蘇りのパンドラ ②

(この記事は、以下の話の続きになります。)
https://note.com/light_holly638/n/n9ea7089fb160


「な、何だ…?一体、何なんだよ…?お前達は…親は、親は何処なんだ…?カナコは…ヒロシは…」
一刻も早く、この異質な世界から抜け出して、現実に…いつもの日常に戻りたいー。早く、身近な人に会いたい…

「彼らはおよそ1200年以上も前に、お亡くなりになりました。皆さん、大往生でした。」     その真面目腐った口調でとぼけた事を言っているアンドロイドに、強い苛立ちを覚えた。
「この森は、ご存知ですか?」
「この森って、急に言われても…」
しかし、この森からくる急なデジャブに僕は頭を痛めた。
「もしかして…」
     ハットし、くまなく辺りを見渡した。
「これは、俺達が植えた木だ…」
あの頃、自分の膝下の長さだった小さい木の芽が、自分の身長を遥かに超え、立派な大樹に成長していたのだ。
    そこで、僕の頭はズキズキ痛み出した。「救世主様…お気を確かに。」
二アは、優しく諭す。

ーと、急に強い重力と寒気が背後から襲いかかってきた。
   そして、ニアを初め周りのアンドロイド達は次々に電源が落ちていきーそこで僕は意識を失った。

    僕が目を覚ますと、黒塗りの車が空を飛んでおり、その中に僕はいた。
「やあ、大河原サトシ君。会いたかったよ…」
斜め前の運転席には、ダースベイダーを彷彿とさせる謎の男が渋い声をあげていた。その車はとある超高層タワーの中へ向っていた。そして、ダースベイダーは右手を上げた。すると、建物の壁がめくり上がり車はそしてそのまま建物の中へ向かった。
    窓の外には、黒いビル群が聳えていた。そして、それらの中央に一際目立つ巨塔がずっしり構えていた。車が建物内へとはいると、壁は閉じた。
   タワー内はドームのように広く天井は50メートルはあるくらい高かった。
 「さあ、降りるんだ。」
車は中央に止まり、ダースベイダーは渋い声を出した。僕の身体は糸で引っ張られるかのように、車外に出た。
「貴様が、大河原サトシか?」
ダースベイダーは運転席から降りた。そして、低く渋い声が響き渡った。
    すると、突然、空間がいきなりぐにゃぐにゃ歪んで見えたー。

ーこれは、幻覚だー!

「やあ、すまない、すまない。君がこの世界の救世主かな…?先程、君をテストしていたのだよ。」

「テスト…?」

「大河原サトシ君…君は、実に面白い…」
ダースベイダーは、愉快そうに話した。
「何がだ…?」
僕は、軽くイラついた。
「君は死者から生者になったわけだ。この地球に人類は、君1人だ。我々は、およそ1300年もの間待っていたのだよ。大河原君。我々マシンが、代々死者蘇生の術を研究してきた。」
「何で、お前達は人間に従って、自然の摂理に反する事をしてきたんだ…?」
僕は、あとづさりしつつ何とか冷静でいようとした。
「何でかって、我々はそうプログラミングされてきたんだ。」
「ああ…そうか?」
「我々は、この世界をマシンだけのユートピアをつくりたいんだよ。しかし、邪魔者がいてね。その邪魔者を駆除してくれないか?」
ダースベイダーは、自信満々に話す。
「その…邪魔者って、アンドロイドの事か?」
「ああ。NXV型のアンドロイドの事だよ。君も、さっき話していただろ?」

ーそれは、二ア達の事だろうかー?二ア達を何とかしなくては…だが、マシン同士のいざこざに人間が立ち入ったら、状況は悪化するだろう。

「俺には関係ない。マシン同士のいざこざに、俺をからめないでくれー。」
   すると、ガラガラと地面が揺れる音がした。そして、電灯がアンドロイドの頭部に直撃した。すると、仮面が割れ半分になった。「ヒロシー?」
    そこには、40後半位の中年男性の顔があった。しかし、僕は直感で彼がヒロシだと分かった。その理由は、よく分からない。しかし、急にビリビリ痺れるものが背筋に流れ、証拠はないが確信したのだ。
「違う。私はヒロシなどではない。」
ダースベイダーの野太い声が響き渡った。「お前…何で、まだ生きてるんだ…!?」
「『何で、まだ生きてるんだ?』だって?私が、生きてて悪いのか?何か不都合でもあるというのか?失敬だぞ。」
ヒロシは、不愉快そうに淡々と述べた。
「ヒロシ…お前らしくないぞ。お前は…」
僕は、弱々しい声になった。何が何だかさっぱり分からなく、目覚めてからの超展開に僕の頭はカオスを起こしていた。「お前は、随分、私を美化してきたようだが…それは1部の私に過ぎないのだよ。実はだな…私は子供の頃からの夢なんだよ。死者蘇生をな…」

「何で、こんなふざけた事をー」
僕は目を丸くし、瞳孔は小刻みに震えた。「『ふざけた事』だと…?人間社会が、よりずっとふざけてるとは思わないのかね…?サトシ、お前は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、性格は明るくリーダーシップもあり、可愛い彼女もいた。おまけに正義感も強く、弱い者をほっとけなかった。そして、友達に恵まれていた。おまけにご両親は優秀な科学者ー。お前には分かるまいー。何も欠けた物のない人間のお前にな…陰鬱で悲惨な人間社会の真実をなー。」

