえ立っていた。そこは正に史上の楽園であった。
    しかし、その反面、地球に過負荷が掛かっていたのも事実である。世界中が便利にユートピアと化した裏側では、地球温暖化が大分進行していたのだった。地球の平均気温は10度上がり、小さな島国は次々に海に飲み込まれてしまったのだ。そして、人類は巨大なドームを造り、夏場はそのドームの中で暑さを凌いで暮らしていた。また、貧富の差が拡大し、力ある者は世界を牛耳り蹂躙しつくしていた。非力な者達は明日の稼ぎや、アンドロイドにビクビク怯えながら暮らしていたのだ。
    そのアンドロイドとは、とある法律によりお荷物だと判定された者を1人残らず駆除する使命を与えられた、いわゆる『ジョーカー』である。
   それは、温暖化対策の一環であり、社会不適合と認定された者達は、抹殺される運命にあるのだ。
    
     そんな中ー、OLの財部アリカは、とある高層ビルの屋上で自殺を図ろうとしていたのだ。昔から何度も自殺を試みてきたが、未遂に終わる、または邪魔が入るー。そうしている内に時間ばかりが過ぎていき、いつしか心は停滞したまま歳を重ねてしまっていたのだ。いつも心の中では死ぬ決心がついており、脳内であらゆる自殺方法をシミュレーションしている。しかし、中々決心がつかないでいた。
    彼女が自殺したい理由は、3つある。1つ目は、自分は宇宙人ではないかという謎の疑念に囚われる事である。アリカは、幼少の頃より人間社会で溶け込めずしかも周りに理解者は誰もいなかった。2つめは人間は嫌いだという事だ。何故なら醜いからだ。表向きは綺麗な言葉をツラツラ並べ立て、みんなに良い顔して裏では紙切れや雑巾のように人を見ている。そして、3つめはー、弱者切り捨てー。15年前に『環境優性法』という滅茶苦茶な法律が施行されてから、アリカの生活は一変した。親はアンドロイドに殺され、まだ10歳だったアリカは脳に強いトラウマを植え付けられた。この法律は、前途の通り社会に適応出来ない弱い個体を切り捨てるという、冷酷非常な法律である。
    そんなアリカの仕事は、『環境優性法』のデータ管理である。抹殺された社会不適合者の人数や個人情報、『ジョーカー』達を管理し、上に報告するのだ。元々は、アリカはアンドロイドに支配させるシステムや温暖化に強い懸念があり、環境開発課へ配属された。しかし、今年から、現在の『サイバーデータ管理課』へと配属され、部署でこうして働いているのだ。その部署の社員が、次々と自殺や退社で居なくなった為である。初めは不服であったが、月日が経つに連れ親の仇を打つ目的へと徐々に変貌していった。
    しかし、最近では状況は好転するどころか悪化の一途を辿っていた。部署の情報は極ひと握りの上層部にしか分からなく、しかも同僚が次々と辞めていき、そして、ほぼ毎日人が殺されていくー。そんな救いようのない状況からアリカの精神は病んでいき、心はいつしか空っぽになり停滞してしまっていたのだ。
    アリカは、会社のビルの屋上に身を乗り出した。そして、手すりをまたがりヒールを脱いだ。ゆっくり深呼吸し、空を見上げる。全てが涼しげであり爽快である。

ーああ…こんなに清々しいのは初めて…

   アリカの胸に詰まっていた鉛は徐々に溶けていき、心身共に軽くなった。
    そして、アリカは飛び降りた。アリカは真っ逆さまに落下していく。
ーと、その時だった。アリカの身体は宙吊の状態でピタリと停止した。何か硬いものに手足が引っかかったような感覚を覚えた。恐る恐る目を開けて見ると、透明なワイヤーが四方八方に張り巡らされておりアリカはそれに引っかかったみたいである。アリカは、そのワイヤーを伝い仕方なく向こうの低い建物の屋上へと降りた。
「いてて…一体誰よ…こんなの…」
アリカは、ワイヤーを払い除け屋上内を散策した。
   すると、そこにはゴスロリのメイド服の女性がうつ伏せになって倒れていたのだ。ワイヤーはそ女性の両手の指先から出ていると思われる。アリカは、ゼェゼェしながらも恐る恐るその女性の元へと歩み寄った。
 
  ーこれは、、、、!?

  この女性は人ではなくアンドロイドであった。しかしながら、かなり精巧に造られている。肌や髪の材質や指先がまるで本物の人のようである。アリカは、仕方なくそのアンドロイドを起こす事にした。
「すみません…大丈夫、じゃないですよね…」
しかし、そのアンドロイドはピクリとも動かないー。何度も声をかけ揺すったが、そのアンドロイドは死んだように倒れているー。その独特な無機質感から、アンドロイドだとは直感では分かったが、今までにないくらい、かなり精巧に造られている。普段見るアンドロイドは、姿は人間のようであっても関節部分から見える配線やや身体や髪の材質からアンドロイドのそれだと分かる者ばかりである。しかし、今目の前にいるこのアンドロイドは少し離れて見ると人間だと間違えてしまうー。
   アリカは、そのアンドロイドのシリアルコードを検索しようと、特殊なゴーグルをかけた。しかし、ゴーグルは、反応しないー。

ー一体、誰が造ったのだろうかー?

   アリカは眉を八の字にすると、部署へと電話で報告した。
    アンドロイドは『サイバーデータ管理課』へと輸送され、くまなく検査が行われた。
「ううむ…パソコンデータと照合してもや出てこない…一体、誰が何の目的で…」
「まるで、遠い未来からやってきたみたいですね。」
研究所のメンバーは、台で眠っているそのアンドロイドを凝視しながら眼を細めていた。

   アリカはその日の夜ー、夢にうなされていた。ここずっと忙しく心身の疲労が蓄積していったからだろうー。
    漆黒と銀の炎に包まれ、広い倉庫の中で父と母は逃げ惑いアンドロイドに瞬殺されたー。自分だけ物陰に隠れて無事だったー。アリカは、悲しより恐怖で戦慄していたー。全身は黒く、頭部は犬首から下は人型で黒いマントを身に付けた『ジョーカー』1体が右手を広げそこから漆黒と銀の光を発し、撃ち殺したのだったー。彼らは全長2メートル程ある巨体でガッシリした身体つきをしていた。そして、ギラギラ光る赤い眼でくまなく薄暗い辺りを見回した。他に2体の仲間が姿を現した。そして、カチカチ音を響かせながら倉庫内を闊歩した。
    アリカの心臓はバクバク激しく太鼓が鳴る音の様に、鳴り響いた。瞳孔は小刻みに揺れ動きそして、全身が何故か重苦しかった。
    それは、悪魔の5分間だったー。悪魔の足音は、ゆっくり倉庫内をこだまし冷気と邪気を発している…アリカは身を潜めひたすら祈る事しか、出来ずにいたのだった。


  



    

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