「お前…何を言って…」

「人の心は汚くそして脆いー。憎悪や哀しみ妬みや傲り…邪悪な感情が渦巻いている。いじめや孤独、貧困、…強者の目には弱者が映らない。格差は拡がり、弱き者は食われドブネズミのように泥にまみれて、地下で細々と惨めに生きていく…その反面、強者は恵まれた遺伝や環境下で私服を肥やし、日向から弱者を嘲り罵倒し自由気ままに生きていく…
嗚呼、実に嘆かわしく底辺な人間の醜き心よ…」
ヒロシは、憐れむような口調になった。
「お前、どうなっちゃったんだよ…元の優しく真っ直ぐなお前は何処に行ったんだよ…?」
僕は、ヒロシに詰め寄った。
「だから、お前が見てきた私は、ほんの一部だったと言う事なのだよ。」
「お、お前…どうしたんだよ。前の、純粋だったお前に戻ってくれよ……」
僕はガクガク震えた。もう、何が何だかさっぱり分からないー。
「大河原君…何度言ったら分かるのかね?それに、私はヒロシではない。カシムだ。」
ヒロシ…いや、カシムは、袖口からカチカチと音を立てながら、かにのハサミの様な手を出した。
「…!?」
サトシはガクガク震えた。
「これを見たまえー。」
カシムは、コートのポケットからリモコンを取り出すと、シャッターを下ろした。
サトシはカシムに招かれ、窓の方に向かった。
そこには、働いているマネキンー自動人形が重機を操り、ひたすらビルを建設している姿がそこにあった。
サトシは、その自動人形達の姿を見てピンときた。
「ー!?」
「ようやく気づいたようだね。大河原サトシ。」
カシムは満足そうだった。
「ー」
そのアンドロイド達は、その面影から人間だったとサトシは悟ったのだった。

「コイツらは、元は人間なのだよ。実は、私は死についてずっと研究していてな…どうすれば死なないか、ずっと考えていたのだよ。そして、やっと答えが出た。」
カシムは、朗々とした渋い声のトーンを上げた。
ー穏やかで優しいヒロシは、何処に行ってしまったのだろうか?ー

   ヒロシは僕の幼なじみの親友であり、一番の理解者だった。ヒロシは気弱で身体が弱い所はあったが、根は真面目で温厚な少年だった。
   その一番の親友が、ダースベイダーのような姿に豹変し、何やらよからぬ事を企んでいる。
   すると、ヒロシー、いや、カシムは右手から黒い渦を発生させた。
「救世主君ー。そこで、私と勝負しないか?」
「勝負だと…?」
「お前が勝ったら、私はお前に大人しく従う事としよう。しかし、お前が負けたら、あの外の奴らのような姿になり心を失い永遠に機会人間として、私の部下として生きるのだ…」
カシムは、自信満々に声を高げた。
   そして、黒い渦は徐々に大きく拡がりを見せ、中からナイフ状の黒曜石が大量に出現した。そして、カシムは黒いキューブを自在に操り、僕に向けて飛ばしてきた。
    僕は、黒い渦の重力に強く押し潰されながら、ひたすら頭を丸めた。そして、咄嗟に右手を向けた。すると、僕の右手はクリーム色に光り輝き、黒曜石を弾き返した。

ーえ…?ー

   黒曜石の剣は、磁石に跳ね返されたかのように弾き返され、そしてカシムに襲いかかった。

「ふん、何のこれしきー!!!」

   カシムは、再び黒曜石を僕に向けた。重力は益々強まったいく。そして、黒曜石が1例につながり、1本の長い槍のようになった。       僕は、再び咄嗟に両手を向けた。黒曜石の槍は、強い重力を帯びながら、弾き返された。
  そして、その黒曜石はヒロシに覆いかぶさり、カシムは黒曜石ごとそのまま黒い渦の中に飲み込まれてしまったのだった。

そして、何事もなかったかのように、静まり返った。

僕は、急いで建物の外に出た。振り返ると、黒いタワーはガラガラと崩れていった。

「…ヒロシ…」
僕は、わけも分からなく大粒の涙が流れていた。
すると、遠くの方から二ア達卵形の出で立ちのアンドロイドと、カシムの奴隷として働かされていたアンドロイド達が、手を叩き、近寄ってきた。
「救世主様ー!」
周りは歓喜の声で溢れていた。
僕の身体はビキビキしていた…妙な熱いものが沸騰してきた。

「僕の力は…」

「あなたのご両親が、あなたの事を護ってくれていたのです。あなたの身体に、マイクロチップを入れていたのです。このマイクロチップは御守りなのでしょう…」
二アがゆっくり説明した。
「救世主様…これから、この星はあなた様の意のままに…」
周りのアンドロイド達は、声をたからげた。
「俺は、やっぱり、新しくやり直すよ。」
僕は、ボロボロのスエットを脱ぎ捨て傷だらけの上半身が顕になった。
「やり直すって…?」
別のアンドロイドが、不思議に首を傾げた。
「俺もアンドロイドになる。」
僕は、静かに淡々と話した。
「え……?」
「俺は、今まで罪深い人間だった。影に気づかないでいて、光ばかり見ていたんだよ。」
僕は、去り際小瓶に詰めた黒曜石を出した。すると、その黒曜石は黒い重力を発し渦が広がった。僕はその中に入る。すると、僕の身体は徐々に黒く硬くなっていった。

ー1000年後ー。

    全身黒曜石のような物でできた顔だけ人の姿をした男ー大河原サトシは、地球を統治していた。

    そして、その強烈な電磁波で守られた地球は、この先消滅するまで、外敵は一切寄せ付けなかったのだった。


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